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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「多いでっせ、もう一遍言わはる方は」
「有難うございます・・」

さっきと何も変わるワケは無いのだが・・・何故か去りがたいのは、ボクも恭子も同じだった。

「二度目でも、良かね」
「うん、飽きない・・なんて言ったら失礼だけど飽きないな」

そんな恭子とボクの気持ちを知ってか知らずか、弥勒菩薩は頬に手を当てて1200年前と変わらぬ微笑みを浮かべていた。



暫くして弥勒菩薩との2度目の逢瀬を終えたボクらは、霊宝殿を後にしてユミさん達が待つ楼門に向かった。

「恭子が好きな理由、何となくだけど分かったよ」
「そうやろ?惹かれたやろ、アンタも」
「うん、何か・・・あの微笑み、あれ、何とも言えない位いいよね」

そんなボクの言葉に、恭子は嬉しそうに言った。

「そうっちゃ」
「うちも初めて写真で見た時に、ズキってきてしもたけね」

「良かったっちゃ、アンタも好きになってくれて」
恭子が手を繋いできた。
「いや・・・本物見たら、誰だって何かを感じるんじゃないか?」
ボクは心持強く、恭子の手を握った。

「だから・・」
多分、昔から見た人の殆どは何かしらを感じて・・・だから、大切にされてきたんだろうし、国宝になったんだろうな・・・とボクは恭子に言った。

「うん、うちもそう思うっちゃ」


「おいおい、お前らよ」
ボクらが話しに夢中になって、楼門の手前まで歩いてきた時後ろから声を掛けられた。

驚いて振り返ったボクらに、川村とユミさんはニヤニヤしながら言った。

「全く、私達のことなんかまるで眼中に無いって感じね?!」
「ホントだよな、仲良くお手手つないでよ、俺達の前を通り過ぎたの気付かなかったんだろ、お前ら」

「え、ほんと?」
「どこに、おったと?ユミ」

「あんた達、楽しそうにお喋りしながら通り過ぎて行ったのよ?私達の前を」

ゴメンっちゃ・・・と恭子は舌を出して笑った。
「うちら、話しに夢中になってしもて」

「ま、いいさ」
「それで?満足したのか?お前ら」

うん、待っててくれてサンキュー、お陰さまで堪能したよ・・・とボクは2人に言った。

「そっか」
じゃ、これからどうするか、あそこで一休みしながら相談しようぜ・・と川村は境内の隅の、灰皿が置いてある休憩所を指差して言った。

「一服しようぜ、オガワよ」
「うん」

ボクら4人は、木陰になっているベンチに腰掛けて、一休みした。

「暑いけど、日陰は風が通って涼しいな」
「うん、気持ちいい」
ボクと川村は煙草に火を付けて、一服した。

ボクは上を見上げて、風に揺れる木々の枝の隙間からキラキラ零れる日差しに目をやった。

「夏、なんだな」


休憩所での一服の後、ボクらは楼門を出て、目の前を走ってる線路に興味を持った。

「これって・・・電車だよな、どこまで行けるんだろう」
「あ、これに乗れば、京都の四条大宮まで行けるっちゃ!」

「え、恭子、知ってるの?」
恭子の手には、小さなガイドブックが開かれていた。

「なんだ・・本も持って来たんだ」
「何線?」

嵐山線・・・と恭子はガイドブックから目を離さずに続けた。
「路面電車らしいけ」
「楽しそうだな、コイツで行こうぜ?!」と川村も賛成し、ボクらはすぐ目の前にあった太秦広隆寺前駅に行った。

「この電車で四条大宮まで行けば・・・近くには二条城があるっちゃ!」

「よし、じゃ、次はその二条城だな!」
「慶喜の大政奉還で有名なとこだね」

「さすが、アンタの言う通りやけ・・幕末の大舞台っち書いてあるっちゃ」

そうなんだ・・・幕府が終わっちゃったとこなのね?とユミさんが可愛らしい言い方をした。

「うん、そういう言い方も出来るね、確かに!」
「でもよ、政治を朝廷に返したんだろ?徳川が」

「じゃ、なんで戦争になったんだ?」

川村の質問に、ユミさんが驚いて言った。

「すごいじゃん!あんたでも知ってるんだ、そのコト」
「おいおい、あんまり人を小馬鹿にすんなよ?!」

俺だって、幕末の戊辰戦争位は知ってるさ・・と川村は胸を張った。

「でもさ、その位にしといた方がいいんじゃない?」
「敵わないよ?オガワっちには」とユミさんは笑いながら、川村の肩をポンっと叩いた。

「あはは、いいっちゃ」
「広隆寺以外の歴史に関しては、うちも川村君といい勝負やけね」

「あのな、お前らよ・・・」と川村が反論しようとした時、ゴトゴトと可愛らしい電車がホームに滑り込んで来た。

「さ、乗るっちゃ」ボクらは不服顔の川村を押す様に、笑いながら電車に乗り込んだ。


京福電鉄の嵐山線、通称「嵐電」は可愛い電車だった。

そろそろ午後3時になろうか・・という時間だったが、車内は空いてて4人並んで腰掛けることが出来た。

ゴトンゴトン・・とのどかな音と共に電車は走り出した。
全部開けっぱなしの窓からは、生ぬるい風と共に、街の色んな生活の音も入ってきた。

電車は暫く民家の軒先をかすめる様に走ったが、その後、広い通りに出た。
平行して走る車のカップルが、ボクらに手を振ってくれたりなんかして。

「鎌倉の電車に似てるっちゃんね、雰囲気が」
「うん・・みんなの足って感じだな」

ボクと恭子は窓の外を見ながら、あの暑かった海を思い出していた。

恭子の髪が風になびいて、ボクの鼻先をくすぐった。

「歩いたな、あの時は」
「あは、何かアンタ、遠い昔を語ってるみたいやけ」

そうなんだよな、ほんの何日か前なのに、もう随分日が経ってる気がしてたんだ、ボクは。

「ず〜っと一緒におるね、うちら」
「うん、そうだね」

あの・・・とユミさんが話しかけてきた。
「お二人でほのぼのしてるとこ、悪いんだけどさ」
「私達の存在、忘れてない?!」

なに言ってるっちゃ、ユミ・・と恭子はユミさんを振り返って笑った。

川村は、と言うと何やら難しい顔で外を眺めていた。

「川村君、どうしたと?」
「まだ、怒っとると?」

「ん?違うちがう」
「二条城か?何か大事な事思い出しそうでな、引っ掛かってるんだ、ここに・・」と自分の首の辺りを摩りながら呟いた。

「何、大事な事って」ユミさんが聞くと「それが出て来ね〜んだよ、だからモヤモヤしてるんだ」

どうせ大したコトじゃないんじゃないの?あんたのコトだから・・とユミさんは笑ったが、川村は真面目な顔を崩さなかった。

「ダメだ、諦めた!」

川村は、電車の天井で車内の暑い空気を掻き混ぜているクラシックな扇風機に目をやった。

ほら見なさいよ、大したコトじゃないから出てこないのよ・・と、相変わらずボクらといると川村には辛辣なユミさんに、ボクと恭子は笑った。
「ダメだよ、そんな風に言っちゃ」
「川村だって必死に思い出そうとしてるんだからさ、何だか分からないけど」
ボクも、笑いをこらえながら言った。





        二条城





そうこうしているうちに、ボクらを乗せた嵐電はビルの谷間を進むようになり、程なく終点の四条大宮駅に到着した。

駅前に出ると、太秦とは打って変わって、都会の繁華街・・という感じだった。

「ひゃ・・都会っちゃね、ここは」
「本当に東京と変わんないね」

「よう」