ノブ ・・第1部
「こう、冷たくてツルっと入ってくヤツがいいな、オレは」
「じゃ、麺類?恭子は?」
「うちは、何でもいいっちゃ。アンタは?」
「うん、ツルっと・・・がいい!」
「じゃ、決まり・・あそこの食堂で食べようよ!」
「色々ありそうだしさ」
ボクらは太陽と埃から逃げる様に、映画村の出口近くのレストランに入って昼御飯にした。
レストランは昼食時という事もあり混んではいたが、何とか隅っこのテーブルに4人で座れた。
「ふ〜、涼しい」
「うん、クーラーって、ほんと有難いよ」
「いらっしゃいませ」
お冷とお絞りが運ばれて来て、ボクと川村はまたゴシゴシと顔を拭いた。
「文句言うなよ?汗ダクなんだからな?!」と川村がユミさんと恭子に向かって笑いながら言った。
「あはは、何も言ってないっちゃ」
「そうだよ、好きなようにしなさい。私達はしないけどね〜!」
でも、本当に気持ちいいんだよ、こうするとさ・・・とボクは火照った顔に冷たいお絞りを押し当てて、一息ついた。
「いいっちゃ・・・アンタ、なんにすると?」
メニューを見ながら恭子が聞いた。
どれどれ・・ボクはメニューを覗き込んで「冷やし中華!」と言った。
「うちはね」恭子は悩んだ挙句、結局同じものにした。
向かいの二人もそれぞれに決まり、ウエイトレスを呼んで注文した。
「はい、冷やし中華が三つに、かつ丼一つ、アイスコーヒー四つですね?」
「はい、お願いします」
「あれ?川村君、麺類っち言うとらんかった?」
「やめた。やっぱ腹減っちゃったからな」
「でも、あんた最近、ほんとに食べるよね、沢山」
うん、モリモリ喰って体作らなきゃ・・・レギュラーになれないもんな!と川村は言った。
「頑張ってな?!東医体が始まったら、応援に行くけね!」
「おう、頼むぜ!うちは今、2部だけどよ、成績次第じゃ、入れ替え戦で1部に上がれるかもしれないからな」
そしたら必ず応援に行くから、レギュラーになれよ・・とボクらは先に運ばれてきたアイスコーヒーで乾杯した。
「サンキュ!頑張るからよ」川村が嬉しそうに言った。
「でもさ、一生懸命になるのはいいけど、留年だけはしないでよね?」
「ダブっちゃったら・・・私、知らないからね?!」
ユミさんの一言に、川村は頭を掻きながら小さく「ハイ」と答えた。
「あはは、大丈夫っちゃ、ユミ」
「川村君はユミと学年離れとうないけ、頑張るやろ・・ね、川村君?」
「お、おう!オレと離れたらコイツ、泣いちゃうもんな」
「バカ言ってんじゃないわよ、泣くのはどっちよ!」
ユミさんが、可愛く笑いながら川村を睨んだ。
みんなで笑った。
昼食を終えたボクらは映画村をあとにして、いよいよ恭子念願の広隆寺に向かった。
映画村の出口の係員に聞くと、広隆寺は意外に近い、とのことだった。
その道々、ボクと川村はユミさんと恭子の後を少し離れてついて行った。
「オガワよ」
川村が前の二人には聞き取れない位の声で話しかけてきた。
「なに?」
「女にかけては先輩ってコトで、聞きたいんだけどよ・・」
「何だよ、先輩って」
だってオレより経験多いじゃんか、年下のくせに・・と川村は言った。
「じゃ・・どうしたんだ?後輩!」笑いながらボクが言うと、川村は「あのな・・」と少し恥ずかしそうに、もっと小声で聞いてきた。
「オレさ、その・・・早いんだよ、あの時」
「早いって、イクのが?」
「うん」
「入れたらす〜ぐ・・なんだよな」
どうしたらいい?どうしたら長持ちするんだ?あの時って・・・と川村は恥ずかしそうに、でも真面目な顔だったからボクも茶化さずに真面目に聞いた。
「早いって、どれ位なの?」
「そうだな、5分・・?」
「そうか・・でもさ、オレもそんなもんかもよ?!」
「ほんとか?だって、本とか雑誌なんか読むとよ、15分とか20分とかって書いてあるじゃん」
それって、その時その時の状況によるんじゃない?とボクは言った。
「感じ過ぎたら、勿論早いし・・2回目は、結構もつし」
「うん、それは分かるんだけどな」
夕べも実はやっちゃったんだよ、オレ達・・と川村が告白した。
「ユミも最初は嫌がってたんだけどな、隣にお前らがいるからって」
「でも、そのうちに、いい感じになってよ・・」
「こりゃ、今までと違うぞ?って思ってな、頑張ったんだけど」
また5分ともたなかったんだ・・・と肩を落として言った。
ボクも白状した。「オレ達もしちゃった」
「オレも早かったよ、昨日は。それこそ5〜6分?でイっちゃったし・・」
ほんとか?と川村は心持、嬉しそうに言った。
「うん、すぐ・・だった」
「それに、前に先生が言ってたんだけどね」
「男は、自分のための1発目、彼女のための2発目・・って。それから、大事なのは持続時間じゃなくて、相手への気遣いだってね」
「そういうもんか・・」
「そういうもんだろ、多分ね」
「そうか、そんなもんでも、いいのか」
川村は少し安心したのか、笑顔に戻っていた。
「でもよ、じゃ・・・雑誌とかって、ウソなんかな?」
「う〜ん、まるっきり嘘って訳じゃないと思うけど」
「個人差もあるし、場面設定も色々じゃん?後は・・余裕?!」
「あ、それはオレ、自信無いぞ」また、しょげてしまった。
「だって、ユミとは、まだ、ほんの数回だからさ、余裕もへったくれも無いんだよ」
「お互いに夢中でさ、やっと・・だもんな、ついこの間」
大丈夫だよ、そのうちに慣れてくればユミさんにも川村にも余裕が出て来るんじゃない・・?とボクは笑いながら言った。
「そうだよな、これからだもんな、オレ達!」
良かった、また元気になってくれた。
「でもよ、お前らはどうなの?」
「その・・・余裕ありそうに見えるんだけどな、オレには」
「う〜ん、そうなったのは川村達より少〜し早いけど」
「オレだって恭子だって、ベテランってワケじゃないからね?!」
きっと同じだよ、これからさ、オレ達も・・と川村の肩を軽く叩いてボクらは歩きながら笑った。
そう言うコトにしておこう・・。
ボクのコトはさて置き、恭子の今までの性体験を川村に話すワケにはいかなかったからね。
ましてや、昨夜は散歩途中でもヤっちゃったんだ・・なんて言えるワケも無かったし。
「なん、盛り上がっとるね、アンタら」
恭子が突然、振り向いて言った。
「おう、男同士の話しだからな・・お前らは聞き耳立てなくていいんだよ!」
ガハハ・・と川村は笑いながら言った。
「ま、いいっちゃ」
「ほら、見えてきたけね、広隆寺の門が!」
「ほ〜、流石に貫禄あるな」
「うん、歴史の重みって感じだね」
ボクらは歩道から数段、石段を上って楼門をくぐった。
伽藍に踏み込むと街の喧騒は遠くなり、代わって蝉の声が大きく聞こえるようになった。
弥勒菩薩
「やっと、来れたっちゃ・・」
境内の石畳を歩きながら、恭子は感慨深げに言った。
「恭子」ボクは恭子の隣に並んで話しかけた。
「広隆寺って、いつの時代の創建なの?」
「う〜ん、ハッキリとは分かっとらんみたいっちゃけど・・」