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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

INDEX|54ページ/80ページ|

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口々にご馳走様を言って、ボクと恭子は鍋と器を下げた。

「ね、手伝わせて?」
「おう、オレも合宿で炊事やったから、洗う位なら出来るぞ!」

「有難う、でもいいっちゃ、すぐに済むけ」
「したら、おばちゃんのお酒の相手しとってくれん?」

じゃ、明日は手伝うからね・・とユミさん達は、店に戻った。

ボクは大きな土鍋を、恭子は他の食器を洗った。
「ほんと、美味しかったよ、サンキュー・・恭子」
「うち、おばちゃんに言われた通りにやっただけやけね。でも・・」
これで東京に帰ってもアンタに食べさせてあげられるっちゃ・・と嬉しそうに微笑んだ。

「問題は、カシワやね」
「東京で手に入るかどうか」

「ま、丹波の地鶏はムリだろうけど、いいよ、贅沢言ったらキリが無いしさ」
「恭子が作ってくれたもんなら、何でもうまいさ、きっとね」

「ね・・」恭子はいきなりボクを見詰めて言った。
「キス、せん?」

「いいよ」両手が塞がったままで、ボクらは少し不自由なキスをした。
ボクが屈んで、恭子は上を向いて。

恭子の舌が絡みついてきて、ボクはまた感じてしまった。

「ヤバいよ、恭子・・」ボクは唇を離して、小さな声で言った。
「ふ〜、いい気持ちっちゃ・・・」
恭子はボクの腕に頭を預けて、ため息をついた。

「楽しいっちゃけど」
「どうしたの?」

「二人きりになりたいっちゃ、うち・・」見上げる恭子の目が、妖しく潤んでいた。

「今は、ムリだろ・・」ボクは土鍋を洗い終えて、水切りに伏せた。
「そうやね、我慢するっちゃ」恭子は洗いものを続けた。

「あ、夜になってあの二人が寝てしもたら・・いいっちゃないと?」
「恭子、声出さずに・・・か?」

「頑張ってみるっちゃ!」ボクらは笑った。

「なにをガンバルって〜?!」突然のユミさんの声に、ボクらは驚いて振り返った。

「おばちゃんが呼んでるわよ?早くみんなで飲もう・・ってさ」
「うん、もうすぐ終わるけね・・待っとってな、ユミ」

うん・・と言いながらユミさんが店に戻った後、恭子は舌を出して笑った。

「ヒヤっとしたっっちゃ!」
「あはは、壁に耳あり・・だな!」

ボクらは洗いものを終えて戻ると、川村もユミさんも、お猪口を持っていた。
「やっと来た」
「有難うな、キョウちゃんにノブちゃん」

ささ、一杯、いこか・・とおばちゃんは早速、ボクらにお猪口を持つように言った。

「頂きます」
「これで全員集合やな」おばちゃんがお酌してくれた。

まずは、乾杯や・・とのおばちゃんの一言に、川村が言った。
「あの・・もう、何回もしてるんですけど、乾杯」

あはは、ええやんか、何回しても・・とおばちゃんは上機嫌だった。

「かんぱ〜い、お疲れ様〜!」みんなで盃を空けた。

「ふ〜、やっぱり美味しいっちゃ、賀茂鶴は」
「なに?その・・かもつるって」

「このお酒の名前やけ・・おばちゃん、説明してやってくれん?」
「ええよ、キョウちゃんらには言うたけどな・・」

おばちゃんは、新しく増えたメンバーにお酒の由来から、ご主人のコト、ここに来た訳を話した。

途中、案の定、川村とユミさんが泣いてしまって、ボクらも二度目なのにまたウルウル来てしまったけど。

それから、ボクらもまだ聞いた事がなかった大阪での出来事や京都での事を話してくれた。

「ほんと、一代記ですね・・」ユミさんが赤い顔を自分で支えながら呟いた。
「私、凄い尊敬します、おばちゃんのコト」
「そんな、尊敬される様なコト、いっこもあらへんがな」

みんな生きてるうちには、色々あるもんやで?な、キョウちゃんにノブちゃん・・とおばちゃんはボクらに微笑みかけて言った


燗酒は、またたく間に無くなり、おばちゃんは「この際やから、冷やでええか?」と賀茂鶴の一升瓶と5つの切り子のぐい飲みを持って来た。

茶色の一升瓶には、金色のブ厚い蓋が載っていた。
おばちゃんが蓋をポンっと引き抜いて、各々のぐい飲みに賀茂鶴を満たした。

「これが賀茂鶴の特級や!」
「酒王いうんやで、広島ではな」

「へ〜、瓶の蓋からして金色なんですね・・カッコいいな」
ボクが呟くと、恭子が言った。

「特級言うたら・・さっきまでのお燗したのと違うと?」
「あはは、同じやけどな、この切り子で飲んだら、また、ええもんなんや」

「このグラス、切り子って言うんですか、きれいですね」
ボクは深い藍色の切り子を持ち上げて、天井の明りに透かしてみた。

キラキラと光が反射して、綺麗だった。

「薩摩の切り子や」
「うちの人の趣味でな、薩摩と江戸の切り子を集めとったんや」

おばちゃんは、遠い目でボクみたいに切り子を掲げて微笑んでいた。

「ほな、また、乾杯・・」
5人は静かにグラスを合わせた。

カチン・・と上品な音がして、グイっと飲んだら、またこれも美味しかった。

「うまい、これ!」川村が叫んだ。
「うん、お燗したのもいけたけど、冷やもいけるっちゃんね」

「さすが、酒の王・・ですか?賀茂鶴・・覚えとこ」
「いいけどさ」
またベロンベロンになっても知らないからね?とユミさんが笑いながら川村を突いた。

「大丈夫、いい酒は悪酔いしないって言うじゃん?!」
「川村クン・・」
おばちゃんが言った。

「いくらええ酒いうてもな、程度っちゅうもんがある思うで?!」
は、すいません・・と頭を掻く川村に、みんなで笑った。


ユミさんの頬が、ほんのり桜色になってきた頃、川村はエンジン全開でグイグイやっていた。
そして言った。
「ずるいよな、お前ら・・」
「なんがね」

「だってよ、オレがヒーフー合宿でしごかれてた時に、もう、こんなうまい料理と酒飲んでたんだろ?」
「何か、納得いかね〜な」

あはは、仕方ないじゃん、オレ達の旅行だって思い付きだったんだから・・とボクは、いじける川村に酒を注いでやった。

「でもさ、川村も良かったじゃん?」
「ユミさんとうまくいって、京都に出てこれてさ」

まぁな・・へへ・・と川村は、ぐい飲みを空けた。

すかさず、恭子がユミさんに水を向けた。

「で、どうやったと?川村君は」
「え、なにが?」

ニコニコ笑いながら、黙ってユミさんを眺めていた恭子に、ユミさんは桜色の頬をさらに赤く染めて、言った。

「バカ!恭子は、もう・・・」
「ん?何だ?なんのコトだ?」

恭子とユミさんの話題に割って入ろうとした川村だったが、恭子に軽くいなされてしまった。

「男はいいと、女子の問題やけ・・ね?ユミ!?」
「知らない・・」
ユミさんはグラスを抱え込んで、下を向いて恭子にだけ聞こえる様に小さく呟いた。

「優しい・・・よ、コイツ・・」
「きゃ〜、ご馳走様っちゃね!」

恭子はそんなユミさんの頭を撫でながら、優しく言った。
「良かったっちゃ、ね?ユミ」
「うん、心配したほどじゃなかった・・有難う、恭子」

だから・・なに二人で親密にこそこそ盛り上がってるんだよ・・と川村が混ぜっ返したが、いつの間にか女子二人で乾杯していた。

「いいじゃんよ、川村」
「女どもは放っといて、こっちはコッチで楽しくやろう?」
「お、おう・・」とボクらも男二人で乾杯した。