小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ノブ  ・・第1部

INDEX|51ページ/80ページ|

次のページ前のページ
 

「へ〜、美味しそうやね、そっちも」
「ちょっと、恭子・・いい加減にしなさいよ?私はオガワっちみたいに、甘くないからね?」とユミさんが怖い顔の真似をして、恭子を睨んだ。

「ははは・・全く、あんたらは、子供と一緒やな・・おにぎり位で!」

みんなで笑ってしまった・・確かに、その通りだったからね。
結局、ボクが三つに恭子が二つ、ユミさんは昆布のおにぎり一つだけだった。
「ごめん、ユミ・・食べてしもたっちゃ!」
「いいけど、別に!」ボクらはまた笑った。

蕎麦もおにぎりも美味しかったから、あっと言う間に食べてしまった。

「ご馳走様でした!」ボクらが口ぐちに言って、食器を下げて洗った。

「恭子、美味しかったよ、お蕎麦」
「あんた、料理習ってるって本当なんだね」

「そうっちゃ。出汁の取り方一つでな、うんと変わるっちゃけね、味って」
「そうかもね・・でも、誰のために?」

え・・?と恭子は久々に真っ赤になって、洗ってた器を落としそうになった。
「もう!ユミは・・好かん!」

「3時にまた、暖簾出すから、それまであんたら、上がって休んどきや・・」と店からおばちゃんが言ってくれた。

「は〜い!」とボクらは階段を上がって、川村の寝てる部屋に行った。


ボクらが二階に上がると、川村はいびきをかいて気持ち良さそうに寝ていた。

「あはは、ほんとやね、川村君」
「もう、まったく!」

ユミさんは笑いながら揺すったが、川村はビクともせずに熟睡していた。

「いいっちゃ、ユミ・・」
「可哀そうやけ、寝せといてあげ?」

ボクらはエプロンを外して、銘々に座った。

「あ、うち・・・」恭子は一旦下に下りて、お盆に麦茶を載せて上がって来た。

「川村くんの分は、置いといちゃろうね」
「有難う、恭子」

でも、あんた達、ほんとに住み込みの店員なんだね・・とユミさんは言った。
「で?京都に来て、観光は?」
「うん、東と西の本願寺だけ行ったっちゃ!」
「あとは、ここで人生勉強しよるけね」

「え、ってコトは」
「まるで、出歩いてないってコト?」

うん、そうだよ・・とボクも麦茶を飲みながら言った。
「京都の初日にさ、ここにお昼食べに来て、何となくおばちゃんと仲良くなって」
「そう、そしてな、うちらもホテルは取ったっちゃけど、その日の晩御飯も食べに来てから、ズルズルと・・」とボクらは笑った。

「はぁ〜、全く」
「昨日、恭子から電話貰った時は半信半疑だったけど、本当だったんだね」

全く、変わってるよ、あんたらは・・・とユミさんも笑いながら麦茶を飲んだ。

「で、優しかったと?」
「え、何が?」

「決まってるっちゃ、川村君」

バカ!いきなり・・・とユミさんは真っ赤になって俯いた。

「そんなコト、真昼間に素面で言える訳ないじゃん」
「そうやね、ま・・おいおい聞くっちゃ!」

いいから、私達のコトは放っといて・・とユミさんは麦茶を飲み干して言った。

「ま、そう言うコトにしとこ。夜は長いし・・・」と恭子は笑った。

で、どんな一日なの?とユミさんは話題を変えにかかった。

「朝、6時に起きてな、おばちゃんの手伝いして、この人を起こして」
「え、恭子、6時に起きてたの?」
ボクが驚いて聞くと「そうっちゃ、朝から特訓しとるんやけね!」と胸を張った。

「でも、まだ二日目でしょ?」とユミさんが逆襲した。
「えへへ、そうっちゃ・・」
「まだ、威張れる位には、なっとらんな・・」と恭子も笑った。

「うちな、美味しいもの食べると、自分でも作れたらいいな・・っち思うと」
「そやけ、ここに来て美味しいもの食べて・・この人も美味しいおいしい言うて食べよるけね」
「せっかく、お世話になっとるんやから、覚えたいっちゃんね、おばちゃんの料理を」

でもさ・・ユミさんが言った。
「オガワっちは、詰まんなくないの?ここのお手伝いだけでさ?!」

「いや、詰らなくはないよ、楽しい」
「おばちゃんの一代記も面白かったし」

「何て言うのかな、他人の人生ってさ、なかなか踏み込んで聞けるものじゃないでしょ?」
「おばちゃんと話してるとね、色々と考えさせられるし勉強になるし・・世間が拡がった気がするんだ」

「ふ〜ん、そうなんだ・・」
「じゃ、私達も今夜、聞かせて貰えるのかな・・その、一代記?」

「あはは、店が終わって一段落したら・・楽しみにしとき!」
うん、そうする・・とユミさんは、まだ起きぬ川村を愛おしげに眺めた。

「早く起きないかな」
「きっと、分かってないよね、今、自分がどこでどういう状況になってるのか、なんてさ」
ボクらは幸せそうにいびきをかいている川村を眺めて、一頻り笑った。

「でも、意外に静かなんだね、ここ」
「駅から近いのにさ」

そうだね、大通りに面してないからかな?とボクは言った。
「裏庭があるんだけどね、小さな」
「朝は蝉の声がうるさい位に聞こえるよ」

そうなんだ・・居心地よさそうだもんね・・とユミさんは足を投げ出して、天井を眺めて言った。

「ユミ、午後は無理に手伝わんでいいけ、少し休んどき?」
「あ、大丈夫よ、私は」

「いいよ、ボクと恭子で大丈夫だから、川村のそばにいてあげたら?」とボクが言うと「もう、オガワっちまで・・」と睨まれてしまった。

「いいっちゃ、ユミも少しゴロッとしとき?!」
「それに、川村君、酔い醒めで気持ち悪うなったら・・いかんやろ」

そうか・・じゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ・・とユミさんも言った。

「じゃ、アンタ」
「うん、ボクらは隣で休んでるから」

何かあったら、呼んで?と恭子が言い残して、ボクらは自分達の部屋に移った。

隣の部屋との仕切りはちゃんとした壁だったから、クーラーをかけていればそうそう物音は気にならないみたいだった。

「有難うね、アンタも」
「重かったっちゃろ?川村君」

「うん、まぁね」
「でも、笑っちゃったよ、酔った訳聞いたらね」

「あはは、あの体格やからな・・アンタより背も高かし重かろ?」

うん、さすが、ラグビー部だな・・とボクも、畳にごろっとしながら言った。

恭子はボクの横に座って、座布団を二つ折りにして頭の下に敷いてくれた。
「アンタ、ほんとにええ人なんやね」
「なんだよ、いきなり・・・」

ううん、そう思うたっちゃけ・・と恭子はキスしてきた。

「どうした?」
「なんか、嬉しいと・・」

恭子はボクの胸に顔を押し付けて、言った。
「好きな人がな、うちの友達とかその彼氏にも優しいと嬉しいもんなんやね・・って思うたとよ」

「だって・・駅員さんからのバトンタッチだったからね・・」とボクも恭子を抱きしめながら言った。
「まさか、駅前に放っておく訳にもいかないじゃん?」
「あはは、そりゃ、そうやけど」

それを差し引いても、アンタはええ人やけ・・・と今度は情熱的なキスをしてきた。
ボクのオチンチンは、舌を絡ませてくる恭子に臨戦態勢になってしまった。

「どうするんだよ、恭子・・コイツ」ボクは恨めしげに恭子を見た。
「えへ、立ってしもうたね」
「でも、さすがに・・」恭子は壁の時計を見た。
時計は2時10分を指していた。