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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「間にあった・・」ホッとして改札口を探したが、それらしいカップルは見当たらなかった。

改札口の駅員さんに聞くと、新幹線の改札口からこっちに来るには、跨線橋を渡ってくるか地下道を歩くしかないし、どちらも5分から10分はかかるだろうとのことだった。

ボクは、コンコース外の伝言版の横にあったベンチに腰掛けて一服した。
「ここからなら、改札口も良く見えるな」

喉も乾いていたから、キオスクでアイスコーヒーを買って飲みながら待つことにした。
しかし、5分待っても10分待っても、二人は現れなかった。
「どうしたんだろう・・」
「ひょっとして、新幹線に乗り遅れたのかな?」とも思ったが、いかんせん連絡手段が無かったから、ひたすら、ベンチで待つしかなかった。

20分も過ぎた頃、改札口に駅員に抱えられながら見覚えのある男が現れた。
その後には、これまた見覚えのある女が続いていた。

「あれ、あいつら」
ボクが改札口に駆け寄ると「あ、オガワっち!」
「もう、助けてよ!コイツ、完璧に酔い潰れちゃって・・・」とユミさんが二人分の切符を渡して、改札を抜けてきた。

「もう、新幹線の中で飲みっぱなしでさ」とユミさんは心底疲れた顔で言った。

「どうしたの、これ・・」
「訳は後で話すから・・・コイツ、頼んでいい?」

駅員から正体を無くした川村を預かって、ボクらは駅員に礼を言った。
「どうも、済みませんでした。ご迷惑かけちゃって」

いや〜、体格ええからしんどかったで・・と駅員は腰を伸ばして笑いながら改札の向こうに行った。

さて・・とボクは川村に肩を貸して店に向かった。

店までの道々、ユミさんが話してくれた。

「新幹線ね、私は言ったのよ」
「夏休みだし指定席取らなくて平気なの?って」

「うん・・」重い川村を抱えてたから、相槌が精一杯のボクだった。

「そしたら、平気だって言ったの、コイツが」
「そして乗り込んだのよ、ひかりに」

勿論、自由席の車両にも指定席の車両にも二人の席など空いてる訳は無かった。仕方なく二人は食堂車に行き、京都まで粘ったんだ・・・と。

「でね、コイツは、席を占領してるんだから、せめて売上に貢献しなきゃ悪いだろ?とか変な理屈こねてさ」
「ズ〜っと、飲んでたわけ」

「ビールでしょ、ウイスキーでしょ・・もう、いい加減にしたら?って位ね!」
「で、京都に降りた時は、この有様よ」

「あはは・・」ボクはうんうん唸りながらも、笑ってしまった。
川村らしいと言えば、川村らしい・・きっと、本当に悪いと思って無理して飲んだんだろうな・・って思えたからね。

それをユミさんに言うと「まぁね、分かんない訳じゃないけどさ」
「何も、飲みっぱなし・・ってコトはないんじゃないの?」と笑って言った。

やっと、店に着いた。
「ここだよ」
「ただ今戻りました!」と格子戸を開けると、中はお客さんで一杯だった。

「あ、アンタ・・遅いっちゃ〜!」
「あれ?どうしたと?川村君・・」

「ま、訳は後でユミさんからゆっくり聞いて!オレ、とにかくコイツ、上に寝かせてくるからさ・・」とボクは川村を抱えて、店の奥に行った。

階段の手前でおばちゃんに「友達、上に寝かせてきていいですか?」と聞くと、おばちゃんは川村を見て「あらま、お友達、大変やね・・・具合でも悪いんか?」と心配そうに言ってくれた。

「はい、すいません・・大丈夫です、酔ってるだけですから」
「なんや、酔っ払いかいな!」と笑って言った。

「ほな、後で枕元に水、置いといてあげや?」
「酔い覚めは喉が渇くさかいな」

はい、とボクは言って、やっとの思いで川村の重い体を支えて二階に上がった。

「取り敢えず、座布団を折って枕にしてやるか」
ボクは座布団を二つ折りにして、川村の頭の下にあてがった。

「おい、大丈夫か?」
「う〜ん、回ってるよ・・・オレ」

ま、喋れる位なら放っといても大丈夫だろう・・とボクは店に下りた。

さっさとエプロンを着けて、店に出るとユミさんも手伝ってくれていた。
「あ、いいよ、オレ、やるから」
「少し休んだら?」

「いいわよ、私は疲れてないからね・・」と器を片付けて、奥に運んでくれた。
「恭子、いいのか?手伝って貰っちゃって」
「いいっちゃ、やりたい・・言うっちゃけ」

そう・・ボクはテーブルを拭いて、椅子を直していた。すると、またお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ!」ボクは、片付けたばかりのテーブルに案内して、水を出した。

恭子は、ボクの代わりに奥に引っ込んで、台所を手伝った。

結局、店はボクとユミさんで注文、料理出しと片付けをした。

1時を過ぎて昼の客が帰り、やっと一段落してボクらは腰掛けて休憩した。

「さ、お疲れさんやったね、ノブちゃんもキョウちゃんも」
「あんたは・・お名前は?」

「はい、ユミです、よろしく!」
「あ、そうやった、ユミちゃんや。昨日キョウちゃんに聞いたんやけどな」

歳取ると忘れっぽくてな・・とおばちゃんは笑いながら言った。

「ほな、一旦仕舞って、昼ごはんにしよか」

おばちゃんと恭子は奥で昼食の準備にかかり、ボクとユミさんはホっと一息ついた。

「すごい混むんだね、ここ」
「いや、今日は特別じゃないかな」
「こんなコト、ボクらが来てから今まで、無かったもん」

「でも、オガワっちも恭子もテキパキしてたよ?!」
「私なんか、どうしたらいいのか分からなくてさ、慌てちゃった・・」

いや、そんなコトないんじゃん?ユミさんも手際良かったよ・・・とボクは正直に褒めた。

「そう?実は、嫌いじゃないんだ・・客商売」
「一回、やってみたかったから、いらっしゃいませ〜って!」

うん、うまい、とボクらが笑っていたら、恭子が「お待たせ〜!」とお昼を持って来てくれた。

「ユミも食べてな?うちが作ったっちゃけ」
「へ〜、楽しみ!」

今日のお昼は、冷やしそばだった。
「あ、蕎麦だ!」
「へへ、アンタがな、そろそろお蕎麦が恋しい頃なんやないか?って思ってな」
「嬉しい、食べてみたかったんだ、冷やし蕎麦」
「ほら、おばちゃんが美味しいって言ってたじゃん?」

恭子の冷やし蕎麦には、天かすが載っていた。

「頂きま〜す!」
天かすが香ばしくて、蕎麦と絡まって美味しかった。

三人で夢中になって食べていたら「それだけじゃ足らんやろ、あんたら・・」と、おばちゃんがおにぎりを六つ、持って来てくれた。

「焼き鮭と昆布の佃煮、梅干しが入ってるで」

ボクは早速、一つ取って、かぶり付いた。
「あ、鮭!」
恭子は「うち、梅干しっちゃ・・好かん」

あはは、キョウちゃん、好き嫌いはあかんで?!とおばちゃんは笑いながら言った。

「でもな、おばちゃん・・」
「梅干しって、昔っから好かんのよ、うち」

もう、しょうがないな、はい・・・と、ボクは鮭のおにぎりの半分を恭子の梅干しのヤツと交換した。

「えへ、ラッキー!」
「ちょっと、オガワっち、甘くない?」
「いいよ、オレ、梅干しも好きだからさ」

全く、この二人には敵わないよね・・とユミさんは呆れながら笑った。

「ね、ユミは何やったと?」
「・・昆布」