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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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しかも、ユミにとっては初めての男やけ、尚更っちゃね・・と恭子はシレっと暴露した。

「そうか、そんなに楽しみにしてはんの・・ほな益々張りきるで、おばちゃんは!」

おばちゃんと恭子は、お互いにお酌しながら嬉しそうだった。

「恭子、ちょっと・・・」
ボクは恭子を奥に引っ張っていった。

「ってコトは、うまくいったの?アイツら・・」
「えへへ、そうらしいっちゃ、ユミが言いよったと」
「心配かけてゴメン、案外スムーズに出来たよって」

そうか・・なんかボクまでホっとした気分だった。
彼女の心配を聞いていただけにね。

「さ、アンタも飲むっちゃ!」
「ユミ達に、乾杯しよ?!」恭子に手を引かれて、ボクらは店に戻った。
嬉しくなったボクは、それから一緒に賀茂鶴をかなり飲んが、取り乱すコトは無かった。

結局、ボクらが風呂に入って寝たのは夜中の2時近かった。



翌朝も7時きっかりに、ボクは恭子に起こされた。
また、タオルケットを引っ剥がされて。

「うん?お早う・・」例によって寝ぼけ眼のボクに、恭子は言った。
「ささ、起きるっちゃ!」
「うちは仕込み、アンタはお掃除・・今日も忙しいけね?!」

はいはい・・ボクはのそのそ起きだして、洗面所に行った。

「いい天気だな・・」
「ん?日曜か?今日は」

歯を磨きながらボクは思っていた。この店、いつが定休日なんだろうと。

ガラガラ・・とうがいを済ませて、新しいシャツとジーパンに着替えて下に下りた。

「お早うございます!」

「おはようさん、ノブちゃん、良う寝られたか?」
「はい・・え、オレ、また変なコト言ってました?」

あはは、違うわ・・朝の挨拶や!とおばちゃんは上機嫌だった。

おばちゃんと恭子は、また二人で湯気を立ててる大なべに向かっていたから、ボクは店の掃除をすることにした。

店の格子戸を開け放って、床を掃いて椅子を戻しテーブルを拭く・・昨日よりは慣れた感じだったが、毎朝これを一人で全部こなすとなると、やはり結構な重労働だろう。
おばちゃん、健康は大丈夫なのかな・・今日、暇をみて聞いてみよう、風呂の一件もあるし。
一通り、店の中が終わると、ボクは店の前を軽く掃いて、打ち水をした。

そして、昨日おばちゃんに教わった通りに、入口の両脇に盛り塩をして終了。

終わって店に入ると「さ、食べよか?!」とおばちゃんが朝ごはんを並べてくれていた。
「はい」ボクは手を洗って、椅子に座った。

「今朝の卵焼きな、うちが作ったと!」
あ、味噌汁もやけね・・と恭子がお茶を湯のみに注ぎながら言った。
「へ〜、凄いじゃん!楽しみだな」

テーブルには、卵焼きとアジの開き、お漬物に味噌汁が並んだ。
「頂きま〜す!」三人揃って食べ始めた。

「うん、美味しい!」恭子の作った白味噌の味噌汁は、美味しかった。
へへ、初めてにしちゃ、上出来やろ・・?と恭子は嬉しそうに言った。

「あ、そうだ。」パクパク食べながら、ボクは恭子に聞いた。
「ユミさん達、何時に来るの?」
「確か・・11時15分に京都着のひかりで来るっち、言っとったっちゃ」

「そうか、でも、ボチボチ忙しくなる時間だよね」
「そうやね・・アンタ、迎えに行ってくれん?」
「タワーのある方の出口っち、言うといたけね」

うん、いいよ・・・ボクは、アジの開きの小骨と格闘しながら答えた。
「この骨にくっ付いてるとこが・・美味しいんだよな・・」とブツブツ言いながら。

ノブちゃん、魚好きなんやね・・・とそんなボクを見ておばちゃんが言った。

「細かい骨のよけ方が上手やもんな、魚好きな人の食べ方やわ」と。

「そうですね、一週間、毎日肉か魚かどっちか選べって言われたら、魚・・ですかね、オレ」
「うちは、肉っちゃ!」恭子は笑いながら言った。

でもアンタ、ほんと上手やね、魚の食べ方・・と言う恭子のアジを見るとなかなか悲惨な状態だったから、ボクは笑ってしまった。

そんな楽しい朝食が終わり後片付けをして、恭子とおばちゃんはまた仕込みに戻った。

ボクは、おばちゃんに頼まれた買い物をしに、店を出た。
外は今日も暑くて、雲一つ無い青空が広がっていた。

「京都も4日目か、でも、殆ど観光してないな、オレ達」
駅前は、夏休みでしかも日曜日のせいか人出が多かった。

つい3日前まではボクらもこの観光客の中の二人だったんだよな・・それが今は、買い物籠提げて住み込みの店員さんなんだと思ったら、我ながら無計画なこの旅が今後どうなるのか、心配よりも浮き浮きしてる自分に気付いて「ま、これはこれで楽しいから、いいか!」と一人で笑ってしまった。

すれ違った若い二人が、怪訝そうにボクを見て行ったが気にはならなかった。


買い物は、結構時間がかかってしまった。
おばちゃんに聞いた市場が、店からは遠くて慣れぬ場所・・というのもあったし、ここんとこお客さんが多かったから食材も多かったしね。

だから、買い物籠には入りきらず両手に提げた三つのビニール袋がかなり重かった。

ヒーヒー言いながら店に戻ると、もう10時を過ぎていて恭子に文句を言われてしまった。

「もう・・遅いちゃ!早うせんと、仕込みが間に合わんのやけね?!」
全く、いっぱしの従業員気取りだから。

「ま〜ま、ええやんか、キョウちゃん」
「ノブちゃん、遠いとこまで重い買い物してきてくれたんやから」
おばちゃんは、冷たい麦茶をコップに入れてくれた。

「あ、有難うございます」ボクは一気に飲んだ。

「ふ〜、生き返った・・」
「だって、重いし、場所は分かんないしね」とボクは流れる汗を拭きながら、恭子に言った。

「でも、おばちゃん、これ毎日、やってるんですよね」
「当たり前やんか、私の店やからな」

「大変ですよね」
心配いらんて、もう慣れたもんや・・とおばちゃんは笑った。
「でも、ほんま助かってるで、あんたらが手伝ってくれてるさかいな」

「さ、キョウちゃん・・私らはもうひと頑張りやで?!」
「はい」

二人が奥に入った後、ボクは冷蔵庫にビールを入れたりコップを綺麗な布巾にふせたり、テーブルの上の割りばしを補充したりした。
そのうちに11時になり、おばちゃんは暖簾を出した。

「さ、今日も忙しなるやろけど、頑張ろうな!」

日曜日の店は初めてだったから、どんなもんか・・とボクは心配と期待の入り混じった感じの開店だった。






       友あり遠方より来る・・





「あ〜!」
「なんや、キョウちゃん、大っきな声出して」

「アンタ・・・駅行って、えき!」
「あ・・」とボクも時計を見た。丁度、11時10分を指していた。

「そうか、お友達の着く時間やな?」
「はい、オレ、迎えに行ってもいいですか?」

そんな、いいですかなんて聞くコトないがな、お客の一人も来てへんやないの・・とおばちゃんは笑いながら言ってくれた。

「じゃ、ちょっと迎えに行って来ます」とボクは店を飛び出した。

京都駅には15分ぴったりに着いた。
「間にあった・・」ホッとして改札口を探したが、それらしいカップルは見当たらなかった。