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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「おばちゃん、あの後、一人でやったのか・・」と思ったら、おばちゃんが一人でこの店を切り盛りしてる苦労が思われて、自然と掃除にも力が入った。





       京都のおかん






店の掃除、接客、洗いもの、風呂場の掃除・・・ボクに出来るコトはこの位だった。

でも、おばちゃんの「助かるわ・・」「おおきに!」を聞くと、これらの仕事も少しも苦ではなかった。結構、いい汗もかけたしね。

恭子は恭子で、熱心におばちゃんに張りついて一生懸命に料理を教わっていた。

その夜、店仕舞いの後の掃除を終えて一服していたら、ボクらの食事の支度をしていた奥から「・・・キョウちゃん、ええ味やね、これ」
「そう?嬉しいっちゃ!」と言った会話が、ボクの耳に入ってきた。

「へ〜、恭子も上手になったんかな?」とボクは夕食が楽しみになってきた。

「さ、出来たけね・・お待たせ!」
と恭子はお盆を持って来た。

上には、焼き魚とサラダとお吸い物が載っていた。

「今夜は、うちが腕によりをかけて作ったけね!」
「美味しかよ〜!」と嬉しそうに言った。

その後から、おばちゃんが小鉢を持って来て、「これも食べや・・」とテーブルに置いた。

焼き魚は、ボクは見たことがないヤツだったからおばちゃんに聞いた。
「これ、なんて魚ですか?」
「これはな、金目鯛や」

「地方によっては、赤魚とも言うな」と教えてくれた。

「金目の干物は、高いっちゃ・・美味しかけどな」

ふーん、そうなんだ・・で、このお吸い物は、恭子作なの?と聞くと「おばちゃんに出汁の取り方教わってな、うちが作ったと!」と誇らしげに言った。

おばちゃんの小鉢には、これはボクの大好きな切干大根の炊いたのが入っていた。
「あ、切干・・大好きなんですよ、ボク」
「あら、そら良かったわ」
でも、ノブちゃん、案外じじむさいのんが好きなんやな・・とおばちゃんは笑った。

恭子のお吸い物も、金目の干物も切干も・・美味しかった。

「何か、バランス取れてますよね、おばちゃんの食事って」
「そらな、毎日のもんやから、偏ったらいかんやろ?」

こう見えても栄養士も調理師も資格・・持ってるんやで?!とおばちゃんはエッヘンと胸を張った。

夕食は美味しかった。
食後に、熱い番茶で一服していたら「美味しいものは人間を幸せにする」と、おばちゃんが突然言いだしたから、ボクらはビックリして顔を見合わせた。

「昔のローマの諺なんやて」
おばちゃんは湯のみを抱えて、微笑んで言った。

「美味しいものを食べて幸せに思うんは、万国共通なんやね」
「うちの人がよう言うてたわ」

「そうですね・・ボクも良く分かりますよ、その気持ち」
「うちもそう思うっちゃ」

あんたらは特別食いしん坊やからな・・・とおばちゃんは笑って言った。

でも、お酒も人を幸せにするけね?と恭子はおばちゃんを見た。

「はいはい、そやね・・一杯、いこか?キョウちゃん」
「うん、うち、賀茂鶴飲みたいっちゃ」

「かもつる?なに、それ」

「おばちゃんと飲みよった日本酒の銘柄っちゃ」
「広島のお酒やけどな、うちの人が一番うまい言うてたんや」

そうなんだ・・とボクは相槌を打った。

「それ以来、うちではお酒は賀茂鶴しか置かんのや」と言いながら、おばちゃんは奥に行った。

「な、アンタ、ビックリせんでな?」恭子はボクに顔を寄せて囁いた。
「なに?どうしたの?」
「明日な、ユミ達が来ると、京都に!」

「え〜?!」
あは、驚いたろ?うち、昼間に電話したと、ユミに・・と恭子は続けた。
「そしたらな、一緒に京都周ろう・・って言うコトになってな、明日新幹線で来るコトになったっちゃ!」

「川村も、一緒に?」
「勿論やけ、二人で来るっちゃ」

恭子は嬉しそうに続けた。
「でな、聞いたと・・・」
「あのコトを、か?」
「あったりまえっちゃ!心配しとったっちゃけ」

全く、恭子は・・・とボクは笑いながらも、興味津々に聞いた。
「どうだったって?」

その時「なんやの?楽しそうな顔して、あんたら・・」とおばちゃんがお銚子を持って戻って来た。

おばちゃんに聞かれて、どう答えようか・・とボクが逡巡していると恭子が言った。

「おばちゃん、明日な、うちらの友達が来るっちゃ、京都に!」
「へ〜、そらま・・なんや?あんたらを訪ねて来るんか?」

「うん、一緒に京都を見て周りたい言うけね」
「よっしゃ、ほな、そのお友達もここに泊ったらよろしわ!」

宿代はうんとサービスするよってな・・言うといて?キョウちゃん・・とおばちゃんは嬉しそうに言った。

「あはは、有難う、おばちゃん!」
「いいんですか?ほんとに・・ボクらだけでも迷惑かけてるのに」と言うと、おばちゃんは「ええやん、賑やかになって」と笑った。
「あんたらがいてくれるんやから、お世話は任せるしな!」

「それに、おばちゃん・・あんたらを迷惑に思ったことなんてないで?!」と言ってくれた。
「助かってるし、楽しいんや」

なんや、もしも子供がおったら、こんな感じやったんやろか・・って思ってなと、おばちゃんは言った。

「・・・・・」ボクは、うまく切り出せないでいた。
そう言えば、おばちゃん達夫婦の話は随分聞いたけど、子供の話は聞いたことが無かったから。

「お子さんは?」恭子も、さすがに静かに聞いた。

「出来んかったんやね、不思議な事に・・」
「ま、あの頃のコトやから、どっちが悪いなんてコトも考えんかったし、縁のものや思うてたしな」

「そのうちに、私もうちの人も、いい歳になってしもてね」
「そやから、ここんとこ、ほんまに楽しいんや」

「あんたらがいてくれてるお陰やね・・おおきに」おばちゃんは、首を傾けて微笑んで言ってくれた。

「おばちゃん・・・うちみたいな不良娘でも、おばちゃんを京都のお母さんっち思っていい?」
「嬉しいコト言うてくれるやん、キョウちゃん」
あんたはちっとも不良なんかやないで?!可愛らしい娘や・・とおばちゃんは、恭子の頭を撫でながら言った。

「私のこと、京都のおかんや、思うてくれたら嬉しいわ!」
そして「ほな、ここにおる間は、母が娘に料理を叩きこんだるさかいな、頑張りや?!」と笑った。


「で、学校の同級生なんか?明日、来はる友達は・・・」
「そうです、同じ一年生の仲間です」

そうか、せやったら・・・また、一杯食べるんやろなとおばちゃんは嬉しそうに腕まくりして言った。

「ええな、若い人らが大勢来てくれたら、ここも昔みたいに活気がでるし?!」
「私も、張りきってご飯こさえな・・な?キョウちゃん」

うん、うちも手伝うっちゃ・・と恭子も嬉しそうだった。

ボクは、二人のコトを恭子に聞きたかったけど、おばちゃんの前ではさすがに「で・・首尾は?」とは聞けなかった。

そんなボクを知ってか知らずか、恭子は手酌で黙々と盃を重ねていた。

「なんや、キョウちゃん」
「ニヤニヤして、何かええことあったみたいやな」
「お友達と会えるんが、そない嬉しいんか?」

え、分かると?おばちゃん・・と恭子は盃を置いて、おばちゃんに向かって言った。

「明日来る女の子な、ユミっちゅう子やけど」