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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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タオルと湯上げタオルは、脱衣所に置いてあるヤツを使うてな・・と言ってくれた。

はい・・僕はまた二階に上がって、着替えを持って風呂場に行った。

すりガラスの扉をガラガラと開けると、脱衣所だった。
ボクは汗臭いシャツと下着を脱いで、その奥のもう一枚ガラス戸を開けた。

お風呂の床は滑りにくい、平らな黒っぽい石が敷き詰めてあり、木造りの湯船は、おばちゃんが言った通りかなり大きかった。

そして、檜のいい香りが漂っていた。

「すごいな、ほんと豪華なお風呂だ」
洗面器で掬ったお湯はかなり温めだったが、元々、熱い風呂が苦手なボクには丁度良かった。


ボクは洗面器でお湯を掬って、何度か体を流した。

反対の壁には、蛇口が二つ並んでいて、檜の椅子が置いてあった。
僕はその椅子に腰かけて体と頭を洗った。

「ふ〜、サッパリしたな」
湯船に浸かって、ぬるいお湯に体全部を浸して・・・段々に気持ちがほぐれてった。

でもいくらぬるいとは言っても夏だったから、暫く浸かっていたら額から頭からだらだらと汗が滴り落ちてきた。

ボクは頭まで沈めて、息を止めた。
「・・・20・・40・・60・・!」プハ〜っと、頭を出して深呼吸した。

「はぁはぁ・・」鼓動が早鐘の様になっていたが、なぜか爽快な気持ちだった。

湯船を出てもまだドキドキしてたので、洗い場で大の字になってみた。
横たわると、石が冷たくて気持ち良かった。

「恵子、やっぱりオレ、のぼせやすいみたいだよ」
ボクは昨年、恵子と一緒に入った笛吹きの湯を思い出してはいたが、悲しい気持ちではなしに語りかけていた。

暫くして汗が引いたので、もう一度湯船に浸かった。
そして、上がり湯を浴びてボクは風呂を出た。

着替えたものを置きに二階に上がると、恭子がいた。

「おばちゃんが洗濯機使うてええ、言うてくれたけ、あんたのも出し!」
「あ、じゃ、このシャツと、パンツ・・靴下も・・だね」

「うん、うち、洗濯機に放り込んだら、また店に出るけ、アンタ、少ししたら店に来てな?!」
「ご飯、二人で食べてしまいって言うっちゃ、おばちゃんが」

「食えるかな、オレ。二日酔いだし・・」
「あはは、軽いもんやったら平気やろ。ほな、もうちょっとしたら・・な!」

恭子はやけに張りきってて、まるでここの仲居さんみたいになっていた。

ボクは髪が乾くのを待って、店に下りた。

「まいど、おおきに・・」
丁度、最後のお客さんが勘定を済ませて出て行ったところだった。

「あ、ノブちゃん・・こっち座り」
「はい、いいお湯でした。有難うございます」

そやろ?うちは風呂にはお金かけたんや・・とおばちゃんは嬉しそうに言った。

「でも、ほんま、キョウちゃんに手伝うてもろて助かったで・・珍しく混んださかいな」
「あはは、うち、役に立ったっちゃろか?」

そんなアンタ、役に立つどころか、大助かりやったわ・・おばちゃんはテーブルを片付けながら恭子を褒めた。

「愛想はええし、ハキハキしてるし・・手際もええしな!」
「おばちゃんに、そんなして言われたら嬉しいっちゃんね」
恭子も、布巾でテーブルを拭きながら笑った。

「さ、これで一段落や・・」
「あんたら、座って待っとき」

あ、おばちゃん、手伝うけ・・と言った恭子に、おばちゃんは「ええんよ、今、おいしいうどん作ってくるさかい、一休みしとき?!」と言ってくれた。

「は〜い」
ボクらは椅子に腰かけた。

「ふ〜、忙しかったっちゃ」
「ごめんな、オレ役に立てなくて」

「何言ってるっちゃ、アンタはいいと。これは、うちのおばちゃんへの感謝なんやけね」
「そうなの?」

うん、そうっちゃ・・と恭子は明るく言って、立ちあがってコップを持ってきた。

「え、また飲むの?」
「あはは、違うっちゃ・・麦茶、飲まん?」

良かった。正直、暫くアルコールの匂いすらかぎたくない気分だったからね、ボクは。

恭子は冷蔵庫から冷たい麦茶を出して、コップに注いでくれた。
まだ、気持ち悪さが完全には抜けていなかったボクは、恐る恐る・・・一口飲んでみた。

「美味しい・・」
「そやろ?二日酔いには、サッパリしたお茶がいいけね」

でも、うちは・・ほんとは泡の出る麦の方がいいっちゃと言ってウインクして笑った。


暫くして、おばちゃんはボクらにうどんを持って来てくれた。
「美味しいで、食べてみ?!」

テーブルに置かれたうどんは、一見普通に見えたが湯気が出ていなかった。
「今日も暑いし、ノブちゃんは二日酔いやろ?」
「冷やしうどんにしたわ」

うどんは、色の薄い出汁に浸っていて、上にはたっぷりの刻んだ茗荷と刻んだ油揚げが少し、載せてあった。

一口、汁をすすると、冷たくてほんのりと生姜が効いてて美味しかった。
「これ、いけますね」

「そうやろ?二日酔いには、生姜と茗荷が効くんや」
「どっちも夏バテ予防にもなるし、胃腸にもええしな」

おばちゃんは、ニコニコと解説してくれた。

「へ〜、冷やしうどんなんて、うち、初めてっちゃ」
「こっちでは、よう食べるん?」

「これはな、うちの人と前に金沢に行った時に、初めて食べたんや」
「夏やったさかい、美味しくてな。これ、うちでもやろう・・言うて始めたんや」

向こうには冷やし蕎麦もあったで・・とおばちゃんは言った。

「冷やし蕎麦か、どんなんだろう、食べてみたいな」
「あは、アンタ、お蕎麦、大好きやけね」

そうか、ノブちゃんは江戸っ子やもんな・・と笑いながら、おばちゃんはうどんをすするボクらを見ていた。

最初は、食べられるかどうか不安だったのだが、そんな心配は全く無かった。ボクはあっと言う間にうどんを平らげてしまった。
お汁も一滴も残さずに。

「美味しかったです、すごく!」
「良かったわ、そう言うてもろて」

あんたら、何でも美味しい言うて食べてくれるさかい、おばちゃん、作り甲斐があるわ・・・と言った。

気持ち悪かったのなんか、どこかに行ってしまったみたいで、ボクはうどんに満足して、麦茶を飲んだ。
その時、突然に思い出した。
「あ、恭子、大変だよ!」
「なんね、どうしたと?」

「ホテル!そのままじゃん」
「はぁ?」

「だって、昨日ここに来てさ、そのまま・・」
「あはは、アンタ・・落ち着き?」
「へ?」

「アンタ、部屋に自分のディパックあったの気付かんかったと?」
「今、着とる新しいシャツ、そのディパックから出したっちゃろ?」

「あ、そう言えば・・そうか」
「そうっちゃ、アンタがすやすや眠ってた朝のうちにな・・」
「うち、思い出してホテル行って、ちゃんと清算してきたとよ、全く!」

そうだったんだ、ゴメン・・有難う、とボクは恭子に頭を下げた。

「いいっちゃ、寝てるアンタを起こしてまで行かせようとは、思わんけね」
「有難う」

あはは、姉さん女房は、しっかりするもんやからな・・とおばちゃんは丼を下げて行きながら笑ってボクらを冷やかした。

「おばちゃん、姉さん言うたっちゃ、たった二つなんやけね?!」恭子も笑って言った。

ボクは、すっかり気分が良くなっていた。