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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

INDEX|32ページ/80ページ|

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恭子は嬉々として腰程の高さの冷蔵庫から冷えたビールを取り、その上のお盆に伏せて置いてあったコップを二つ、持ってきた。

「おばちゃん、栓抜きは〜?」
「冷蔵庫にかかってるやろ?」
「は〜い・・」いつの間にか、恭子とおばさんの会話は常連さんの会話みたいになってたし。

コップに冷えたビールを満たして、ボクらは乾杯した。

「く〜、美味しいっちゃ、ね?!」
「うん、うまいな、冷えてて」
一杯目は、すぐに空になった。

「ささ、グイっと・・」
恭子はボクにお酌してくれて、続いて自分に注いだ。

「おいおい、もう手酌か?」
「いいちゃ、うちとアンタの仲なんやけ・・」

恭子は二杯目もグ〜っといった。

おばちゃんがうどんを持ってきた。
「はい、お待たせ・・」
「そやけど美味しそうに飲むな、お嬢ちゃん」

「はい、うち、お酒好きやけ」

ははは、とおばちゃんは笑って、はい、おかめね・・とうどんを置いた。

「へ〜、これが、おかめうどんなん」

「なんや、あんたら知らんで注文したんかいな」
「はい、ふたりで、どんなんだろうね・・・って」

ま、ゆっくり食べなはれや・・・とおばちゃんは奥に引っ込んだ。

「椎茸だろ、ゆで卵だろ、かまぼこに青菜か・・面白いね」
「うん、和風の五目っちゃ」

ボクはまず丼を持ち上げて、一口、汁をすすった。

「・・・うまい」正直、驚いた。

関西風のうどんは初めてだったから、運ばれて来た時・・その汁の色の薄さにビックリとガッカリの両方を感じていたからね。
でも出汁が効いてて、味わい豊かで・・・慣れ親しんでた関東風とは一味も二味も違っていた。

「うどんは・・・」続けてうどんをすすった。
うどんは柔らかくて唇でプチっと千切れる感じだったが、伸びてるわけでもなく、適度な弾力があってこれも美味しかった。

「美味しいっちゃ・・・うちの方のうどんに似とるけど、やっぱ、違うっちゃんね」
「九州のは?どんな感じ?」

「う〜ん、お汁の色は似てるけど、もうちょっと塩っ気が効いちょるかな?」

そうなんだ・・でも、うまいね・・とボクは汗をかきながら、フ〜フ〜言って食べた。

具の椎茸も甘く煮てあって、噛むとジュワ〜と染み込んだ味が口に広がったし、白いカマボコもプリプリで美味しかった。

それぞれの具が出汁とマッチしてて・・・なんて分析してる暇は実は無くて、ボクはあっという間に丼を空にしてしまっていた。
一滴も残さず。

恭子はと言うと、ボクとは対照的にゆっくり食べて、ビールを飲んで・・・という感じだった。

おかめうどんは美味しかったが、うどんだけでは物足りなかったボクはまた品書きを見た。

「なん、アンタまだ食べると?」
「うん、足りないんだもん・・」

そして、品書きに一つの見慣れない名前を見つけた。
「恭子、この他人丼って・・・なに?どんなの?」
「え、それなら知ってるっちゃ。アンタ知らんの?」

うん、知らない・・と言うと、頼んでみ?美味しいけね、と恭子が言った。

ボクは「すみません、他人丼、一つ!」と奥に向かって言った。

おばちゃんが奥からエプロンで手を拭きながら出て来て言った。
「他人丼?」
「はい・・」

待っとき・・と言い残して、おばちゃんは再び引っ込んだ。

「ね、どういうヤツなの?」
「ふふ、想像してみ?親子丼は知っとるやろ?」恭子はニヤニヤしながらビールを飲んでいた。

「うん・・」
「それが、他人やけね」

う〜ん、なんだか分かんないけど、鳥と卵で親子だから他人って事は・・。

「あ、鳥じゃない何かと、卵か?」
「ま、そんなもんやね、お楽しみに」

恭子は一人で二本目のビールを冷蔵庫から取り出し「おばちゃん、もう一本ね?!」と言った。

「大丈夫か?そんなに・・・」
「えへへ、何か、気分良くなってきてしもた!」
嬉しそうに手酌して、ボクのコップにも満たした。

「アンタとおると安心して飲めるけね、嬉しいっちゃ」

ま、いいけどね。ボクもコップを空けた。

はい、他人丼・・とおばちゃんは丼を持って来て言った。

「よう食べるね、にいちゃん・・」
「あ、はい・・けっこう大食いなんです」

「若いんやから、ええこっちゃ」
「で、こっちのねえちゃんは、さっきからよう飲むな・・」

「はい、うちも好きなもんで!」

あはは、あんたら面白いカップルやね・・とおばちゃんは嬉しそうに笑って、ボクらの隣のテーブルに座った。
「ほれ、食べてみ?他人丼・・おいしいで?!」

はい、頂きます!とボクは丼をかかえた。

他人丼は・・・うまかった!
ご飯の上に卵でとじた味付きの豚肉、その上に緑の長葱・・・なるほど、豚と卵だから他人だわな・・謎が解けた瞬間だった。

もりもり食べるボクを見て、おばちゃんが言った。

「どうや?いけるか?他人丼」
「はい・・・これも、美味しいですね!」
「にいちゃんは、東京か?」
「はい、分かりますか?」
当たり前や、こう見えても客商売やで!・・で、あんたは・・と恭子を見て「福岡やろ?」

「はい、当たり〜!」恭子、酔ってるぞ。

「あんたの言葉はよう分かるわ、私は元々、博多やからね」
「え、そうなんですか?博多ですか・・きゃ、お隣さんや」

「どこ?」
「北九州の戸畑です、八幡製鉄所のある・・」

あ〜、小倉の隣やな?とおばちゃんは嬉しそうに言った。
「はい!」と恭子も嬉しそうだった。

「にいちゃん、気ぃつけや?九州の女は飲み助が多いさかいな?!」
「はい、知ってます」ボクは口をモグモグさせながら言った。

「はは、ええがな、食べてしまってからで」

ほな・・・おばちゃんは立ちあがってコップを持って来た。

「私も、お呼ばれしょ・・」
「あ、気付きませんで!」と、恭子は笑いながらおばちゃんにビールを注いだ。

「ありがとさん」おばちゃんは美味しそうにコップを一気に空けた。

「ひゃ〜、いい飲みっぷりっちゃ・・さすが、博多ですね」
「ふ〜、おいしいな」

「なんや、あんたが美味しそうに飲んでるの見たら、私まで飲みたなってしもたやんか!まだ昼前やのに」
「でも・・たまには、ええな。昼酒も!」
おばちゃんは楽しそうに笑った。

「で、あんたら、これからどこに行くん?」
「まだ、決めてないんですよ、東と西の本願寺さんには行ったんですけどね」と恭子が言った。

「他にも色々、見て回るんやろ?いつまでおるん?京都には」
「それも、決めてないっちゃ・・ね?!」
「はい、彼女、京都は初めてなんで、色々見たいと思うから」

そうか・・・ホテルは?とおばちゃんが聞いてきた。
「そこをまっすぐ行ったとこの、ビジネスホテルです」

「あんたら、ご飯はどうするんや?」
「晩飯・・ですか?」

そうや・・とおばちゃんが言った。

「良かったら、晩御飯、食べにおいで?」
「そない洒落たもんはないけど、おばんざいで良かったら食べさしたげるで」

「おばんざいって、なんです?」恭子が聞いた。

「おばんざいは、この辺の普通の家庭のおかずの事や」
「あんたら学生やろ?お金、あんまり持ってへんのとちゃうか?」

「・・はい」とボクら。