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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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「はい、これからの時間ですと・・寝台急行の銀河ですね」

「あ、それっちゃ!その名前やった」
「な?ロマンチックやろ?」

いいけど、恭子さん、声デカイよ・・周りの客がクスクス笑ってるし。

「じゃ、京都まで、その・・銀河、二人で」
「乗車券とB寝台の急行券でよろしいですか?」

「・・はい」
「では23時発の寝台急行銀河、乗車券と急行券、お二人分で・・・」

「有難うございます」ボクらは切符を買って、取り敢えず駅構内のレストランに入った。

「何だ、恭子、詳しいのかと思ったじゃん」
「いいっちゃ、切符も買ったし、あとは・・11時までどうやって時間潰すか、やね」

確かにまだまだ発車まではだいぶ時間があった。

「どうしようか、時間まで」
「そうやね、あと・・3時間位やね」

「でも、いいやん?」
「もうちょっとしたら、ご飯でも食べて、一杯飲んでたらすぐやろ?!」

「え、また飲むの?」
「アンタ、飲みたくないと?」

いや、いいけど・・この調子で恭子と旅行したら、帰る頃にはオレは歩く奈良漬になってるんじゃないか、一瞬考えて笑ってしまった。


ボクはアイスコーヒーを頼んで、恭子は生ビールを頼んだ。

「やっぱりビールなんだ」
「うん、暑いんやもん」

ま、いいけどね。
取り敢えず乾杯した後、ボクらは相談した。

「で、どこに行くの?京都は」
「アンタは、どこ行きたいと?」

「う〜ん・・そうだな、清水寺でしょ?金閣寺でしょ?あとは・・・」
「あはは、修学旅行コースや、ほんとに!」

「いいじゃんよ、良く知らないんだからさ」

「じゃ、恭子はどこに行きたいの?」
「うちはな・・広隆寺やね、まず」

「へ〜、聞いたことないよ、そこ」

広隆寺にはな、日本の国宝第一号があるっちゃ・・と恭子は話し出した。

「弥勒菩薩っちゅう仏様なんやけどな、これがね・・良かとよ!」
「もうなんとも言えん、お顔でな」

恭子はジョッキを傾けながら、遠い目をして言った。

「うちな、写真集持っとるんよ、弥勒菩薩の」
「へ〜、そんなに、いいんだ」
「楽しみだな、広隆寺ね・・」

うん、太秦っちゅうとこやけね、少し離れてるっちゃ、京都の中心からはね・・と教えてくれた。

「じゃ、向こうではバスか電車で移動?」
「そうやね、ま、ボチボチ行こうね」

「後な、太秦には映画村もあるけね、退屈せんやろ」

あ、いいね、映画村・・・とボクも楽しくなってきた。

「映画村か、それなら聞いたことあるよ、行きたいな!」
「うん、行こう、広隆寺も映画村もな?!」

恭子はニッコリと笑った。

それから店は、仕事帰りのサラリーマンで段々と混みだしてきた。

ボクらは、ピザやフライドチキンなんかをつつきながら、京都の話しで盛り上がっていた。
いつの間にか時間は経っていた。

「あ、恭子、そろそろ、行こうか」
「うん?もう、そんな時間?」

時計は10時45分を指していたから、ボクらは改札を抜けてホームに上った。





       銀河の夜




寝台急行銀河は、堂々たるブルーの車体で静かにホームに佇んでいた。


「う〜ん、貫禄あるな・・ブルートレインか、久しぶりだ」
「え、アンタ寝台車乗ったことあるん?」

「うん、小さい頃にね、家族で宮崎に旅行したんだ」
「その時は確か、富士って列車だった」

「その時が三段ベッドでさ、珍しくてね・・兄貴と二人でベッドからベッドに跳び移って遊んでさ、お袋に怒られたな」
ボクは寝台車の思い出を語った。

「宮崎か、ええとこやね」
「恭子も行ったことあるの?」

「うん、母親の実家やけ、宮崎は」
「市内やけどね、青島とか近いけん、よく泳ぎに行ったと!」
そうなんだ・・と宮崎の話をしながら、ボクらは青い寝台車に乗りこんだ。

扉を入ってすぐ、洗面所とトイレがあった。
その先のドアを開けて通路を進んだ。

ホーム側が通路になっていて、その反対側に三段ベッドが狭いスペースを挟んで向かい合わせになっていた。

「え〜っと・・あ、ここだ!」

僕らの寝台は、ちょうど車両の真ん中辺りだった。

「これだこれだ、懐かしいな・・」
「嬉しそうやね、アンタ!」

良かったろ?うちの選択・・と恭子が言った。

「うん、楽しいね、こういうのも。有難うな、恭子」

とボクは荷物を置いて、ベッドに座った。
ボクらの席というかベッドは、一番下の向かい合わせだった。

「他にも来るっちゃろか、人・・」
恭子が、真ん中と上の段の空いたベッドを見ながら言った。

「どうだろ、まだ発車までは時間あるからね」

乗ってきたら、イヤやな・・と恭子は今度は上目遣いにボクを見た。
ヤバい、恭子は酔ってたんだ。

「あ、何か買って来なくていいの?」
「京都に着くのは、朝の6時過ぎだから・・・けっこうあるよ?時間」

「うちはもう十分やけ、アンタは?」
「うん、オレもいいや」

お腹一杯だよ・・と笑って、ボクは備え付けの薄い浴衣に着替えた。

「うちも、それ着た方がいいと?」
「いや、せっかくだからオレは着るよ。なんか楽じゃん?」

そうやね・・と恭子は思案気だったが、言った。
「うちも、それにする・・せっかくやけ着てみるっちゃ!」

程なくしてカーテンが少しだけ開いて、恭子が顔を出して言った。

「これ、男用たい。大きいっちゃ・・」
「どれ、見せてみ?」

うん・・と恭子はカーテンを開けて出て来て立った。

「ほら・・」と裾は完全に床に付いてて、このままでは歩けない感じだった。

「ぞろびいとる・・」
「ぞろびく?」
「裾を引きずるってことやけ」

確かに。ボクは、まるで子供が大人の着ものを悪戯で着たみたいだな・・と笑いながら言った。

もう、笑わんでもよかろ?と恭子はほっぺたを膨らませて可愛い顔で睨んだ。

「あはは、ゴメンごめん・・でもほんとだ、長すぎるね」
「やろ〜?!」

どうする、脱ぐ?と聞くと、恭子は「いいっちゃ、帯に折り込むけ・・」と一旦、帯を緩めて浴衣を器用に帯に折り込んだ。
これなら、何とかなるやろ・・と。

うん、いい感じっちゃ・・と恭子はボクの前で一回転した。
「どうね?!」
「うん、何か、いいね。恭子の浴衣」

へへ、そうやろ〜!と恭子も笑顔になった。

本当に、こんな薄っぺらい浴衣でも雰囲気が変わるんだな、女の子って。

でな、浴衣やろ?やけ、うちな・・と恭子は、合わせを少し開けて見せた。
「ブラ、外したと・・きゃ!」
恭子は開けた合わせをすぐに閉めて、嬉しそうに言った。

ボクはドキっとして思わず周りを見渡した。
幸い、通路にも窓越しのホームにも人の姿は見えなかった。

「ダメだよ、恭子」
「だって、アンタ好きやろ?ノーブラ。うちもやけね」

そりゃ、そうだけどさ・・・。

「いいっちゃ、どうせ、もうすぐ寝るんやけ」
それに開かんかったら分からんやろ?と何事も無かった様に、ニコニコと。


そうこうしているうちに、11時になり発車のアナウンスがあってベルが鳴り、列車はゴトリ・・とクラシックな響きと共に動き出した。
機関車が引っ張っているという、いかにも緩慢な発車が懐かしい感じだった。