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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

INDEX|25ページ/80ページ|

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「どこの馬の骨とも分からん未来のだんな様と、ユミのひざで泣いて酔い潰れてた川村君と・・どっちが大事?」
「どっちが、好きなん?」
詰めの一手だった。

ユミさんはしばらく考えていたが、言った。

「うん、恭子の言うこと、すごく良く分かった」
「自分が何を心配してたのかも、当てられちゃったしね」

「あ、オガワっちの言ってた男の気持ち?も、良く分かったよ」

「こわいもんなんだね、恋愛ってさ」
「そりゃそうっちゃ!だから真剣になるっちゃ、男も女も」

そうだよね・・うん、分かったよ。とユミさんは明るく言った。

「私、アイツに聞いてみる」
「真剣に私を好きなのかどうか、そんなに・・したいのかどうか」

「それ聞いて、納得出来たら・・いいかな」
最後は、すこし恥じらいながら可愛く頷いた。

「良かった、一時はどうなることかと思ったよ」

「何がね?!うちは思ったことを言うただけやけね?」
「うん、だけど、ユミさん、免疫無いんだから・・驚くのもしょうがないんじゃないかな」

「そうやね、全くお嬢ちゃんは困るっちゃ!」と恭子は笑ってユミさんを見た。
ユミさんはボクらを交互に見て、微笑みながら言った。

「なんか、いいね、アンタ達・・出来上がったって感じするよ?!」

「えへへ、お蔭様で。優しいけ、この人」

はいはい、ご馳走さまですこと、おホホ!とユミさんも笑った、お嬢らしく。


「あ〜あ、スッキリしちゃった、全部、話したら」

「そんなもんっちゃ。悩みって、聞いて貰うだけで半分は軽くなるんやけね!」
うん、ほんとに、そうだね・・・とユミさんはアイスコーヒーを飲んだ。

「ね、オガワっちと恭子ってさ、どうなの?どんな感じの恋人同士なの?」
分かんないよ、そんなの・・とボクは軽く笑って流したが、恭子は意外に真面目な顔で言った。
「この人な、いかんっちゃ」とボクを見ながら。

「え、それってどういうこと?」
「うちの心に、す〜っと水みたいに沁み込んでくるけ・・」

「気づいたらもう、うちはこの人無しではおられんくなっとる」

「こんな顔して罪な男やけ、年下のくせに・・」恭子は、窓の方を向いて言った。

「あの・・それってさ、ひょっとして、ものすご〜く、のろけてる?」
「うん、当たり〜!」
振り返った恭子は、満面の笑みでユミさんに言った。

「分かったろ、ユミ」
「え?分かんないよ」

「恋するとな、人はアホになるってことやけ」
「聞いとられんかったろ?さっきのうちのセリフ」

「うん、どうかしちゃったのかと思った」

「平気でそんなコトが言えるっちゃ・・狂うんかもしれんね、恋すると人は」と恭子は今度はボクを見据えて言った。
目が、あの妖しい目だった。

「恭子は酔ってるんだよ、ユミさん・・ごめんね」
「そうなの?飲んでるとは聞いたけど」

「昨日の海から、飲みっぱなしなんだよ、恭子さん・・」

えへへ、そうです、ず〜っと飲んでますと恭子は笑った。

そしてボクは、昨日の海の事をユミさんに話した。


「そうか、いいな・・二人で鎌倉の海、行ったんだ」
ユミさんは羨ましそうに言った。

「いや、鎌倉っていっても、江の島の手前の小さな漁港だよ」
「おまけに、恭子は水着だったけど、オレはジーパンのままで、ちょこっと水に浸かっただけさ・・怒られたけどね」

あとは、ずっと飲んでたっちゃ、と恭子は笑って言った。
とんだ日帰り海旅行だったっちゃと。

それでも、羨ましい・・とユミさんは言った。

「行けばいいやん、川村君と」
「海やなくてもいいけ、どっか行き?!」

うん、二人で出掛けたいんだけどね、今アイツ、クラブの合宿なんだ・・・とユミさんは寂しそうだった。

「いつまでなん?」
「ん・・明後日?には帰ると思うんだけどね」

「やったら、その後行けばいいっちゃ、二人でどこでも!」
「ユミ、どこか泊りの旅行に行き?!そこで決めるっちゃ!」

「え?決めるって・・バカ、もう恭子は」

ユミさんは、赤くなって下を向いてしまった。

「可愛いっちゃんね、ユミは」
「もう、からかわないでよ・・」

「だって、男の子となんか出かけたコトないんだから分かんないもん。ましてや、泊りなんて・・」とユミさんは小さくなってしまった。

「心配ないっちゃ、いざとなったら川村君が色々してくれるやろけね」
「で、どうなん?川村君は経験あると?」

知らない、とユミさんは言った。

「でもさ、二人とも・・その、初めてでも何とかなるんでしょ?」

恭子は、そんなユミさんを優しい目で眺めていた。

「大丈夫やけ、彼に任せといたらいいっちゃ」
「うん、多分、初めてだったとしても、予習はしてるはずだから」
とボクが言うと、ユミさんはガバっと起きて言った。

「ね、オガワっち、今何て言った?予習って・・なに?」
「どこかの他の人と練習するってコト?」

あはは、違うよ、本とか雑誌とかね、ほら色々あるじゃんか、それ系のハウツー本がさ、その事・・とボクは説明した。


「な〜んだ、もう・・驚かせないでよ」
「雑誌とかなら、いいけどさ」

「私との時のために・・と思ってさ、風俗とか行かれたら、ヤダな、私」

大丈夫っちゃ、そんなタイプやなかろ?川村君は、と恭子が慰めた。


それからのボクらは、ユミさんと川村の「初体験お泊り旅行」には、どこがいいか・・で盛り上がった。

恭子は「やっぱり、海沿いの小さなホテルやね!」
「夜に窓を開けたら潮騒が聞こえて、見つめあった二人はひとつになった・・みたいなんは、どうね?!」恭子は、はしゃいでた。

「いいね、それ。でも何気なく食事してさ、そのままシティーホテルってのも、悪くないんじゃない?自然で」とボク。

きっと、ボクら二人は酔っていたんだろう・・次々にアイディアが浮かんでユミさんを困らせた。

「もう、アンタら勝手な事ばっか言って・・」
「そんな事、言われなくったって考えてるわよ」

ユミさんが白状してしまった。

「え?ユミ、考えとったん?聞かして?」

「私、自分の部屋がいい・・」

「そりゃ、旅行で、ってのもいいけどさ、なんか・・」
「なんか?なんね?」

自分の部屋の自分のベッドが・・とまた俯いて言った。

「そうやね、いいね、それも」恭子はまるで年下の妹を見る様な優しい眼差しで言った。
「結局、落ち着くとこが一番なんかもね」


不思議な感覚だった。
友人のこれからの大事な一歩が、何とかしてうまくいくように・・・とボクと恭子は考えていたんだろう。
お節介と言えば、お節介だったけどね。

「ま、どこでもいいっちゃ!好き合った二人なんやけ」
「ホテルでやろうが、自分の部屋でやろうが」

「ち、ちょっと、恭子・・露骨に言わないでよ、そんな、やる・・とか」

「あはは、なに照れてるっちゃ、ユミ」
「ヤルことはやるんやけ・・大丈夫、アンタらならうまくいくし、その後もきっといい恋人同士になれるっちゃ!」

そうだったら、いいんだけどさ・・とユミさんも微笑んだ。

「あ〜、スッキリだよ!」とユミさんは大きく伸びをした。

「良かったっちゃ」
「うん、有難うね・・恭子もオガワっちも」