ノブ ・・第1部
仰向けで煙草をくゆらせていた恭子は、ベッドに腰掛けてたボクに向き直って言った。
「うちのコト、もっと、知りたい?」
「うん」
灰が落ちそうだったから、ボクは灰皿を持ってきた。
「ほら、消しな?そろそろ・・」
恭子は煙草をもみ消して話し出した。
「うちな、少〜しエッチやろ?」
「少しか?ま、いいや。うん、エッチだね、恭子は」
「そうなんよ、うちも分かってるっちゃ、自分のコトやけ」
「さっき話したQ大の彼な、アイツが初めてやなかと・・・」
恭子は、初体験が高一の時で、相手は高校の一年先輩だった、と言った。
「カッコようてね・・・みんなの憧れだったっちゃ、その人」
「でも、うち、何とか振り向かせよう・・思うて、同じクラブに入ったと」
それが美術部だった。恭子は、元々絵を画くのは好きだったから、クラブにも一生懸命になった。
「合宿があったんよ、夏休みに」
みんなで英彦山に登って、スケッチした。
泊りがけのスケッチ旅行だったが、当然、男女は別々の宿舎だった。
二泊三日の合宿の最後の夜、肝試しをやって、くじで決めたペアの相手がその先輩だった。
「その肝試しの途中でな、先輩にいきなりキスされたと!」
「もう、ビックリしたけど・・嬉しかったっちゃ」
その後で先輩に言われた。
「後で部屋抜け出して来い!って」
二人は消灯時間の後こっそり部屋を抜け出して、電気の消えた食堂で落ち合った。
「そしてな、うちら、もう誰もいなくなった談話室のソファーで、したと」
「え、いきなり?」
「うん、先輩もうちが好き・・って言うけ、良かろって」
大胆だな・・誰か来たら、どうする積もりだったの?とボクは思わず聞いてしまった。
「な〜んにも、考えてなかったっちゃ、二人とも」
「もう・・大変やったと。先輩も童貞やったんよ、実は」
へぇ、童貞と処女の・・・そりゃ、大変だったろうなと、ボクは笑いながらも妬いた。
「でもな、散々苦労して、入ったと思ったら・・・アっという間に終わったと、初体験」
「先輩な、入れた思うたら、す〜ぐやった!」
思ってたよりも簡単だったっちゃ・・と恭子は続けた。
「でもな、暫くしたら嫌いになってしもた」
「え、何で?初めての人だったのに?」
「うん、急にエバリだしたと、その人」
「付き合い出した途端やったね・・・コイツはオレの女や!みたいにな、どこでも呼び捨てで使い走りみたいなコトもさせられたし・・貸した金は返さんし」
「それで分かったっちゃ。あ、コイツは自分を好きな女を自由にしたかっただけなんやって」
「セックスは、ようしたよ。もう会う度にって感じで。でもな、段々詰らなくなっていったっちゃ、うちが」
「・・そうなんだ」
「いつも自分だけ先にイってしもて、済んだらさっさと帰り支度始めるっちゃ、うちのコトなんか放っといて」
「最後はうちが言うたと、別れるって」
「先輩、なんて言った?」
「オレのどこが気にいらないんだ?って不思議そうやったけ、言うたった」
「先輩とセックスしても、ちっとも気持ち良くないし性欲の処理係みたいで、うち詰らんから遠慮しますって」
は〜、さすが恭子さんだ。ボクは聞いてて妬いてたのも苛々してたのも忘れて笑った。
「そいつ、暫く立ち直れなかったろうな・・そんな事言われた日にゃ」
うん、最初は怒ったが最後は泣き出した、とのこと。
「それ見てな、情けなかったっちゃ、自分が」
「こんな詰らん男に夢中になってたんか・・って」
恭子は、深くため息をついた。
「こんな話し、いや?嫌やったら、止めるけ」
「いいよ、恭子の過去一度ちゃんと聞いとかないと、次から次・・だったらオレも辛いからね」
ありがと・・と恭子は抱きついて来て言った。
「アンタも、その人以外の話も・・もちろん、あるっちゃろ?」
「お互いゆっくり、分かりあおうね!」
うん、そのうちにね・・とボクは笑って言った。
「あとな・・」恭子は続けた。
「うち小さい頃から、目覚めてたんやっち、思う」
「どんなことで?」
「小学3年の頃かな・・校庭の隅に登り棒ってあるやろ?」
「うん」
「あれに登って下りる時、ギュ〜っと股で挟むやん?棒を」
「ある日、そうやって下りてた時な・・気持ち良かったっちゃ!」
「何か知らんけど、凄く気持ち良くて、何度も繰り返して登ったっちゃ、登り棒」
多分、お股をギュ〜ってするのが良かったっちゃろね・・と笑った。
ボクは不思議な気分で聞いていた。
そんなに小さいうちから、女の子って、感じるものなのか?
「次は、5年生のときやね」
「あの頃、流行ってたセミドロップっちゅう、変なカッコのハンドルの自転車をな、近所の子が買うてもろて、みんなで乗りっこしたんよ」
「うちも乗ったと」
「したらな、あたるっちゃ、クリちゃんにオカマの先っちょが・・」
「ん?オカマって、なに?」
え、言わんの?こっちでは。自転車の椅子のコトやけ、と恭子は言った。
「とにかく、そのオカマが細くて尖がってたんよ、うちの自転車のオカマにくらべたらな」
「それに、ちょっと前かがみになるんよ、そのハンドルやと」
「それで・・ちょうどのとこに、クリちゃんやったんやろな・・もう、走ってて変な気分になってしもてね!」恭子は笑いながら言った。
「うち、帰ってしもたと!気持ち悪い・・とか言うて」
「ほんとは、逆やったのにね」
ボクも笑った。凄いな、恭子ねえさんは・・・。
「早熟なのかな、恭子は」
「う〜ん、かもしれんけど、みんな似たような経験は多分、あるんやなかろかね、言わんだけで」
「うち、本で読んだコトあるけど、外国では、女の子が乗馬やりたい!って言いだすと、親は思うんやてね・・・あ、この子も、もうそんな年頃なのかって」
へ〜、博識だな、恭子は。
「それが、うちのオナニー生活の始まりやったね」
オ、オナニー生活?ボクは思わず、大きな声を上げてしまった。
「うん、オナニー生活」
「そんな言葉、いつ知ったの?」
恭子は、3歳年上の兄貴の週刊誌などで知識を仕入れてた、と言った。
「下手なんやもん、兄貴。そんなエッチな雑誌、普通は分からんとこに隠すもんやろ?」
「す〜ぐ、バレるとこに隠すんやから・・・いつもこっそり、うちが見てるとも知らず・・な」
それで、自慰行為をオナニーと呼ぶコトを知ったと言った。
「そやね・・中1の頃かな、知ったのは」
勿論、自分がしてたコトをオナニーだったんだ、と知ってショックは無かったと。
「書いてあったけね、悪いことやないんやって」
そりゃそうだろうけど、ね。
「アンタは?いくつの頃やったん?」
「え、オ、オナニー?」
あはは、なに、言い淀んでるっちゃ・・と恭子は笑いながら、ボクの肩を突いた。
「恥ずかしがることないっちゃ、そんなコト位で」
「うん、オレは、中2の頃だね」
「初めて射精したのは・・中3の春頃かな?」
「やっぱり、雑誌?」
「うん、あの頃の、ゴローとか、プレイボーイとか」
「そうやろね、兄貴もそんな雑誌、読んでたけ」
うちはその頃、もっぱらシャワーやった・・・と恭子は言った。