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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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うん、とヨシカワさんは言った。
「何か、そんな風に見えた」
そうか、笑ってたのか、オレは。
ヨシカワさんはニコニコしながらボクを見た。

「ね、何を考えてたの?」
「うん、ちょっとね」

恵子とは来られなかった店に、今こうして別の人と来てる。
考えたら変な感じだった。
時間は経ってるんだな。

「オガワ君ってさ・・・」
「何でいつも一人なの?クラブとかサークルとかやらないの?」
「別にワケは無いけど、面倒くさいのかな」
「趣味は?高校時代は何やってたの?」

機関銃みたいだ、この子は。よくしゃべるんだな。

「う〜ん、山登りは好きだったね。後は、読書とか」
「え、意外!山登りなんてするんだ。それもやっぱり一人で?」
「大体ね」

「お待ちどうさま!」
助かった。ハンスタとアイスコーヒーが運ばれてきて、さすがの機関銃も静かになった。

「うわ〜、美味しそう!いただきま〜す!」
ヨシカワさんは美味しそうにパクパク食べた。

「うん、美味しいね、これ!」
「ね、たくさん食べる女って嫌い?」
「・・・え?いいんじゃないの、人それぞれで」

「じゃ、すみませ〜ん、ご飯のお代わり下さい!」
はは、良く食べるんだな、ヨシカワさんは。
目の前でこれだけ気持ちよく食べられると、不思議なことに爽やかな感じだった。


「ね、山登りって、どんな山登ったの?」
食べながら・・機関銃が帰ってきた。

「北アルプスとか、飛騨とか奥秩父とかね。知ってるの?」
「ううん、全然分かんない。私、こっちの人じゃないから」
こっちの人じゃないって、じゃどっちの人なんだ?
その言い方がおかしくて、つい笑ってしまった。

「あ、オガワ君の笑った顔、初めて見た!しかも間近で」

その言いっぷりがおかしくてまた笑ってしまった。
「そんな、オレだって笑うよ、生きてるんだから」
「あはは、そりゃそうたいね!」




       九州の女の子




「・・・そうたいね?」
ヨシカワさんって、どこの人?と思わず聞いてしまった。
「あ、私?福岡。小倉の近くの戸畑ってこと」
「なんで?言葉、変だった?」
「いや、そうたいねって言ってたからさ、どこの人なんだろうなって思って」
「いやん、北九州弁出てしもたん?!」
あはは、まるで出てるよ、北九州弁?が。とボクは言った。

「いいね、方言って」
「オレ、生まれてからズッと東京だから、自分の言葉って感じで方言話す人って、いいなって思ってね」
「嫌や〜、恥ずかしいやん!方言なんて・・カッコ悪いっちゃ!」
「そう言ってる割には方言じゃん?それも」
「いいよ、何か可愛い感じするし」

ほんと?とヨシカワさんはボクの目を覗き込んで言った。
「田舎もんって・・バカにせん?」
「何で?オレ好きだよ、方言」
「したら、私、方言で話しても良かと?」
「うん、そっちの方が話しやすいんじゃないの?ヨシカワさんも」

嬉か〜と言って、ヨシカワさんはご飯を平らげた。
何でだろう、この子と話してると何か自然に笑顔が出てくる。

「あ〜、美味しかったばい!うちのほうやったらね、うまかっちゃん!って言うと」
「うまかっちゃん?」
「そう、美味しい!って意味」

美味しいことを、うまかと言うのだと教えてくれた。
「あとはね、うまかったばい!とか、うまかっちゃんね〜!とか」
「へぇ、バリエーション豊富なんだね、面白いね」

「オガワ君、良かったらコーチしちゃるばい、北九州弁の」
「あはは、楽しそうだな、それ」

実は、東京に出てきて北九州弁を話す相手がいなかったから欲求不満なのだ・・とヨシカワさんは言った。
だからボクが話せたら、私の欲求不満も解消されると。

その言い方がおかしくて、ボクは声を出して笑った。
欲求不満ね・・・。

食べ終わってボクらはジローを出た。

「なら、明日から学校で会うたら北九州弁のレッスン始めようね?!」
「うん、よろしくね、先生」
「あは、先生はなかばい!」

ボクらは三省堂の前で別れた。

久し振りに笑ったな・・ヨシカワさんか、面白い人だ。
突然、ボクの前に現れた九州弁の女の子。

「ま、いいか」

ボクはアパートに帰った。
そう、大学に入ってボクは独り暮らしを始めていたのだ。

三省堂の裏のすずらん通りから少し入ったところの三階建ての鉄筋アパート、そこの二階の角部屋。
築年数は、恐らく・・・30年、いや、もしかしたら戦前からの建物かもしれない。

天井が高くて通りからは奥まっていたから、静かだった。
でも、取柄はそこだけ。

窓のサッシは鉄製でガラスは斜めにワイヤーが入ってる代物だったから、上下の開け閉めは重く男のボクでも一汗かく仕事だった。
床は年代物のフローリングで、傷だらけのしみだらけだったから気は遣わずにすんでたけどね。

間取りは2Kだった。一部屋を勉強部屋、もう一部屋を寝室にして簡単なベッドを置いた。
このベッドは、入学祝いに親父から買ってもらったものだ。
勿論、新品だったが「随分、シンプルで堅いベッドだな・・」と思ってたボクも間抜けと言えば、まぬけ。
何の事は無い、親父は医療機械のメーカーに頼んで大き目の診察台を買っていたのだ。

「下手な安物のベッドより、こっちの方がよっぽど体は楽だぞ!」
そうなのかもしれない、しかし親父さん、流石に硬過ぎだったよ・・。

寝室には、あとは簡単なジッパーで閉める洋服ケースだけを置いていた。

勉強部屋には、デスクに本棚。
そしてデスクの引き出しには、銀のオルゴールが入っていた。

ボクは冷蔵庫から缶ビールを一本出して飲んだ。
「ふ〜、コイツがうまい季節なんだな、もう」
ひと心地着いたところで、夏の到来を思った。
「これからどんどん暑くなって、夏になって・・・」
どうしたらいいんだろう、7月が来たら。
恵子との思い出がギッシリ詰まった、夏という季節。
今年は・・・一人なんだ。



翌日の朝、学生控室で自動販売機のまずいアイスコーヒーを飲みながら食後の一服をしてると、ヨシカワさんが声をかけてきた。

「おはよう〜、オガワ君!」
「お早う、元気だね、ヨシカワさん」
「当たり前ばい!朝ごはん、しっかり食べたけね!」
あは、北九州弁も全開だ。

「オガワ君は?どげんしちょるん?朝ご飯」
「どげんって?あ、途中で何か買って来てここで食べるかな、大体」
「何ば食べたと?今朝は」
「途中で買ってきたサンドイッチ」
「う〜ん、いかんちゃ、いい若いもんが。そげなもんだけじゃ、腹減って仕方なかろう?」
「いい若いもんって、同級生じゃん、君も」
ヨシカワさんは、ヘヘっと笑って言った。
「オガワ君って、現役?浪人?」
「現役だけど、ヨシカワさんは?」
「あはは、うちは二浪っちゃ!人より勉強好きやけね」

なる程、そういう言い方もありなんだ、面白いな。
「一限目は、何?」
「うん、英語」
一緒たいね、とヨシカワさんは言った。

「いっつもは、どこに座っとるん?」
「大抵、真ん中位かな、何で?」
「オガワ君、友達少なそうやけん、うちと講座が一緒の時は隣に座ちゃろうかなと思ってね!」

はぁ、有難い申し出なんですが・・・そうか、そう思われてるんだ、オレは。