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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

INDEX|16ページ/80ページ|

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竜宮城を思わせる駅舎に、恭子は歓声を上げた。


ボクらは新宿までの切符を買って、ロマンスカーに乗った。



ロマンスカーは、まだ時間が早かったせいか空いていた。

発車まで少し時間があったから、ボクは「何か、飲みもの買ってくる?」と恭子に聞いた。

答えは分かっていたが、案の定・・ビールだった。

「ハイハイ」ボクは一度下りて、ホームの売店で冷えたビールを買った。

電車に戻ると、今度は恭子がちょっとトイレに行ってくると席を立った。

程なく恭子は戻ってきて、シートに座った。

「あれ、換えてきたっちゃ」
「ん?あれって何?」

もう、女の子の微妙な日のヤツっちゃ!と恭子は言って、笑いながら缶ビールを開けた。

「ふ〜、美味しい」
「な、うち、飲み過ぎ?」
「いいんじゃない?だって、まだまだ恭子、酔ってないだろ?」

ううん、結構うち酔ってる・・と恭子はビールを抱えたまま、ボクにもたれてきた。

ロマンスカーが走り出した。

「楽しかった、海デート」
「うん、楽しかったね」

「ね、これからもっともっと、二人で出掛けよう?色んなとこ連れてってな?」
「せっかくの夏休みやけね」

うん、とボクは頷いて恭子の肩を抱いた。

「こうしてると安心するっちゃ」

「アンタが好き。黙ってても笑ってても、アンタの横顔、凄く好き・・・発見やね、これは」
「な、その彼女はアンタのどこが好きやったん?」

「知らないよ、そんなの」
「怒らんけ、教えて?どこがいいって言うてた?」

ボクは、言葉に詰まった。
恵子が言ってたことは覚えてはいたが、恭子に言うのか?それを。

「ゴメンね、変なコト聞いたね、うち・・・」
「ちょっと考えてしもた。きっとその彼女もうちも、アンタの同じとこ、好きになったんかな〜って」

前の彼女が気になるもんなんよ、女って・・・と恭子は小さな声で言ってうなだれた。

「オレはオレだから、自分のコトなんて良く分かんないよ」
としかボクは言えなかった。

「そのうち、うちにだけ分かるアンタのいいとこ探すけね?」
うちしか知らん、アンタのいいとこ・・・と。

「有難う、でもあるのかな、そんな魅力がオレに」
ボクは、そんなコトを言う恭子が可愛くて頭にキスをした。


ロマンスカーの心地良い振動と揺れで、ボクは段々と眠くなっていった。

歩いて海で泳いで、また歩いて・・・だったから。

いつの間にか恭子も静かになっていて、こくりコクリと船をこぎ出し、ボクの胸に顔を押し付け完全に眠ってしまった。

ボクは、恭子が持っていたビールを代わりに飲んだ。

「ふ〜、結構ハードな一日だったな」

窓の外はやっと夕暮れの空になって、一日の終わりを感じさせた。


胸からは恭子の規則正しい寝息が聞こえてきた。

話して笑って、はしゃいで・・・一生懸命にボクの気持ちを明るくしてくれようとしてた、恭子の寝息。

自分の腕の中で安心しきって眠っている恭子。

昨日と今日の二日、ボクにとってとても大事な二日間になったんだな・・・と、そんな恭子を見てて改めて思った。

この子が、自分の中の凍っていた、止まっていた時計を再び動かしてくれた。
暗かった心に再び光を当ててくれた。

そして、人を好きになる温かい気持ちを思い出させてくれたんだ・・・。

ボクは嬉しくなって、ギュと抱きしめた。

「痛いっちゃ・・」
恭子が呟いた。

「どうしたん?」
「あ、起こしてゴメン。嬉しかったからさ」

「何がね?!」
「恭子と、こうしていられるコトがさ」

ふふ、と恭子は笑って言った。

「アンタも寝とき?東京に帰ったら家で飲みなおすけね!」
「はいよ、恭子姐さん」
ねえさんは、止めり・・と恭子はボクのお腹を突いた。
暫くボクらはじゃれあっていたが、そのうちに眠ってしまった。

「お客さん、新宿ですよ!」とホームに到着して、最後の見回りの車掌さんに起こされるまでボクらは熟睡していた。





       二人の時間




新宿からは、中央線で御茶ノ水に帰った。

途中ボクらは、疲れと酔いと日焼けのためか、妙にハイテンションだった。
黙ったかと思えば、いきなり二人で笑いだしたり、また黙って夕焼けのお堀端に見入ったり・・・。

御茶ノ水駅を出て薄暮の明大坂の途中で、恭子は言った。

「今夜はうちの部屋に来てな?!」
「アンタんとこ、シンプルなのはええけど」

分かってるよ、ボクの部屋が女の子向きじゃないこと位はね。

「いいけど、夕飯はどうする?」
「何か買って行こうか、恭子も疲れてるから作るのは億劫だろ?!」

そやね・・しばし考えて恭子は「赤ちょうちん、行かん?」と言った。
「うち、まだお腹空いとらんけど、つまみながら飲みたい!」

「うん、いいよ」

ボクらは、すずらん通り沿いにあった焼き鳥屋に入った。
お互いの部屋は目の前だったけど、面倒だったから部屋には寄らず服はそのままだった。

恭子はノーブラでよれよれのワンピース。ボクのジーンズからは、汐と汗の匂いが鼻についた。

「けっこう、匂うな、ジーパンが」
「いいっちゃ、どうせ誰も気にしとらんよ!」

えらく簡単に片づけられたもんだ。ま、そんなもんだろうけど。

ボクらは酎ハイで乾杯した。
恭子はレモンハイ、ボクはウーロンハイで。

「夏休みに!」と恭子。
「汐臭いジーパンと、ノーブラに!」とボク。

なんや、それ!と恭子は笑い転げながら、グ〜っと飲んだ。

「あ〜、解放感やね・・夏休みの」
「ほんとだ、試験は終わったし、恭子も追試は無かったみたいだしな!」

そうよ、うちだってやれば出来るんやけね!と嬉しそうにグラスをあおった。

運ばれてきたつまみを突きながら、ボクらは今日一日のお互いの無茶ぶりを振り返って、また笑った。

計画性の無い夏の一日が、こんなにも楽しいとは。

それもこれも、恭子が一緒だったからなんだろうな・・・とボクは言った。

「ふふ、そう思ってくれたら嬉しいっちゃ!」
「うちな、アンタを元気付ける積もりやったけど、自分も楽しんでしもたもん!」

「うちもアンタとおったら、他の誰とおるよりも楽しいってコトやね!」

小首を傾げて微笑みながら、ボクを見つめて恭子は言った。

そんな恭子の眼は、またあの妖しい光を湛えているように見えて、ボクは少しドギマギしてしまった。

「恭子、具合は?」
「なん?生理?」

「うん、お腹・・・痛くないの?」

大丈夫、こうして楽しく飲めるんやけ・・と恭子は早くも一杯目のサワーを空にした。

「大丈夫?」
「心配いらんちゃ!うちな、いかん時は飲めんのよ」

「今日は、気分がいいけん」
とボクをジっと見つめて言った。

それならいいんだけど・・とボクも飲んだ。

モツの煮込みなんかを食べながら、恭子は今度は焼酎のロックを頼んだ。

「ひゃ〜、いくね、ガンガン」
「へへ、知らんかったっちゃろ?うち、きっとアンタより強いかもしれん」

「うん、オレもそう思うよ。オレ、そろそろ回ってきたもん」

九州の女は強いっちゃ!と恭子は美味しそうにロックのグラスを傾けた。

それからのボクらは、時々見つめあっては微笑んで・・・静かに飲んだ。