ノブ ・・第1部
おっちゃんに怒られて、堤防に上がったボクらは笑いが止まらなかった。
「なんで、お風呂みたいに言うんだ?恭子は!」
「だって・・・言わん?そんな風に」
いいけどさ・・ボクらは濡れた体を焼けたコンクリートに横たえた。
「いいね、海・・」
「うん、気持ちよか。うち、こう見えて泳ぎは得意なんよ!」
怒られちゃったけどな、また二人で笑った。
暫く横になっていたが、汐と汗で体がベタついてきたので、水を被りたくなったボクは言った。
「な、体、流そう」
「うん」
ボクらは、またあの商店に行った。
おばちゃんに「この辺にシャワー浴びられるとこ、ありませんか?」
と聞くと、おばちゃんは言った。
「うらの水道で流せばいいよ。なに、あんたら港で泳いだの?!」
はい、怒られちゃったけど、と笑うと、今はうるさいんだよね、昔はこの辺の子供ら、み〜んな港で泳いでたんだけどね・・・と、トコトコと店を出てボクらを裏に案内してくれた。
水道にはホースがついてて「いいよ、好きなだけ使って。ビール買ってくれたからね!」と言い残しておばちゃんは店に戻った。
有難うございます、とボクらは順番に汐を流すことにした。
店の裏は通りからは死角になっていたから、恭子は大胆にビキニのブラを外して堂々と水を浴びた。
もう、ビキニの跡がくっきり分かる位に焼けてた。
「どう?色っぽい?」
こぼれそうな胸を左手で隠して、悪戯っぽく微笑みながら、右手で水を流した。
「うん、かぶり付きたくなる!」
「見たい?」
当たり前じゃないですか、そんなの!
恭子の目が、昨日の夜の目になっていた。
「良かよ・・・見ても」
恭子は頭から水を被りながら左手で髪を梳いた。
露わになった乳房は、綺麗に持ち上がったり下がったり・・恭子の腕の動きに合わせて上下した。
白い乳房にピンク色の乳首が可愛かった。
可愛い乳首にキスしたかったけど、さすがに我慢した。
恭子は、ビキニの下は脱がずによく水をとおして汐を流した。
「・・これはさすがに脱げんね」
と悪戯っぽい目でボクを見て微笑んだ。
次にボクも水を浴びた。
火照った肌に、冷たい水道水は気持ち良かった。
頭からザブザブ浴びてサッパリした。
海水で重くなっていたジーンズにも、よく水を通した。
ボクが浴びている間に恭子は、ワンピースを着て、商店に何かを買いに行った。
恭子は、小さ目のビーチバッグを買ってきた。
「濡れた水着は、これに入れるけね!」
「え?水着脱いだ後の着替えは?持ってきたの?」
「えへ、上はいいっちゃ。どうせ、歩いてもブルンブルンするほどやないし」
・・・ってコトは、ボクは驚いて、口をあんぐりしてしまった。
「ノーブラってこと?」
「大丈夫、下はそのままやけね!」
上は大サービスやけ・・・とけらけら笑った。
全く、驚くコトを平気でする子なんだな・・・特に酒が入ると。
ボクらは水浴びの後、また江の島に向かってブラブラ歩いた。
日差しはまだまだ強かったけど、サッパリしたせいか、恭子も元気になっていた。
「ね、お腹、空かん?」
「うん、そうだね」
確かに、もう昼を大分過ぎていたから、思いだしたら猛烈に腹が減ってきた。
ボクはジーンズから水をぽたぽた垂らしながら、恭子は水色のワンピースのお尻のところだけ・・・水着のパンツの形の染みをつけて歩いた。
お互い、もうどうでも良くなっていたのかもしれない。
楽し過ぎてお腹が空き過ぎて。
「なに、食べたい?」
「う〜ん、最初に見つけた店でこのカッコで入れるならどこでも何でも良かよ!」
あはは、確かに。気取った店なら断られる可能性は大だもんね!
江の島までの道々、どこも小奇麗なレストランや和食の店ばかりで、ボクらの格好で入れる雰囲気ではなかった。
太陽は若干傾いたが、まだまだ勢いは強く容赦なかった。
「ふ〜、暑いね」
「うん、でも夏だから、しょうがないっちゃ」
汗だくの顔で、恭子はボクを見上げた。
でも微笑みは忘れてはいなかったから、ボクも微笑まない訳にはいかなかった。
とうとう江の島が視界いっぱいに大きく見えてきた。
と同時に、手前の海水浴場には色とりどりのパラソルが沢山見えた。
ボクは思いついた。
「ね、海の家でご飯たべようよ!」
「水着で大丈夫なとこ・・・って、海の家位だろ?!」
「え?海の家って、アンタの知り合いの家があるん?」
「・・へ?」
「海の家ってどこなん?」
驚いた。恭子には海の家は通じなかった。
どんなものかを話したら「それ、うちらの方じゃ、浜茶屋とか砂敷っち言うんよ」
「海の家とか言うけん、分からんかったっちゃ」
二人で笑った。
なるほど、趣きのある言い方だな・・浜茶屋も砂敷も。
「シャレてるな、その呼び方の方が」
笑って元気の出たボクらは、江の島海水浴場におりて一番近い海の家に入った。
勿論まわりは水着だらけだから、何の遠慮も無く。
ボクはラーメンとカレーライス、恭子は焼きそばとおでんを食べた
あと、冷えたビールも。
「ふふ、きっと町中で食べるより何割かは美味しくなってるっちゃね、これ!」
「あはは、同感だな」
「でも空腹に勝る調味料無し・・とも言うからさ、今のオレ達だったら町中でコレ食べてもきっと、うまいって言ってるよ!」
そうやね・・と恭子は笑いながらおでんを頬張った。
ボクもお腹いっぱい、飲んで食べた。
食事が終わってもボクらは、暫、海の家の椅子に座ったまま、海を眺めていた。
キラキラと輝く波光に、人々の笑い声・・・。
浜辺は幸せに溢れていた。
「・・・忘れてたな、こんな気分」
ボクは目を細めて、幸せな気分を味わっていた。
セブンスターに火を点けて、ゆっくりと吐きだした。
流れる煙を見つめながら恭子は言った。
「ね、帰らん?」
「あ、うん・・・もう、いいの?海は」
「うん、もう充分やけ。うちな・・・」
恭子は煙を見つめたまま、テーブルの上のボクの手を握った。
「早う、帰ろう?!」
「分かった・・」ボクは煙草を消してお勘定を済ませた。
日陰の外に出て少し傾いた日差しの中を、ボクらは国道を渡って小田急の駅に向かった。
「せっかくだから、ロマンスカーで帰ろうか!」
「なん?そのロマンスカーって」
「特急電車の名前だよ」
へ〜オシャレやね・・と恭子は握った手を離して、腕を組んできた。
「こんなん、いや?」
「ううん、イヤな訳ないじゃん」
そして、ボクの左手を自分の胸に押し付けた。
柔らかかった。
駅の手前の橋の上で恭子は「うちな、さっき煙草吸ってるアンタ見てたら、キスしたくて抱きつきたくて我慢できんかった」
「そやけ、早よ帰りたいっちゃ」
ギューっと抱きしめたい・・と恭子は立ち止まってボクを見上げて言った。
周りには大勢の人がいたが、ボクは恭子にキスをした。
恭子もボクの首に手を回して、強く唇を吸った。
「ひゅ〜、アッツいね!」
通りすがりの観光客がボクらをはやしたが、気にはならなかった。
唇を離して「早よ、帰ろう?!」
恭子はボクの手を引いて駅に向かった。
「なん、これ?!可愛いっちゃ〜!」