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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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心臓の鼓動が速かった。

二人の汗が混ざり合って二人を包んでいたが、そんな汗まみれも心地良かった。

「・・・ありがとう」

ボクは心から恭子にお礼を言った。

「何で、ありがとうなん?」
「嬉しかったから」

それだけ?と恭子は頭を持ち上げて微笑んでボクを見た。

「気持ち良かったし」
「あとは?」

「・・大好きだから」
「うん、それで満点」

恭子は優しくキスをしてくれた。
そして、アンタはもう独りやないけね・・・と抱きしめて囁いてくれた。



シャワーを終えた後、二人で仰向けに寝台に横になったが微妙に狭い。

「あは、こりゃ寝返り打ったら痛い思いするね?!」

ボクのTシャツを着た恭子が笑いながら言った。

「うん、そうかも」
「オレ、出来るだけ大人しく寝るよ」

そのボクの言葉に恭子は爆笑した。

「大人しくって、どんなね!寝てる時までは自信無かろ?」
確かに、その通り。

「・・・したら、こうしよ?」
恭子は横を向いて、ボクの左の脇の下に丸まった。

「うち、小型サイズやけね、これで邪魔にはならんばい!」
「アンタが突き落とさんかったら・・な」

微笑みながら見上げる恭子は可愛らしかった。

身長は多分150センチ位なんだろう、ボクより20センチ以上は小さかったから恭子はすっぽりと収まった。

「眠いけど、寝とうない」
恭子が呟いた。

「アンタのこと気になりだしたんは、5月辺りからかな」
「最初は、変なヤツ・・位にしか、思っとらんかったと。でも、段々目につく様になってしもて」

気づいたら好きになっとった、と。

ボクは、控室での遣り取りからジローの前での偶然の出会いに驚いたことを話した。

「そうやね・・あん時は嬉しかったっちゃ!あ、コイツ、意外と優しいんかな?って思うたもん」
「うん、オレもあんまり食べるんで驚いたよ」
いやや・・と恭子はボクのわき腹に顔を押し付けてきた。

ボクは、そんな恭子の髪を撫でながらいつの間にか眠りに落ちた。





     雨上がりの朝





起きた時、恭子はいなかった。

ボクは部屋を見渡して、寝室の窓のカーテンが閉まっていることに気付いた。

起き上って洗面所にいくと、コップにピンクの歯ブラシがささっていた。

「あいつ・・」

ボクが眠い目をして顔を洗って歯を磨いてた時に、ガチャっと玄関が開いた。

口の周りを歯磨き粉で白くして振り返ったボクは、買い物袋を両手に提げた恭子を見た。

「あ、起きたん?おはよ!何もないんやもん、アンタの冷蔵庫」
「仕方ないから買い出ししてきたっちゃ・・」

「・・・・」モゴモゴと言葉にならないボクに、恭子は「いいっちゃ、早よしてしまい?ほれ、よだれ!」

ボクは白いよだれを垂らしてたことにも気付かず、モゴモゴ磨いてたから。

恭子はテーブルに袋を置き冷蔵庫を開け、整理し始めた。

「今朝は天気が良かけね、眩しかろっち思うてカーテン閉めたと」
「寝られた?」

ボクは、ガラガラ・・とうがいと済ませて言った。

「うん、有難う・・お陰で、今までグッスリだったよ」
「起きていなかったからビックリしたけどね」

寂しかったっちゃろ〜?!と恭子は冷蔵庫を閉めて笑いながら抱きついて来た。

「朝ごはん、作るけね・・ちょっと待っとってね!」

「あ、シャツとジャージ、勝手に借りたけね」

恭子は台所で朝食を作り始めた。

ボクは、やっとシャッキリして、パイプ椅子に座って一服しながらそれを眺めてた。

コーヒー、飲むやろ?と振り返った恭子は、氷の入ったグラスにアイスコーヒーを入れて持って来てくれた。

「アンタは、ブラックやったね」
「不味かったら、ゴメン。初めて淹れたっちゃ、ドリップで」

恭子の淹れてくれたコーヒーは、ちょっと酸味が強かったけど、濃くて美味しかった。

「うん、美味しいよ。有難う」

良かった、と微笑みながら呟いて恭子は朝食作りに戻った。


朝食を作ってくれてる恭子の後ろ姿を眺めながら、ボクは昨夜のコトを思い出していた。

妖しい雰囲気の恭子と、今の、今朝の青空の様に健康的な恭子。

「どっちも、素敵かもな・・」と独りごちて、目を閉じて朝の一服とコーヒーに幸福を感じていた。
パンの焼けるいい匂いがしてきた。

「・・・お待たせ〜!」との恭子の声で、ボクは吾に帰った。

二枚のトーストに、焼いたベーコンとレタスと目玉焼きが挟まれて豪快に真っ二つになっていた。

あと、サラダっちゃ・・・と恭子はお皿を並べて椅子に座った。

「頂きます」
いただきま〜す、とボクも言って、二人で食べた。

トーストサンドは美味しかったから、ボクは一気に食べた。

それを恭子は嬉しそうに眺めて言った。

「な、朝ごはんは、ちゃんと食べないかんやろ?元気の元なんやけね!」
「・・・はい」
サンドイッチを頬張りながらボクは笑った。
でも、恭子はサンドイッチと睨めっこをしていた。

「どうしたの、食べないの?」
「うん、うちな、ちょ〜っと二日酔いっちゃ。それとな・・」

「なに?」
「来たっちゃ、アレが」

その頭痛と腹痛で、食欲が湧かないっちゃ・・と頬杖をついた。

なんだ・・・自分は食べられないのに作ってくれたんだ、ボクのために。

「有難う」
「何で?いいっちゃ、うちはアンタがちゃんと食べとるかどうか、ずっと心配やったんやけ」
「うちの分も食べり?!」

微笑みながら、恭子は窓の外を見てからボクを振り返って言った。

「いい天気やけ、どっか行かん?」
「うち、海が見たい!」

ボクはモグモグしながら言った。
「うん、行こう!でも・・・」
「でも、なん?」

「具合は?平気なの?」

こんな痛みは慣れてるから平気だ、と恭子は大きく伸びをして言った。
そして、もう、梅雨も終わりっちゃね・・・と。






      夏の海




ボクらは、国鉄の横須賀線に乗って鎌倉を目指した。
電車の中では、恭子は静かだった。

「頭、痛いの?」
「ううん、違う。下の方なんよ」

ボクは鎮痛剤はと言いかけて、急に恵子との出会いを思い出した。
・・・あの時は、持ってたんだな、オレ。

急に静かになったボクを見て恭子は言った。

「どうしたん?心配せんでね?大丈夫やけ」
「いざとなったら、薬も持ってきとるから」

うん、分かった・・といい加減な返事しかボクには出来なかった。
暫くの間、恵子との思い出が頭を駆け巡っていたから。


鎌倉駅に着いて江ノ電に乗り換える時、恭子が言った。

「うわ〜、可愛いかね、この電車!」
「東京にも、あるんやね、こんな可愛いいの」

あのね、ここは鎌倉、神奈川県だよと言うと、恭子は「うちにしたら、同じ東京近郊やね、括りとして」と言った。
括りってなんだよ、ボクは思わず笑ってしまった。

最近、恵子を忘れようとしていた訳ではなかったが、恭子の出現でボクは少しづつ物思いにふける時間が少なくなっていた。

そんな変化を恵子はどう思うのだろうか。
それとも、もう・・・。



「ほら〜、アンタ!海うみ!」

電車が海岸線に出た時、恭子は子供みたいにはしゃいでボクの首を窓の方に捻じ曲げた。