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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ  ・・第1部

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ボクは苦笑するしかなかった。だって、ヨシカワさん、真面目に言うんだもん。

「笑わんで?何で?いい部屋やん」

有難う、と言いながら、ボクはクーラーのスイッチを入れた。

ゴオンゴオンと盛大な音を立てて、古ぼけたクーラーが動き出した。

「その辺、適当に座ってて?」
「今、冷えたの持っていくからさ」

有難う、とヨシカワさんは、キッチンの緑色のパイプ椅子に腰かけた。

そう、よく体育館とか会議室とかで使うヤツ、あれが二つに、テーブルだけのキッチンだったからね。

「自炊、しとるん?」
「ううん、殆ど外食」

「栄養、偏るけね?外食ばっかりやと・・」

分かってるんだけどね、面倒くさくてさ。

「ビールしかないや・・いい?」
「うん、よか」

ヨシカワさんは、まだきょろきょろして、落ち着かない風だった。

「・・はい」

冷えた缶ビールを開けて、手渡した。

「乾杯や」
「何に?」

ユミと川村君に、とヨシカワさんが言い、その後から小さな声で、オガワ君とうちにも・・と。

「うん、カンパイ!」二人で、缶のまま、飲んだ。

「ふ〜、美味しっちゃ!お酒好きな女は、好かん?」
「ううん、好きだよ。オレも強いほうじゃないけど、好きな方かもしれないからね」

良かった・・・ヨシカワさんは可愛く両手で缶を抱える様にして、飲んだ。

「何か、つまみ・・いる?」
「ううん、食べるのは、もうよか・・飲みたい」

うん、そうしよう。

ボクはラジカセのスイッチを入れた。カセットから流れてきたのは、リー・オスカーのハーモニカだった。

「あれ、オガワ君、ハモニカ好きなん?」
「最近ね、何か、いいな・・・と思ってさ」

「うちも好きなんよ。トゥーツ・シールマンズとかも好きやね」
「あ、オレもシールマンズ大好き!」

「ほんと?嬉しいっちゃ!絵も音楽も、趣味、似とるんやね、うちら」
ニッコリと微笑むヨシカワさんは、ほろ酔いなのか、色っぽかった。

暫く、音楽の話しで盛り上がった。

クーラーが効きだして、ボクは窓を閉めた。
りー・オスカーの雰囲気が良かったのか、ヨシカワさんが言った。

「ね、電気消さん?」
「うん」

電気を消した。それでも部屋は窓からの明かりでぼんやりと明るかった。


「うちな・・・」
ヨシカワさんが話し出した。

「酔ってくると、まぶしいのが苦手になるんよ・・赤うなった顔を見られとうないんかもしれんけど」

ブルーグレーの部屋の中で、ヨシカワさんはテーブルに左手で頬杖ついて、右手で缶をゆらして微笑んでいた。
いい女なんだな・・とボクは思った。

「オガワ君が忘れられん人って、きっと美人やったんやろね」
「気になるの?」

当たり前やんか・・とヨシカワさんは鼻で笑った。好きな男が惚れてる女を気にしない女はいない・・・と。

そして言った。
「気になるけど、気にせんようにする。写真もあるんやろ?いいけね、うちには見せんで?!」
「見てしもたら、きっと頭に残ってしまうけん」

「ね、キスせん?」
「うん」

オガワ君、今その人のコト考えたろ?うちな、今は・・二人っきりの時はうちのコトだけを想ってほしいけん・・・と言った。

「分かった」

ボクは座ってるヨシカワさんの隣に行って、床に膝立ちした。
そして、ヨシカワさんの膝に手を置いて言った。

「目、つぶって」

ヨシカワさんは、目をつぶってボクを待った。
ボクは椅子ごとヨシカワさんを抱きしめてキスをした。

二人の舌が絡み合って、ヨシカワさんも両手でボクを抱きしめた。

「んん、オガワ君」

唇を離したヨシカワさんが言った。

「うち、うち・・・」
「いかんっちゃ、酔ってしもたみたいや!」

ボクの首を抱えたまま、ヨシカワさんは言った。

「汗、流したい・・」
「いいよ」

ボクはヨシカワさんを風呂場に案内した。
少しよろけてたから、手を引いて。

「ちょっと待ってて・・」

蛇口を捻ってお湯が出るまでの間、ボクは風呂のタイルの床を掃除した。
「ん、汚ね〜な」

ま仕方ない、我慢して貰おう。この際だからね。

「いいよ・・」と風呂場を出て声をかけると、ヨシカワさんは、脱衣所でワンピースを脱ぎかけたとこだった。

「きゃ、オガワ君・・何してるっちゃ?!」
「なにって・・お湯出して、掃除してたんだよ!」

「そっか、忘れてたっちゃ・・酔ってるんやね、うち」

「入らせて」とヨシカワさんが入った。

ボクは、さっきのヨシカワさんの姿にドギマギした自分に驚きながらも、嬉しかった。

残りのビールを飲みながら、ボクは待った。
カセットをグローバー・ワシントン・Jr に換えた。

ビールが終わって、ボクはセブンスターに火を点けた。
ふ〜・・オレ、今夜あの人と寝るのかな。

不思議に恵子のコトが頭に浮かんだが、悲しくはなかった。





      寝台の上の二人




ヨシカワさんが、出てきた。
体にバスタオルを巻いただけで。

「ふ〜暑いっちゃ!こんなカッコでゴメンけど・・」
「お水、欲しい」

パイプ椅子に腰かけたヨシカワさんが、言った。

髪をまとめて、火照った体にバスタオルだけの姿は、素敵に刺激的だった。

「はい、お水・・」

ボクは下僕の様に姫さまに水を差しだした。

「有難う」
白い首の喉仏が上下して、水が流れ込んでいった。

「美味しい」
「・・・もう一杯」

姫に差し出されたコップに、ボクはまた水を満たして渡した。
ヨシカワさんは今度は一口だけ飲んで、ボクを見つめて言った。

「オガワ君、ベッド、どこね?」
「あ、こっちの部屋だよ」

姫をベッドに案内すると、姫は笑いながら言った。

「なん、コレ。診察台やんか〜!」
そうだけど、ボクにとってはベッド、つまり診察台じゃなくて、寝台なんだけど・・・。

さすがオガワ君、いい趣味っちゃね〜・・と言いながら、姫はボクを抱きしめて診察台に倒れ込んだ。

「ね・・抱いて」

寝台の上でボクに覆いかぶさったまま、ヨシカワさんはボクの両肩を押さえて見つめて言った。

「その彼女を、忘れさせちゃる・・って言いたいけど、ムリやろ?!」
「そうやけ、少なくともアンタがうちのコトを忘れんように」

ヨシカワさんの唇は熱かった。ボクに全身を預けて、彼女はキスをしてきた。
彼女の舌がボクの口の中をまるで何かを探す様に蠢いた。
そして、ボクの舌をなぞりだした。

両手は、ボクの頭を抱えて・・・。
ボクは背中がゾクゾクする気分を味わいながら、下から彼女を抱きしめた。

「んん・・」彼女はキスしたまま、何かを言った。

「え、なに?」
唇を離したボクに「好き・・」と呟いて、またボクの唇を吸った。

「暑い!」と彼女は言って起き上ってバスタオルを外した。

窓から入るささやかな明かりの中でも、彼女の裸身は浮かび上がって見えた。

「ね・・」
「うん?」

「うちのこと、好き?」
「好き」

なら、いいっちゃ・・と彼女は言い、ボクのシャツを脱がせた。

脱がせた後、彼女はボクの掌に自分の掌を合わせボクの両手の自由を奪い、お互いにバンザイした格好で見つめあった。


完全にホールドアップだった。

「ヨシカワさん」