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ef (エフ)
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夢の途中4 (121-151)

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[何をぬかす!わざわざそんな事を言う為にこの屋敷の奥までずかずかやって来たのかお前の顔などもう見とうは無い!帰れ! さっきも知っての様に、美智子は晴れてこの花田の家の養女となった。 この上は美智子に優秀な外科医を添わせて花田総合病院を継いで貰う。お前には何もやらんからそう思え!]
「分かってる!僕は香織と一緒になったその時から、この家に帰る積りは無くなったんだ!今更そんな心配はして貰わなく結構だよ、父さん!」
[そうか、分かったらとっとと出て行け!]
その時、漆の盆に茶卓を載せた美智子が書斎の中に入って来た。
「お父様、お待ちになって! 折角孝則さんがこうしてお見えになったんですから・・こんなことではお母様が浮かばれませんわ・・・」
そう言って、互いにいきり立つ二人を宥めた。
「孝則さん、理由はともあれ、明日は斎場までお母様をお見送りして?一人息子の孝則さんに見送られなければ、お母様は浮かばれないわ・・・お父様、この通りお願いです
<(_ _)> でなければ、花田の家が世間様から言われの無いそしりを受けます・・」

 「ただ・・・・・花田家のご葬儀です・・・・香織さん、でしたわね?貴女はご遠慮頂けますか?」
 美智子は香織の顔を正面から見据え、きっぱりと云った。
 『・・・・・・分かりました。 でも、せめて明日も一般の席からで結構です、お焼香だけはさせて下さい。 私はそれで引き取りますから・・・』
「お父様、それで如何でしょう?」
[・・・ふん、好きにするが良い!・・・・]
「孝則さんもそれで宜しいですわね?」
{・・・・・香織、すまない・・・・・}
『貴方、良いのよ・・・・貴方は存分にお母さんとお別れして?では、私はホテルに戻ります。失礼します。』
孝則を書斎に残し、香織は部屋を出た。
廊下を歩き大広間まで出ると、大きな祭壇の中央で登美子の遺影が香織に微笑みかけていた・・・
(・・・・お母さん、・・・・・・・・・)
親族が遺影の前で車座になり酒を酌み交わしていたので、少し離れた廊下に独り正座し手を合わせた。
(お母さん、有難う御座いました・・・・)
香織の閉じた目から新たな涙がこぼれた。
玄関を出ようとした時、孝則が追ってきた。
{香織、ゴメンよ、嫌な想いさせてしまって・・・・・}
『良いのよ貴方、私の事は・・・・今夜はずっとお母さんの傍に居てあげて・・・』
{・・ああ、そうするよ・・・独りホテルで寂しい想いをさせるけど・・・・明日は一緒に帰ろう。}
『うん。じゃあまた明日来るから。』
{ああ、気をつけてね。}
香織は孝則を花田の家に残し、大宮の駅前にとったビジネスホテルに向かった。
香織を玄関まで見送った孝則に、従弟の文雄が寄って来た。
「奥さん、帰っちゃったのかい?」
{ああ、また明日来るよ・・・・文ちゃん、すまなかったな、言い難い事を親父に言って貰って・・・・}
「いや、そんな事・・・孝ちゃんも苦労するな、あんな親父さんだと・・今時勘当何て時代錯誤もいい所だよ・・・皆そうは思ってるんだけど、実際色々と援助して貰ったりして、面と向かってはね・・・・」
事実、巌は親戚縁者にたいする面倒看は良く、結果的にその発言力を増して行ったのだ。
孝則は借り物の猫のように、大広間の隅で母の遺影を見つめた。

 夜も更けた頃、まばらになった大広間に美智子がやって来た。
「孝則さん、孝則さんのお部屋にお休みの用意が出来ましたわ。 ここは寒いわ、お風呂に入って、お休みになって?御着替えも用意してますから。」
『・・・ああ、有難う・・でも、僕は此処で良い・・・・一晩、母さんと話がしたいからね・・・・』
「・・まあ、何か拗ねてるみたいね・・・さっき、私が出過ぎた真似をしたと思っているんでしょ? ああ云わなければお父様は納得なさらないと思ったの・・・・香織さんには申し訳ないと思ったけど、ああでも云わないと・・・・」
『・・・ああ、分かってるよ・・・美智子のお陰で、母さんの骨を拾う事が出来るんだ、感謝するよ。  
しかし、美智子が花田の養女に成っていただなんて、知らなかったな・・・
母さんもその事は一言も・・・・いや、別に非難してるんじゃ無いぜ?』
「ほんの二週間前の事よ・・・・あの通り、お父様は云いだしたら誰の云う事もお聞きにならないわ・・・私はイギリスから帰ってずっと、花田病院の経営見させて貰っていたの。
だけど中に入ってビックリしたわ・・・
かなり繁盛している病院だと思ったけど、実情は火の車・・・事務長が出入りの製薬会社や医療機械の業者から良いようにリベート貰って、随分高い買い物をさせられていたの・・・
その事務長をクビにして、ここ二年でようやく適正な利益が上がるようになって来たわ。
お父様、大層喜んでくれて、お前を花田家の養女にして俺が優秀な外科医を連れてくるjからそれと結婚して花田総合病院を益々大きくしろ!って・・・・
お母様がおろおろなさっているうちに弁護士を呼んで・・・あっと云う間だったわ・・・でも誤解なさらないで!私がお父様にそうしてくれと言った訳じゃ無いのよ?」
美智子の濡れた瞳が孝則をじっと見た・・・
『・・ああ・・それは分かっている・・・父さんは昔から美智子の事が大のお気に入りだったからな・・・』
「ねぇ孝則さん、だったらお酒召し上がる?身体の芯から暖まるわよ」
『ああ、そうだな・・熱燗で一本貰おうか。』
「ええ、じゃあ早速用意するわね♪」
美智子はいそいそと孝則の酒の用意に台所に向かった。
そして暫くすると大広間の隣りに在る四畳半の次の間に孝則を呼んだ。
漆塗りの卓には熱燗を二本と小さな寿司桶一つが於いてあった。
「さあ、孝則さん、どうぞ♪」美智子は孝則の横に坐って酌をした。
『ああ、ありがとう♪・・・・・・・・・ゴクっ、ゴクっ、ゴクっ・・・・
あ~~、滲みるなァ~~♪』
「まあ、良い呑みっぷりねぇ~♪さあ、どうぞ♪沢山召し上がってぇ♪」

神戸からロクに何も口にしないまま大宮に着き、焼香を済ませた後も【四面楚歌】のようなこの場所で独り母の遺影を眺めて過ごしていたのだ・・
不思議と空腹感も湧かなかった。
しかし、目の前に食べ物を並べれられて、初めて自分が空腹で在ったことを思い出した。
美智子に薦められるまま、空き腹に立て続けに熱燗の酒を流しこんだ・・・
酒は好きだが、強い方では無かった・・・
酔えばすぐ眠たくなる・・・
記憶が無くなることもしばしばあった・・・

それにしても・・
何故か、今夜は何時もより早く酔いが回った・・・


 その後の事を孝則は覚えていなかった。
気が付いた時にはかつての自分の部屋のベッドの中で眠っていた。
奇妙に思ったのは、ベッドの中で孝則は全裸だったことだ。
 夢を見たような気もするが、思い出せなかった・・・
着替えて大広間に行くと、葬儀屋が告別式の準備をしていた。
告別式は午後1時からだった。
「孝則さん、おはよう。 朝食の用意が出来てるわ♪
お父様と一緒じゃ嫌だろうから、孝則さんのお部屋にお持ちしますわ♪」
孝則の背後から美智子が声をかけた。朝から弾んだように機嫌の良い声だった。
『ああ、おはよう。すまないね・・・』
作品名:夢の途中4 (121-151) 作家名:ef (エフ)