夢の途中4 (121-151)
「ああ、ここんトコずっと良い天気が続いてるから、観光客も多くてよォ・・・・店が忙しいのは良いんだが・・・こんな時に俺がこんな事になっちまって・・・あいつ等には面と向かって言った事はねぇが・・・・すっかり迷惑かけちまったと(/_;)・・」
香織は、何時も強気の熊田が一回り小さくなったような気がした。
病室の窓辺に飾った切り花の花瓶の水をかえようと香織がした時、次女の静子が病室に入って来た。
[あ、香織ママ、ごめんねぇ~~!(/_;)・・・・]
『ああ、静ちゃん、こんにちわ♪(^^)/ お父さん、大分良いみたいね♪(=^・^=)』
[ うん、お陰さまでね♪ 根っから身体は頑丈に出来てるから♪(^^)v お医者さん、驚いてたもん、すごく太い骨だって!
この骨が折れるんだから、余程無茶したんだろうねって、アタシ、イヤミ言われたよ!
(-_-メ) ]
「そうだ、オメェらがこき使うからこうなんのよ♪(^。^)y-.。o○」
女二人の会話に熊田は口を挟んだ。
[まっ、こんな憎まれ口叩くんだよこのクソオヤジィ~!(--〆)
ママ、どう思う?(-_-)/~~~ピシー!ピシー!]
『うふふ♪甘えてるのよ、静ちゃんに♪(^_-)-☆さっきだって私に・・・』
「ああ~、ション便、ション便行ってくらァ~!(@_@;)ああ、漏れそう!漏れそう~~!」
熊田はベッドの脇に立てかけてあった松葉つえを両脇に挟み、慌てて病室を出て行った。
『うふふ♪(#^.^#)熊田さんたら、心にもない事言って♪
さっきも、私には、こんな忙しい時にこんな事になって、皆に申し訳無いってしょげてたのに・・・・』
[・・・・父ちゃん、香織ママには素直になれるだね・・・・ねえ、香織ママ、ウチの父ちゃんの事・・・どう思ってるの?]
『え?・・・どうって私は・・・熊田さんにはお世話になってるし・・』
[そんな事じゃ無くて、ウチのお父ちゃんの事好きか嫌いか・・・どっち?(^_^;)・・・・もう、母ちゃんが死んで10年になるの・・・・男手一人でアタシや兄ちゃんたち4人の子供を育ててくれて・・・最初の頃は親戚中から【後妻】の話しを持ち込まれたのに、『お前らが継母に苛められちゃ可哀想だ。そんな事になったらあの世でおっかァに合わせる顔がねぇ!』って、頑なに拒んだ父ちゃんだった・・・子供心に父ちゃんは母ちゃんの事、愛してるんだなァって思ったもの・・・そんな父ちゃんが5年前から少しずつ変わって来た・・・・
それは香織ママ、ママがこの町に来てからだよ・・・・
香織ママが来てから父ちゃんの顔に笑顔が見られるようになったんだよ?]
意外な人物から自分の熊田への気持ちを確かめられ、
香織は狼狽した・・・
熊田の気持ちをまるで知らない香織では無かった。
前オーナーの北村夫妻に託されたこともあろうが、今まで熊田が自分にしてくれた数知れない好意・・・
男がさし出す好意に裏も表も無いと思う程、香織は世間知らずでは無かった。
しかし、自分は余所から来た流れ者であり、対する熊田はこの地で代々続いた由緒ある農園の主人(あるじ)。
家族も多く親戚縁者も多いこの地でもし仮に後妻にと求婚されたらどうするべきか・・・
香織はそんな場面をずっと恐れて来たのだ。
由緒ある家系に入る・・・・・
その事は、かつて香織が辿って来た忌まわしい過去を思い出させずにはいなかった・・・
その忌まわしい過去とは・・・
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章タイトル: 第19章 忌まわしい過去 1992年冬
その忌まわしい過去とは・・・
香織は北村和子と共に働いた横浜の総合病院に居た時、同じ病院の若い内科医と恋に落ちた。
香織が30歳、相手は2歳年下の28歳、名前を「花田孝則」と云った。
花田の実家は埼玉県の大宮で代々続く私立総合病院で、孝則はたった一人の跡取り息子だった。
当時、実家の父・巌(いわお)はまだ現役の外科医で在り、心臓外科の権威であった為、時折出身大学の大学病院で難度の高い心臓の外科手術を依頼される程であった。
父に比べ孝則は、子供の頃から気弱で優柔不断な性格の為、周囲も到底外科医には向いていないと思っていた。
しかし父巌は、自分の後を継ぐ者もまた優秀な外科医であらねばならないと孝則を厳しく叱咤する。
何とか医大に合格し、孝則は彼なりにかなりの努力はしたが、結果的には外科を断念し、小児内科医に転向した。
その事が巌の逆鱗に触れ、一時勘当状態になり孝則は実家との行き来が疎遠になっていたのであった・・・
そんな時、孝則は同じ病院で働く2歳年上の看護婦と恋に落ちた・・・
孝則には巌が決めた遠縁の娘・岡田美智子と云う婚約者がいたのだが・・・
孝則は自分に親が決めた許婚が居るのにも拘わらず、
香織との恋に燃え上って行った。
香織も一旦火がつけば情熱的に男を愛する性質(たち)だった。
二人は出会って三カ月後には香織のアパートで同棲するようになる。
更に半年後には横浜の病院を二人とも辞め、駆け落ち同然で神戸に逃げた・・
勘当を言い渡したにも拘わらず、父・巌は勤務先の院長に圧力をかけ、香織を退職に追い込もうとしたり、孝則に許婚・美智子を近づけ、香織との仲を裂こうとしたからだ。
香織と孝則は北村和子に相談し、幸いにも和子がかつて勤めていた神戸の個人病院を紹介して貰い職を得た。
そして神戸で婚姻届を出したのだ。
二人は晴れて夫婦となった。香織32歳 孝則30歳の春だった。
それから5年間二人は、慎ましくも誰にも邪魔されない幸せな日々を送った。
二人は自分たちの子供を望んだが、なかなか香織に妊娠の兆しは現れなかった。
香織も孝則も子供は好きだったのだが・・・
勿論夫婦揃って婦人科の診察を受けもしたが、二人とも特に身体の異常は無かった。
孝則が35歳の時、実家の母親・登美子がクモ膜下出血で亡くなった。 63歳だった。
夫・巌から勘当を言い渡されたされた息子ではあっても、現在の法律にそんな効力は無く、夫に隠れ、何時も二人の行く末を気に掛けていた登美子であった。
孝則にとって、常に厳父・巌からの盾となってくれた優しい母だけに、ただ巌の罵詈雑言に耐えさえすれば母親を見送ってやることが出来ると思い、大宮に帰って来た。
香織とて、世間から隠れるようにほんの数回会っただけの姑ではあったが、ひとり息子の見染めた嫁を我娘の様に抱きしめてくれた温もりを昨日の事の様に覚えている・・
だから、例え針の筵に坐らせられようと、最後に一目登美子に逢って礼が言いたかった。
花田家の屋敷は大宮市の住宅街にあり、大谷石が城壁の様に組まれた約五百坪の敷地と屋敷は他を圧倒していた。
通夜の夜、屋敷の周りを延々と焼香客が列を作っていた。
孝則と香織が受付に駆けつけると、病院の事務関係者の他に、孝則と年が近い従弟の間島文雄が居た。
「あ、孝ちゃん!来てくれたんだ!さあ、早く!こっちこっち!」
孝則と香織は文雄に促され、三人の僧侶が読経する中、二間の襖を取り払って造った60畳の大広間に入った。
作品名:夢の途中4 (121-151) 作家名:ef (エフ)