笑撃・これでもか物語 in 歯医者
高見沢の親不知、日本でも何度か疼いたことがあった。
その度に歯医者に通った。そして、いつも歯医者から告げられた。
「この歯は、前へ向って水平に生えていますよね。ちょっと抜歯するのは無理かな。うーん、それは難しいし……、危険ですよ」
これにいつも高見沢は「危険? そうなんですか」と、うじうじと返して、痛み止めの薬をもらうだけだった。
そしてとどのつまりが、ひたすら疼きがおさまるのをじっと待つ。それが日本での治療だった。
要は、日本の歯医者からは完全に見放された親不知。
だが明らかにその日は違った。アメリカ人のデンティスト・マ−クは、その親不知を見るなり力強く宣言したのだ。
「I will take out !」
これには高見沢も大びっくり。
日本語で言えば、「私が、抜いちゃいましょ!」 と、アメリカ男の抜歯一発決めだ。
「ねえマークさん、もう少し考えてよ。危険なんですよ!」
高見沢はそう訴えたかった。しかし、あまりの迫力に反論する英語がうまく出てこない。
「OK? イチローサン、ア−ユ− OK?」
高見沢はマークから矢継ぎ早にせっつかれて、「OK」とハズミで返事をしてしまったのだ。
それからの事だ。まるで格闘技のデスマッチ。それが始まったのだ。
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊