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笑撃・これでもか物語 in 歯医者

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 しかし、治療室に入るなり高見沢はびっくりする。部屋には治療のための椅子が一つポツンと真中にあるだけ。それはどう見ても床屋の焦げ茶色の椅子。
 こんな情景、そう言えば、……。高見沢は幼い頃を思い出した。

 あれは随分と昔の事だった。 
 田舎でおばあちゃんに連れられて、初めて虫歯の治療に歯医者さんに行った。
 それは夏休みの出来事だった。
 当時はク−ラ−もなく、診療室は暑かった。そしてその真ん中に、ぽつりと焦げ茶色の古びた椅子が一つあった。
 まさに時計の針を巻き戻したかのようなもの。その昔の情景、そのままなのだ。

「ふうん、なんとも言えないなあ。それにしても、なつかしいなあ」
 高見沢は妙に感心している。 
 するとそんな時に、妖艶な受付嬢が突然現れ、近寄ってくる。そして高見沢を椅子に座らせてくれたり、前かけをしてくれたりする。
 これはどうも受付嬢が歯科助手への緊急的変身なのだろうか。しかしこの女性、妖し過ぎる。

 高見沢はあまりのあだっぽさになんとなくおかしいなあと思いながら、ドクトルの顔を覗き込んでみる。するとドクトルはニヤニヤッと笑っている。 
 高見沢はそっと小指を立ててみる。ドクトルはまたニヤリと笑う。どうも小指の意味が通じているらしい。そして高見沢は、ドクトルがそばに来た時に、小さな声で聞いてみる。

「ラ・ノビア?」(恋人か?)
 ドクトルはヤクザっぽい割にはどうも照れている。メキシコ人らしくない。