笑撃・これでもか物語 in 歯医者
高見沢が「ブゥエノス・タルデス」(こんにちは)と言って歯医者に入っていくと、受付から年の頃は三〇歳前の妖艶な女性が現れ出てきた。
「スゴイ色気のある人だなあ。なんでこんなところにこんな美人がいるのだろうか? 掃き溜めに鶴とはこの事か。やっぱりこの地域はベッピンさんの宝庫なんだなあ」
高見沢がこんな感心をしていると、ドクトルが満面の笑みを浮かべながら現れた。
ドクトルは高見沢と同年輩のようだ。
しかし、どう見ても歯医者さんらしくない風貌。どことなくヤクザっぽい感じなのだ。
「ミ・アミゴ!」
ドクトルは高見沢を見るなりそう叫んで、ニコニコと人なつっこく寄ってくる。そして「アキ、ツカサ」とまで言ってくれている。
これはこの地域の人たちの挨拶の定番セリフ。まずは相手を「私の大事な友達」と位置付け、そして「ここはあなたの家ですよ、だからリラックスして下さい」という歓迎の意思表示なのだ。
高見沢はこれに対して、まずは「ムーチョ・グラシアス」(めっちゃありがとう)と返した。そして、「ジョ・テンゴ・ウン・プロブレマ」(ちょっと問題がありまして)と言って、持って来た金のクラウン(かぶせ)をドクトルに見せた。さらに、「これを填め直して欲しい」とドクトルに伝えた。
「ノー・プロブレマ!」
日本語で言えば、「問題ない、私に任せなさい」という感じ。ドクトルからはえらく自信満々に、そして明るく返事があった。
高見沢は「大丈夫かな?」と疑いながら、言われるままに治療室へと入って行ったのだ。
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊