笑撃・これでもか物語 in 歯医者
しかし、マ−クは容赦しない。高見沢の口の中へペンチを突っ込んで、親不知を力まかせに挟み込む。そして左右に大きく一〇回くらい揺する。
高見沢一郎は今、スポットライトが当たった地獄図絵巻の主人公。そしてそのクライマックスはやっぱりやってくる、突然に。
ゴリッ!
この世に存在しないような鈍い音を発し、親不知は……ついに抜けたのだ。
一時間以上にも及んだ『これでもか』の親不知デスマッチ。その挙げ句の果てに、高見沢はほとんど死に体状態。
しかし、事はこれだけでは終わらなかった。
口は腫れるだけ腫れている。思うように開けられない。なんと五ミリも開かないのだ。
麻酔が切れて痛さが増してきている。そのためか口を動かせない。しかし、このままじっとしていれば、口はそのままの状態で固まってしまう。今から口のリハビリが必要ということらしい。
マ−クが径一センチから五センチの何本かの丸棒を持ってきた。そしてそれらを無理矢理に握らせる。その後だ、歯科助手のオバチャンが実に嬉しそうに説明をしてくれる。
最初は細い丸棒をくわえ、徐々に太いのをくわえて行き、口が開くように訓練しなさいと。
その上に、親切にも、丸棒を使ってデモンストレ−ションまでも……。オバチャンが三センチくらいの太さの丸棒をくわえ込み、実演してくれるのだ。
しかしどうも……オバチャンの口元、その動きが妖しい。
「オバチャン、それって、ひょっとして……、なにか勘違いしてない?」
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊