笑撃・これでもか物語 in 歯医者
高見沢一郎は万事休す。こういった場面では「オ−マイガッド!」と叫ぶのがアメリカ人の定番セリフ。
だが高見沢は日本人。そのためか、ただただ「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」と念仏を唱えるだけだった。
その一瞬のことだった、タコ糸はついに「Yaaa!」という叫び声とともに引っ張られた。
「うっ! うー!」
高見沢は悲鳴を上げた。
しかし、これも世の常。こういった事は思惑通りには行かないもの。意図せぬ結果になったのだ。
きっと切り込みの溝が深過ぎたのだろう。
親不知の先っぽ、そのかけらだけが糸に絡められ、ぴゅーんと空中に飛び出しただけだった。
肝心の根っ子は、残ったまま。
「シット!」
これもアメリカ人の定番セリフ。日本流に言えば、「クッソー!」。マ−クは思い切りそう叫んだ。
一方日本人の高見沢、麻酔で痺れ切った舌を動かして、日出ずる国・まほろばの民らしく「コンチキショ−!」と唸ったのだ。だが声帯までもが麻痺してしまっているのか、残念ながらこれは声にはならなかった。
そして、これもまた世の常。悲劇はさらなる悲劇へと繋がって行くもの。
高見沢は予感した。究極の修羅場を。
作品名:笑撃・これでもか物語 in 歯医者 作家名:鮎風 遊