小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
セールス・マン
セールス・マン
novelistID. 165
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

庭自慢とビスマルク

INDEX|4ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

「車で送ってくださったのよ」
「誰が」
 余りにも真剣に眼を細めるので、グリアは一瞬言葉に詰まった。
「覚えてないの?」
「ああ……いや、覚えてる」
 しかめっ面の前で手を振り、グレゴリオは唸った。
「そう、キャロルだった」
「ええ」
 手から離れたスコップは地面に戻る。カリフォルニアは秋でも十分暑い。汗ばむ化粧気のない額を肘で拭ってから、グリアはいつも通りの諦観を備えて夫の傍を横切った。
「少し早いけれど、お昼にする?」
「ああ」
「卵、目玉焼きでいいかしら」
「構わない」
 通り過ぎる表情を見ても、グレゴリオはアルコールによる不快感以外の表情を表さなかった。今更の事とは言え、ため息は消えてくれない。結局一抹の期待に促され、振り返ってしまう。思ったとおり、夫の後姿は何も言わなかった。きつい逆光の中で、ぼんやりと背中を丸めたまま動かずにいる。見てしまった後悔と、後悔を忘れようとする努力が混ぜ合わされた結果中和された平たい心を引きずり、台所へ向かう。夫はともかく、彼女自身は非常に空腹だった。これも期待のせいだ。グレゴリオが起きてくるのを待っていたら、朝食を食べそびれてしまった。



 大きく開いた背中と胸元を覆うショールはドレスと同じ黒色で、玄関の照明で見ただけでも値段の張るものだと良く分かる。身のこなしに従って波のように光るそれが汚れるのもお構いなしに、今をときめくキャロル・ロンバートはグレゴリオに肩を貸していた。映画や噂話でその姿はすっかり見知ったものとなっていたが、実際に対面するのは初めてである。
「こんな夜遅く、ごめんなさい」
 寝巻きに着替えず寝室の椅子で編み物を続けていたし、風呂だっていつでも沸かせる。時間から考えてまた酔いつぶれているだろうことは眼に見えていたから、水差しを満たした。最悪帰ってこないという可能性も浮かんだが、流石に4日も家を空けたとなると、昔から伊達男の夫のことだ、服を気にし始めるに違いない。一人ぼっちで過ごすには広すぎるリビングで、グリアは昼のうちに全て計算しておいた。だから、エンジンの音が聞こえた途端、玄関に向かうことが出来たのだ。けれど、たった一つ予想外の出来事。
 足をふらつかせるグレゴリオはキャロルの肩から身を離すと、一言すまない、と呟いた。笑顔を返す女の顔をこちらに向けるため、グリアはわざと冷たい声色を作った。