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庭自慢とビスマルク

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 穏やかだが、底辺にある固さを隠しきれない声で、グレゴリオは聞き返した。ほんの数メートル離れたところにいて、黄色い日光にあぶりだされはっきりと見えているはずなのに、夫の表情が分からない。恐る恐る、グリアは答えた。
「スーツはクリーニングに出すつもりだったの。でも、シャツくらいなら家で何とかなるかと思って」
 言葉が完全に乾いた空気の中に消えても、グレゴリオは黙ったままだった。二日酔いで汗ばむのだろう。人差し指を襟と肌の間に突っ込み、足元の大きな桶を見下ろしていた。大きくなる戸惑いの中心で縮こまりながら、グリアは夫を見守った。
ボタンが千切れそうなほど乱雑に襟ぐりを伸ばせば、頻繁に動く喉仏が露になる。唾液を飲み込んでいるのではなく、笑いで震えているのだとグリアが気付いたのは、夫の小さな唇が性急に、だが柔らかく曲げられたのを確認してからだった。
「シャツくらいなら、か」
 胸の奥を震わすような含み笑いを漏らし、地面に腰を下ろす。頭を揺らせばまだ痛いのだろう。眉間を指先で揉みながら、グレゴリオは俯いた。無理に捻り出す感情の意味を殆ど探れず、グリアは園芸用スコップの柄を両手で絞るようにして握り締めていた。とりあえず、一つだけは分かる。今の夫は、気まぐれに発せられる意地の悪い感情を以って彼女を捉えているのではない。
「その言い方、お袋にそっくりだ」
 地面についた左手の指先は、萌えたつ短い芝を愛撫するように撫でている。白い肌は濃緑の草の中で浮き上がって見えた。芝生の生えた庭を持つようになるなんて、ニューヨークにいる頃は想像もしていなかった。似合わない。自分も、夫も。
「いや、やっぱり捨ててくれ。絶対に取れないよ。泳いだんだから」
 純白だったはずだ。だが、盥の中の綿シャツは菫のような紫色に染まり、辛うじてカラーの部分の色むらが、本来別の色であった事を示している。変な形に腕を曲げたまま漂白剤の中をたゆたう自らの服にはそれっきり見向きもせず、グレゴリオはゆっくりと首を捻った。妻ではなく、彼女の後ろで咲き誇る花を見ているらしい。焦点は定まらず、今にも瞳が溶け出して流れてしまいそうなほど気だるげに緩んでいた。
「昨日帰ってきたの、あれ、何時くらいだったのかな」
「3時過ぎ」
 掌の土を払い、息をつく。思ったよりも大きく、寂しげに聞こえたことが自分でも悲しかった。