庭自慢とビスマルク
「野放しになんかしてないわ。これでも結構厳しいのよ」
割り込むようにして言葉を放つキャロルは眩しい。やっとのことで、少しだけ肯定的に彼女の顔を見ることが出来た。うっすらと、ぎこちなく微笑めば、やはり彼女は屈託ない笑顔で少し首を傾げた。
「それと、さっき通りがかりに見たんだけれど、素敵なダリアね」
答えようとするより先に、グレゴリオが頷いた。
「だろう。庭いじりばかりやってるからな」
耳打ちはくすぐったさと、幸福を与えてくれる。
「あれ、いつ咲いたんだ?」
「今朝よ」
抑えきれない高揚で返せば、グレゴリオは甘い顔のまま頷いた。それがたとえ、この場限りの取り繕いのものでもいい。グリアは今、とてつもなく満ち足りた気分を味わっていた。
「もっと咲いてたら、一本持って帰って貰おうと思ってたんだが」
「そうしてもらいましょうよ。まだまだ蕾はたくさんあるし」
つい浮かれて同調すれば、キャロルは心底申し訳なさそうな顔で首を振った。
「そんなの悪いわ。それに私たち、今から国債販促のキャンペーンに行くの。途中で萎れたら、可哀相」
軽やかな動きで助手席に飛び乗り、シガレットを吹かす夫を促す。
「行きましょう。面倒くさいけれど、国のためですものね」
去り際まで、乾いた地面へ華やかさを一面に振りまきながら、キャロルははっきりとグリアの顔を見て言った。
「今度、お昼しましょうよ。男達は放っておいて」
「ええ。喜んで」
コンバーティブルの大きなホーンとエンジン音が静けさを破る前に、グリアは咄嗟に頷き、返事をしてしまった。
「愉快な子だろう」
ドアを開けてやりながら、グレゴリオはのんびりと言った。
「気立ても良くて、純粋だ。彼女も言ってるんだ、一緒に遊んで来たらいい」
「ええ、でも私、そんな」
「気後れすることなんてない」
困ったように微笑み、肩に手を乗せる。
「クラークも、この前のパーティーの後、君の事を褒めてたんだぞ。良い奥さんだって」
「それこそ、言葉の綾よ」
「あいつはお世辞を言わないことで有名なんだ」
階段の手すりへ引っ掛けたままになっている数本のネクタイを取り上げ、つまみ上げるようにしてぶら下げる。
「どれがいいかな」
「何を着ていくの?」
「明るい生成り色の」
「どれも似合わない気がする」
「選んでくれよ」