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庭自慢とビスマルク

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「クラークとキャロルが挨拶したいって言ってるけど、来られるか?」
 これが今日最後のチャンスだと、グリアは直感で知った。必死の形相で立ち上がった彼女を見て、グレゴリオは敷居の上で立ち止まった。不安気な顔にかぶりを振り、意思を示す。
「大丈夫」
 はっきりと言えば、夫はしばらく考えてから、黙って手を差し出した。勇気を出して、その手を掴む。必要ないはずの緊張に気付かれないようにと願ったが、グレゴリオはいつもよりも優しく、まるで彼が得意とするボレロを踊らんとステージへ誘うかのようにゆっくりと、その手を握り返した。



「昨日の晩はごめんなさい、不愉快な気持ちにさせてしまって」
 二台停まった車の前で、あどけない表情を浮かべ謝罪するキャロルの言葉が、どの範囲までのことを差しているかが分からず、グリアは曖昧に微笑むしかなかった。
「だって、グレッグったら貴女のこと何も教えてくれなかったんですもの」
ウエーブした髪をブラウスの襟から跳ね上げるようにして振り返った先では、夫であるクラークが苦い笑いで首を振っていた。スクリーンで見るよりも遥かに柔和な空気を漂わせるハリウッドの王は、7つ年下の妻を、噂よりもずっと真摯に愛しているようだった。感情は全てに、眼にも、口元にも現れている。
「ゲイブもね。そんなに見たいなら、自分の眼で確かめてきたら良いって」
「君の好奇心には恐れ入るよ」
 そっぽを向いたまま、グレゴリオは言った。
「気が済んだだろう。何も変わったところなんかありはしないさ」
 もう少ししたら買い換える予定のシボレーを指で叩く仕草は、どこか忙しない。反応を楽しむように、キャロルは眼を細め、微笑んだ。
「そうね。貴方が言ったとおり」
 正面にある子猫のような顔をグレゴリオは見ようともしなかった。益々、愛車のミラーへ視線を逃してしまう。
「ニューヨークの町で一番の美人で、ペネロペイア並に貞淑ですって?」
 思わず隣へ眼を向けたが、逸らされた横顔から表情は窺えない。
「言葉の綾だよ」
 けれど、いつものように声色の調節すらしないぶっきらぼうな口調で分かる。恐らくその顔つきを眺めているのであろうキャロルとクラークの楽しそうな笑みが、全てを語る。
 今日一番の大袈裟な吐息を漏らしてから、グレゴリオはやっとのことでクラークを見据える。
「あんまり嫁を野放しにしておくのは良くないぞ」