庭自慢とビスマルク
ぱっと満開に開いた彼女たちの笑顔は、薄曇りの中でも眩しく輝いて見える。無垢な光に押しやられた雲は、たちまちグリアの心を占領し、灰色を増して膨らんだ。
何度も礼を言いながらスカートを翻して去っていく少女たちの軽快さがこの場の空気から消えるまで、グリアは門柱に身を預けていた。頭では狐の毛皮ばかり考えていたが、眼だけは、埃っぽい沿道を捉え続けていた。隣家の――名前は覚えていないが、著名な脚本家が住んでいるらしい――彼女が暮らす邸宅よりも少し小さな建物へとまっすぐ伸びる白い土は、太陽の光を吸い取って乾いた匂いを立ち上らせている。ニューヨークの僅かに赤っぽく、常に湿気を含む土が懐かしい。思ってしまい、慌てて打ち消す。
今の生活に不満足なわけではない。ただ、手を取り合っていた少女たちの姿を見たら、リトル・イタリーの友人たちに会いたくなった。そう言えばまた、グレゴリオは嫌な顔をするのだろう。面倒は起こしたくない。夫は彼女の家族を嫌っていたし、彼女の両親は彼の職業と、血筋を卑しんでいる。にも関わらずグレゴリオは、両親と暮らす姉はおろか、嫁いだ妹にまで仕送りをしてくれるし、クリスマスには親戚で過ごすという慣習を受け入れ、文句も言わずニューヨークへ送り出してくれた。理想はおろか、考えもつかなかった贅沢と恩恵にあずかっている。このうえグリアは、夫の奔放な生活を詰ることなど、出来なかった。
ぼんやりしている場合ではない。腰で結わえたエプロンの紐を締め、置きっぱなしになっている皿のところに戻る。夫を待たせるわけにはいかないし、何よりも、このまま何も考えないでいたら、またいつもの不安が陽だまりの暖かさに便乗して浮かび上がってくるかもしれない。
『あなたと結婚しなかったら、私どうなってたでしょうね』
忙しさが足りないのだ。だからこんなことを考え付く。自らを叱咤しながらも、空想は結末が見つかるまで止まらない。
結末は繰り返し頭の中で作っていたから、答えは知っていた。けれどあえて聞いた。それは、グリアが結婚してから初めて、夫にねだったものとなった。
『君が?』
居間で新しい映画の台本を見ていたグレゴリオは、興味を持ったようだった。夕食後の眠気を引きずる、おだやかな瞬きと微笑を浮かべた。
『離婚したいのか?』
『そうじゃなくて』
小さな落胆を無視し、グリアは続けた。