庭自慢とビスマルク
間の抜けた質問に以前なら呆気にとられたり噴き出したりしたものだが、今はもう、くたびれる元にしかならない。
「ええ。そうですけど」
グリアは簡潔に答えた。少女たちは再び顔をくっつけるようにし、頬を赤らめたり、手で軽くお互いの腕を押す。醒めた眼で彼女たちを見下ろし、次の質問を待つ。
「グレッグさんはいらっしゃいますか」
次は茶色い髪のほうが、お下げを弄りながら蚊の鳴くような声で尋ねる。
グレゴリオがこの手の少年少女をとても大切にしている事は知っていた。街中でも気軽に群がる民衆へサインを与えているし、今のように自宅にまで押しかけてきたところで嫌な顔一つせず握手をする。
『ファンは大切じゃないか』
悲鳴を上げる少女たちがいなくなったのを確認してから、グリアにも、自分にも言い聞かせるような口調で、いとも涼しげに呟く。
『人気なんて、いつ落ちるか分からないんだ』
微かに漂う愉悦を嗅ぎ取ってしまえば、もうグリアには止める手立てはない。
「ごめんなさいね。今日は撮影なの」
だが彼女はいつも、夫が気まぐれを起こしてこちらにやってこないことを祈りながら、出来る限り穏やかな口ぶりで嘘をつく。火が消えたかのように悲しみで覆われる少女たちの顔を見るのは忍びないが、私生活を守るためには仕方がないのだ。グリアはいつも自らに言い聞かせていた。
今度は付き合わされる顔も力ない。二人の少女は困惑と落胆で一杯の心を抱えきれず、見上げた先にも同じものがあることを知って更に嘆く。沈黙を伝って、待ち構えるグリアの心にもそれは重くのしかかった。
「遅くなるって聞いてるけれど」
気まずさに余計な一言を付け加えると、二人は神妙な顔で頷く。
「お仕事、忙しいんですね」
「ええ、最近は特に。家にもあまり帰ってこないの」
これは嘘ではない。苦さは胸に押し込む。
「ところで、あなた達どこから来たの?」
「モントレーからです」
「モントレーって、バスで?」
「はい、朝一番の」
「でも今日は」
汚れたエプロンの前で手を重ね合わせ、頭の中でカレンダーをめくる。
「平日よね」