庭自慢とビスマルク
鳴らされた鼻を気にかけることもなく、背を向ける。動く気配は感じられなかった。出かけるのは、もう少し先になることだろうと思う。いつもどおりの時刻に夕食を食べるためには、5時頃に帰宅して準備を始めなければならない。間に合う自信がなかった。いっそのこと、行くのをやめようとも考えたが、これ以上余計な波風を立てるのは面倒なので、結局振り返らなかった。自分から誘い出したのだ。少しくらい遅れても、文句は言わないだろう。
玄関口のプランターが気になり、わざと遠回りして皿を運んだら、こんなときに限って門柱の柵の隙間から見える電柱の傍に、人影を発見した。確認した薔薇の育ち具合に対する満足も台無しになる。
ふんわり膨らんだ青いスカートに、小さなハンドバッグを押し付けるような格好の少女は茶色いお下げ髪で、ひょろりと背が高い。もう一人のほう燃えるような赤毛で、グラマラスな体がブラウス越しにもはっきりと分かる。視線に気付いたのか、二人は機敏に反応し、こちらに顔を向けた。表情は見えないが、若い艶やかな髪が太陽の光を反射し、きらきらと輝いている。皿を両手に抱えたまましばらく観察していても、二つの体躯は動こうとせず、ただじっとこちらを見つめている。訴えかけているものは、聞かずとも分かっていた。幾ら嫌でも尋ねなければならないし、有無を言わさず、うんざりするその内容へ耳を傾けなければならなかったが。既視感すら感じる光景は、放っておけば永遠に続く。
ドアを開けて食器を傘立ての隣に下ろすと、手早く鏡で姿を確認する。化粧こそしていないが、人前に出られないほどの姿ではない。後れ毛をエプロンのポケットに入っていたピンで留めてから、グリアは乱暴にドアを開き、植え込みのところまで早足で近づいた。
「何か御用?」
西海岸にやってきてから身に着けた作り笑いを浮かべ、形ばかりの門に手をかける。開けはしない。
ぱっと綻んだ顔は、すぐさま緊張で引き締まる。おずおずと近づいてきた少女たちは、15、6才だろうか。垢抜けてはいるが、どこか幼い顔立ちだった。二人とも、女学生たちの間で最近流行のボビー・ソックスを履いている。
「あの」
しばらく顔を見合わせてのつつきあいが続いたが、やがて赤毛の少女が顔を上げた。
「ここ、グレッグ・レイディさんのお宅ですか?」