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セールス・マン
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庭自慢とビスマルク

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 こんなにも気を揉んでいる自分が馬鹿らしいが、空回りは止まらない。いつもそうだ。スクリーンを見上げるのと、目の前で見詰め合うのと、何が変わるというのだろう。彼は、昔グリアが思い描いていた花婿よりもずっと素晴らしい、夢の中の男なのだ。
「何が良い?」
「何でも」
 言いながら、目だけを肘から覗かせ、少し考える。
「君の得意なもの、してくれよ」
 薬屋の下働きだったイタリア移民と、酒場で働いていたドイツ娘の間に生まれたグレゴリオは、何を出しても文句を言わず食べる。それだけで十分だと、ニューヨークにいる友人たちは羨望の眼差しをこめる。『だって彼よりずっと不細工でも、サラダに少しアボガドが入ってただけでテーブルをひっくり返すような男だっているくらいなのに』
「それじゃあ、やっぱりタマネギね。あと、ズッキーニも買わないと」
「分かった分かった」
 胸に詰まっているものを全て押し出す勢いで、吐息は漏らされる。
「買いに行こう。支度をして」
「ええ、体調、大丈夫?」
「ああ。アスピリンでも飲んでおけば。大したことないさ」
 皿を重ねて立ち上がったグリアを見上げる笑みは、ヨモギでも噛み潰したかのように、温和な苦さを湛えていた。
「結婚するときに、マイヤーが言ってたんだ。おまえは浪費家だから、ああいうしっかりした奥さんと一緒にならないと、とんでもない事になるって。本当に、その通りだな」
 さらりと飛び出した夫の友人を思い浮かべ、グリアは曖昧な表情を浮かべた。彼女自身も昔から知っている、グレゴリオのチンピラ仲間で、背の低い、穏やかな男だった。つい最近も、新聞で名前を見かけている。殺人に関係したとのことだが、彼自身は一度も逮捕される事なく、時々電話をかけてくる。キューバでカジノを設立する計画は送話口から夫が漏らす単語をつなぎ合わせて知ったもので、頼み込まれた夫もかなりの額を出資している、らしい。通帳の残高が大幅に減っている月があっても、グリアは口を出さなかった。夫がいつか自らの口から話してくれると信じたかった。
「そう、彼がそんなこと」
 抱えたコーヒーカップのあたりに、微笑を向ける。
「だって、お金はいつ必要になるか分からないでしょ?」