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ef (エフ)
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夢の途中1(1-49)

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「はい、ミスター・ビル、宜しくお願いします!」
『宜しくお願いします!』
三井と末松が深々と頭を下げた。
それから後の事を優一は思い出せないでいた。
混乱する頭の中を整理しようとするが、無理だった。
翌日午後、デトロイト空港から羽田行きのパンナメリカン航空の便に乗るべく、ビルの運転するキャデラックで向かった。
何とか優一ひとり分のチケットが確保できた。
ビルが土地の有力者に手を回して貰ったのだ。
最初三井も末松も近く帰国すると行った。
しかし、優一は彼らの申し出を断った。
折角の彼ら旅行をこんな形で壊したくなかったのだ。
「自分の分までこのアメリカを見て来てくれ」と言った・・
三人に見送られ優一はデトロイトを飛び立った。
羽田までの12時間、優一は一睡も出来なかった。
手にはアメリカに立つ前瑛子と行った『平等院の藤棚』で微笑む瑛子の写真を持ち、見つめていた・・
羽田について国内線に乗り換え、伊丹に飛ぶ。
伊丹に到着したのはデトロイトを発って16時間後の
8月21日、午後7時だった。










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章タイトル: 第8章  哀しい時間  1976・夏


突然現れた優一に瑛子の両親は優しかった。
事故当初、当然のことながら、二十歳の愛娘を突然失った悲しみに両親は泣いて暮らした。
しかも瑛子は両親に対し、恋人の存在を未だ伏せていた・・
と云うのも、母も同じ看護婦をしていて、「一人前の看護婦になるまでは恋愛はご法度」と厳しく釘をさしていたからだ。
しかし、恋する若い娘の様子を両親が分からぬ筈もない。
ましてや、普段は京都の女子寮に寝起きする娘が、時折実家に帰るごとに美しく咲く花のように変わっていく様は、
なまじ同居していた場合よりその変化は明白であった。
真っ先に瑛子の変化に気付いたのは妹の春子であった。
そして母・初枝もその存在は薄々感じていたのだが・・
最初は訝しげにも感じた・・
初枝自身、娘に一人前の看護婦になるまではとキツイ釘を刺していた手前もあり・・
しかし時間が経つにつれ、結果的に二十歳そこそこで生涯を終えざるを得なかった不憫な娘に、
女として生まれたことの喜びを与えてくれた優一の存在に感謝さえするようになっていたのだった。
南向きの6畳の和室にしつらえた仏壇の前に瑛子の遺影と白い骨箱が並べられていた。
そこには【戴帽式(たいぼうしき)】を終え、白衣とナースキャップを被り微笑んだ瑛子が居た。
瑛子が亡くなって、半月の時間が経っていた・・
まだ旅装を解かず、伊丹の飛行場から直接瑛子の実家に出向いた優一のTシャツは、元の色が何であったか分からない位繰り返し洗濯を重ね色落ちしている。
当時流行のヒッピー風に長く伸ばした長い髪と無精髭もそのままで、優一は仏壇の前で正座した。
そして・・・
両手を固く結んで、ワナワナと身体を震わせ始めた・・
『・・・瑛子・・ちゃん・・・・・・・堪忍・・・・・・・・・ああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!』
優一は瑛子の骨箱に縋りつき、あたりかまわず泣き叫んだ・・

骨箱を抱きしめ丸くなった優一の背中を見つめ、
後ろに座っていた瑛子の両親、初枝と兼三も新たな悲しみに包まれた。

『林君、・・・・・でしたなぁ・・・瑛子の方こそ、堪忍したってなぁ?・・・・・・・ホンマに運の悪い子で・・・・・あないに立派な看護婦になるて云うてたのに、こんなことでご破算にするやなんて・・・・もう、ウチ、悔しゅうて悔しゅて・・う・・うううう~~!』
『・・アホ!・・そんなことで仏さん責めても詮無い話やないか・・・瑛子もなりとうてなった訳や無し・・・これがあの子の・・運命(さだめ)やと思わな・・・・しゃあないやないかぁ~!・・・・・・う・・うぅぅ・・・・』
優一の慟哭に初枝と兼三が重なった。


瑛子の実家を後にした優一は、呆けたような無表情のまま、一カ月以上生活を共にしてきた大きなザックを背負い、大阪駅のホームで京都行の電車を待っていた。
まだ、現実を受け入れられない優一は、右目だけから止めどなく涙をながし、瑛子の事を考えていた。
優一が日本を発ったのが大学の前期試験を終えた翌日の7月15日。
瑛子に【アメリカ旅行】の事を話したのが6月の優一の誕生日の時だった。
優一がアメリカへの旅行の話を切り出した時、瑛子は何時になく不安を訴えた。
優一にすれば、学生のうちに、大きな男になる為、大きな世界を観ておきたいと云う気持ちだった・・・
そして、アメリカにある名だたる橋や建物をこの目にしておきたかったのだ・・
瑛子の不安とは・・・・・
こう云う事だったのか?
『僕がアメリカに行かへんかったら、瑛子ちゃんは・・・・』
満員の国鉄・京都線の快速電車に揺られながら、
優一は結論の出ない問答を繰り返していた・・・









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章タイトル: 第9章 喫茶ラベンダーの香り 2008春


優一は部下の古畑課長と待ち合わせるため、バス通りから二筋入りったところの喫茶店を探した。
その喫茶店の名は【ラベンダーの香り】と言う。
何度目の北海道になるだろう・・・
一番最近では7年前の札幌、確か市立図書館の改築工事だった。
その前は更にその3年前の小樽での運河の架橋工事。
何れも単なる名前だけの責任者ではなく、若い連中や下請けの業者と一緒になって共に作り上げたと自負している。
今回は道央の地方都市、藤野市でのバイパス道路建設を行う予定だ。
と言っても、流石に50歳半ばの部長職が現場監督を務める訳にはいかなかった。
今回は札幌支店に拠点を置き、【本社付企画室長】と云う肩書きで月の内半分程現場に詰める予定だった。
今日は工事予定地を視察するため、土木第2課の古畑と待ち合わせをしていたのだ。
古畑とは古くからコンビを組んで仕事した仲だった。
優一は昨夜羽田を発ち、今朝単身で札幌からJRを乗り継いで藤野市に着いた。
札幌まで出迎えると云う古畑の申し出を断り、久しぶりの道央の風景を楽しみながら来たのだった。
優一はこの藤野市にも多少の土地勘はあり、駅前から少し歩いたこの喫茶店の町名もすぐに理解出来たから、
何の心配も無かったのだが・・・

道央と云わず、広い北海道の各地を仕事で駆けずりまわった優一は、土地勘については自信はあった・・・いや、「つもり」だった・・・
が、7年ぶりの北海道は予想外に変貌しており、ましてや何年前に訪れたのかも定かでない藤野市には、JRの駅を降りた時点で驚かされた。
駅舎はモダンなデザインの建物に改装され、駅前は更に整備され、小規模の駅ビルらしき建物もひしめき合うように建っていた。
優一の知る藤野市(当時の藤野町)の駅舎は確かまだ木造で、
駅前に大きな欅の大木が数本植えられていた。
駅前に商店街はあったが、和風の旅館も数軒しかなく、
人通りの少ないさびれた通りだった。
10年前、近くの丘陵部に大手のホテルチェーンが進出し、
作品名:夢の途中1(1-49) 作家名:ef (エフ)