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夢の途中1(1-49)

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大阪駅で地下鉄に乗り、難波まで出たら瑛子は南海電車に乗り継ぐ。
そして泉佐野は「鶴原」で降りた。
ここの周辺は元々埋立地で、昔の海岸線はこの鉄道の線路のほん際まであって、海の潮風を感じることも出来たそうだが、瑛子の両親が引っ越してきた頃にはすっかり埋め立てられて工場が立ち並び、時は「高度成長期」とも相まって、既に昔の面影は薄くなっていたらしい。
瑛子の実家は駅から徒歩で10分位歩いた『町営住宅』の借家で、現役の看護婦である母・初枝と地元の製粉会社に勤める父・兼三、それに地元の府立高校に通う妹・春子の4人家族だった。
瑛子は前日実家に電話を入れており、夕方5時までには家に着くと伝えてあった。
母は娘の帰宅に合わせてこの日は昼勤で、夕方4時には帰宅するようにしていたし、妹の春子は当然夏休みで、近くの食品会社にアルバイトに行っていたが、同じく5時には帰宅するつもりでいた。
父・兼三も残業無しで真っすぐ帰れば、久々の四人家族団欒の夕ご飯に間に合うはずだ。
「瑛子、今日はすき焼きにしとくさかいな♪」
瑛子の家では何時も何か嬉しい事があれば【すき焼き】を作った。
(・・・^^;こんな暑い夏の日にすき焼き?・・・・)
瑛子はそうも思ったが、母親の子を想う優しい気持が嬉しかった。
瑛子が駅の改札をくぐる。
難波の駅で妹の大好きな【ヒロタのシュークリーム】も買った。
見なれた商店街を抜けて、大通りを向こうに渡ると町営住宅の入り口だ。
そこから200m程行くと住み慣れた平屋の我が家

そこには今夜、美味しい夕食を囲む瑛子一家の姿が・・・

        ある筈だった・・・



























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章タイトル: 第7章  運命の時  1976・夏


その頃優一はカナダ国境に近い自動車産業のメッカ・ミシガン州はデトロイトにいた。
当時のアメリカの自動車産業は、燃費が良く環境対策に優れた日本の自動車産業に既に押されていたが、元々自国でも石油資源を持つアメリカでは昭和48年に日本で起こった「オイルショック」の影響は皆無で、高排気量の車がまだ幅を利かせていた。
今回同行の末松裕也は愛知県出身で、自動車工学を専攻し、将来は地元の自動車関係の職に就きたいと思っていた。
フォード、ゼネラルモータース、クライスラーの【ビッグ・スリー】の工場もあり、郊外のグリーンフィールドビレッジにはフォード社の創設者である【ヘンリー・フォードの生家】も移築保存されていた。
一方優一のお目当ては、1957年完成で全長8,060mもある、【世界一長いつり橋・マッキナック・ブリッジ】を見る事だった。
優一も末松同様、土木科専攻を活かすため世界中に橋やハイウェーを造る道に進みたいと考えている。
もう一人の同行者三井茂は神戸の輸入雑貨会社の息子で、専攻は経営学部ではあったが、授業はロクに出ず、京都市内の賃貸マンションに街でナンパした女子学生をひっきりなしに連れ込む【マメな男】であった。
見かけは背が低く小太りで、決して良い訳でも無いのに、関西人特有の?御笑いのセンスは抜群で、周囲からは【口から先に生まれた男】とあきれられた。
三人の専攻はバラバラではあったが、何故か馬が合い、何時しか『アメリカに行こう』と云う話になったのであった。
三井のオヤジさんの伝手(つて)で、何箇所かホームステーすることも出来た。
今回も、同様の伝手で日系2世のレストラン経営者・ビル・小西のお宅に厄介になっていた。
デトロイトに来て三日目、厄介になっているお宅のアメリカ人の奥さん・ヘレンから、『アナタ達、日本を出てから家族に連絡取ってるの?たまに出す手紙だけじゃダメよ!さあ、電話代なんか気にせず、ご両親に元気な声を聞かせてあげなさい』
見るモノ聞くモノが珍しいこの地で、すっかり日本の事を忘れていた三人の若者であった。
ミシガン州と日本の時差は14時間あった。
デトロイトで夜の八時に日本に電話すると午前十時。
ヘレンの薦めに甘えて、三人は順番に受話器を取った。
二番目に優一が掛けた。
1976年8月20日彼らが日本を飛び立って一か月余り経っていた。

ルルル・・・・ルルル・・・・・カチャっ・・・
「あっ、お母ちゃん?俺や、優一や!今、アメリカのデトロイトにおんねん!元気や、元気にしてるで!・・・・ナニ?・・・
お母ちゃん、よう聞こえへんわ!  相変わらず織機の音、うるさいなァ~~!ナニ?もうチョット、おっきい声で云うて!   ナニ?・・・・・ナニ?????・・瑛子ちゃんが?
嘘やん!・・・ナニ言うてんねん!そんなことある筈が・・・・
嘘や・・・・・・お母ちゃん、嘘やろ?ホンマの事言うてくれや~~!・・・・・・・・瑛子ちゃんが・・・・・・・・・死んだやなんて・・・・」
優一は受話器を握りしめたままその場にうずくまった・・
少し離れたリビングにいた末松と三井が優一の異変に気付いた。
『優ちゃん、どないしたんよ?日本で何かあったんか?』
「・・・・・えいこ・・ちゃんが・・・交通事故に・・・うっ!・・ううう~~!」
平静を保てない優一に代わり、三井が受話器を受け継いだ。
「瑛子~~~~~!瑛子~~~~~~~!」
優一は受話器のそばにしゃがみ込み、恋人の名を絶叫しながら固いマーブルの床を何度も叩いた・・
事情が分からない夫妻も駆けつけ、取り乱す優一の肩を抱きしめる。
末松も加わって、やっとの事で優一をリビングのソファに坐らせた。
その間、三井が冷静に優一の母、弘子から事情を聞いていた。
『はい・・はい・・はい、分かりました。明日にでも優ちゃんが日本に帰れるように何とかします。はい・・はい・・また詳しい事は電話しますんで。はい・・・はい・・いいえ、そんなこと、大丈夫です、気にせんといて下さい!僕と優ちゃんは友達ですから・・はい、また連絡します。はい、失礼します。』
普段冗談しか言わない三井がテキパキと応対をしてくれて受話器を置くと、一転暗い表情でリビング入って来た・・
受話器を置いた三井が四人の待つリビングに来た。
『・・・・泉佐野の実家に帰る途中で、交通事故にあったらしわ・・・・8月7日の話や・・・・・もう100mも行ったら・・・・実家やのに・・・・・横断歩道を渡ってた瑛子さんが、余所見してた4トントラックにはねられて・・・・・・・うっ!・・・ううう~!』
状況を話すうちに、冷静だった三井までもが泣きだしてしまった。
静かに話を聞く末松も目を真っ赤にして涙を流している・・
日系二世のビルが、日本語が殆ど分からない妻・ヘレンにかいつまんで事情を英訳していた。

「オ~~マイガァ~~!ユウイチ、大変な事になりましたね・・・・
でも、しっかりしなくてはいけません!今、アナタがしっかりしないと、彼女も哀しみます!おお~、ユウイチ、可哀想に~!オオ~~ジーザス!」
ミセス・ヘレンは優一を抱きしめ自分も泣いた。
『シゲル、これから日本へ帰る便を探そう!少しでも早く
ユウイチを恋人の元に返して上げよう!レッツ・ゴー!』
作品名:夢の途中1(1-49) 作家名:ef (エフ)