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ef (エフ)
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夢の途中1(1-49)

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海外、特に南半球のオーストラリアなどからのスキー客を目当てにしたスキー場付の一大リゾートホテルが建設された。
この地の雪質は抜群で、遠く南半球から大勢の観光客が彼らにとって時期外れの、しかも良質なゲレンデを求めて訪れるようになった。
更に遡る事20年以上前にこの地を舞台にしたTVドラマが放映され、それまでこれと言って観光資源の乏しかった藤野町周辺(当時)は一躍観光地として日本全国の注目を浴びるようになった。
尤も、当時その恩恵を直接浴びたのはひと駅手前の『南藤野町』であり、当の藤野町まで足を延ばす観光客も少なく、12年前に南藤野町と藤野町が合併し、『藤野市』となるまでは単なる道央のさびれた田舎町であった。
最初は大手資本の進出に懐疑的だった地元民も、
まさに『降って湧いた』ような観光ブームに、市を挙げて投資し、駅前は急速に発展した。
そして毎年のように道路は整備されて行った。
しかし、リゾート地に観光客を運ぶ幹線道路を一筋、二筋入った処には、面通りの喧騒から取り残された昔ながらの商店街が残り、

そんな場所に【喫茶・ラベンダーの香り】はあった・・


その店は寂れた商店街の中程にあり、間口3間(けん)の小さな店だった。
年季の入った木枠の窓と、同様に年季の入った木製の扉。
窓の下には大きめのプランターに赤や紫の紫陽花が咲いている。
十分手入れが行き届いているのであろう、紫陽花は瑞みずしい容姿をしていた。
優一が木製の少し重い扉を引くと、扉に付いていたカウベルがカランカランと来客を知らせた。
中は5席位のカウンター席と、通路を挟んだ3つのテーブル席がある。
店内に客はおらず、そればかりか店の主人も居なかった。
店内は上質のコーヒーの香りが立ち込め、恐らく有線であろう軽音楽が控えめの音量でかかっている。
カウンターの前のポットはシュ~っと沸騰した蒸気を吐き出していた・・
優一はあるじの居ない店内に入り、勝手に真ん中のテーブル席に腰かけた。
そこで初めて、カウンターの中で一心不乱に文庫本を読む女性の存在に気が付いたのだ。
女性は小さめで黒縁のリーデンググラスを掛け、カウンターの中の背の低いイスに腰掛けていた。
文庫本に熱中していた女性の顔はすっぽりカウンターの中に隠れ、カウンターの真横にあるテーブル席に座り、初めて彼女の存在に気が付いた。
恐らく、この店の女主人であろう彼女は、まだ来客に気が付かなかった・・


「・・アノォ・・・・^^;」
『・・?え?あ~、御免なさい!気が付かないで・・(*^_^*)』
「えらく熱心に読んでいましたね。ハーレクイーンロマンスとか?(^_-)」
『え?まあ、そんなトコかな(#^.^#)・・・・何になさいます?』
「じゃあ、アメリカンで♪」

女性がカウンターの隅に置いた文庫本は
【池波正太郎・剣客商売】であった・・・
女主人はペーパードリップにフィルターを敷いて、ひいた豆で満たすと、ポットから熱湯をゆっくり回しかけながら優一に話しかけた。
『こちらの方じゃ無いわね。お仕事?』
「ああ、分かりますか?」
『だって、ウチに来るお客さんって地元の方ばかりだから・・
表通りから2筋も入ったこんな店には滅多に観光客の方は来ませんからね♪』
「でも、最近は海外からのスキー客も多いんじゃないの?」
『うん・・まあねぇ・・・駅前なんかは外人さんのスキー客も増えたわね・・だから駅前に土地を持ってた人は結構今でも羽振りは良いもの・・・だけど、その波に乗れたのはごく僅か・・
逆に元からあるこの商店街は以前よりさびれちゃった感じね・・』
「ママさんは元々こっちの人?」
『え?・・まぁ、そんなもんかな(^0_0^)・・・・はい、アメリカンお待たせしました♪』
銀盆に琥珀色のアメリカンコーヒーで満たしたカップを載せ、彼女はカウンターから出て来た。






作品名:夢の途中1(1-49) 作家名:ef (エフ)