小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

あの頃・・・それから

INDEX|6ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 巧一「三・三ヶ月?」
 幸一「そうなんだよ。本当に辛いことだけど我々にとって
   (込み上げる悲しみを堪えるように)かけがえの無い娘だから・・菜々   は・・・脳腫瘍という脳の癌なんだよ」
 巧一「脳 腫 瘍」
 幸一「それも、一年以上も前からなんだよ。菜々も薄々感づいているようだ
   でもはっきりとは話してない、いや、これからも話さないつもりなんだ
   中学のときは暗く落ち込んだり暴れたりして我々の心労は大変だったん   だよ」
 巧一「はい」
 幸一「でも、高校へ入って巧一君と出会ってからはとても明るくなって発作   もこの数ヶ月まったく起こらなかったんだよ」
 巧一「そうだったんですか、脳腫瘍なんて、想像も付きません」
 幸一「そうだと思うよ。我々家族でさえ菜々がこれからどうなっていくか解   らないのだから、そこで妻とも祐介とも話し合ったんだけど、君もクラ   ブや勉強で忙しいとは思うけど、あえて頼みたい。我々と一緒に菜々の   最期を見届けて欲しいんだよ」
 巧一「はい」
 幸一「菜々はウチじゃあ、巧一君の話しかしないんだよ。親としては菜々の   喜ぶ事は何でもしてやりたいんだよ」
 巧一「解りました。菜々のためになるなら」
 幸一「(巧一の手を取って)有り難う。解ってくれると信じていたよ。ご両   親には私から事情を説明させてもらうよ」
 巧一「いいえ、大丈夫です。自分で話します理解はいい親なので」
 幸一「そうか、解った。ただしこのことは家族と小夜さんしか知らないから   そのことも頼むよ」
 巧一「はい、解っています」
 幸一「菜々本人にもだよ?」
 巧一「解りました」
 幸一「それともう一つ、さっき先生とも話して決めたことなんだけども、    菜々の痛みを和らげる為に薬を強くすることにしたんだ。だから日が    経っていくと何も解らなくなるらしいそうだ。それは見守る家族にはと   ても辛いことらしい。巧一君にも覚悟をしていて欲しい」
 巧一「はい!」
   巧一、強く返事をする
 幸一「ヨシッ!これですっきりした。中に戻って菜々を見舞って、今日は帰   ろう」
 巧一「そうしましょう」

43・病室

   二人、入ってくる
   一斉に二人を見る桂子たち
   幸一、指でOKサインをみんなに見せる
   桂子、うなずく
   祐介と小夜、肩を撫で下ろす

44・病室=数日後=

   ベッドに起き上がり笑顔の菜々
   巧一、シャッターを切っている
 巧一「おお、いい菜々スマイル」
 菜々「フフフッ」
   巧一、ベッドの周りをぐるぐると回る

45・同=数日後=

   ベッドいっぱいに広げられている菜々の写真
   菜々と巧一、ベッドの周りから寄り添うように観ている
 菜々「あたしこれ好き」
   指差す、菜々
 巧一「そお、おれはこっちかな?」

46・同=数日後=

   窓際で白いローブ姿の菜々
   部屋に響くシャッター音
   菜々、巧一に背中を向ける
 菜々「こんなのどう?」
   菜々、ローブの紐を解きゆっくりとローブを落としていく
   巧一の手が止まる
 菜々「あれ?撮らないの?」
 巧一「いや、撮るよ」
   真剣に撮り始める巧一
   菜々、ローブを腰まで下げる
   綺麗な背中がすべて現れる
   無言で撮り続ける巧一
   菜々、今度はそのまま体を回し正面を見せる
   ファインダーを覗いたまま固まる巧一
 菜々「撮って?巧一だけに撮って欲しいの、ダメ?」
 巧一「(ファインダーを覗いたまま)いいや、いいよ」
   撮り始める巧一
   菜々の表情が笑顔から真顔に変わる

47・同=数日後=
  
   器具を着けられて眠っている菜々
   それを見つめている巧一
   そのときノックの音
 巧一「はい!どうぞ」
   巧一の両親、入ってくる
   亮、印画紙の箱を巧一に手渡す
 亮 「焼いてきたぞ?」
 巧一「ああ、有り難う。うれしいよ、菜々も目が覚めたら飛び上がって喜ぶ   よ」
   町子、花束を花瓶に生ける
 町子「どうなの?」
 巧一「さっきまた発作が起きて、今は眠っているよ」
 亮 「そうか、じゃあまた来るか(町子を促して)帰ろう?」
 巧一「有り難う。俺ももう少して帰るから夕飯は家で食べるよ」
 町子「解ったわ。じゃあね」
   二人、出て行く。
   巧一、印画紙の箱を枕元に置いて立つ
 巧一「菜々、帰るよ」
   反応のない菜々に言う
 巧一が部屋を出ようとしてドアノブに手をかけようとしたとき菜々の声
 菜々「(声のみ)巧一・・・」
   巧一、ふと菜々を振り返るが菜々は起きていない
 巧一「なんだ、寝言か、じゃあまた明日」
   巧一、出て行く
 
48・花・彩味の前・夕方

   巧一、入っていく
   桂子「(声のみ)あーら、いらっしゃい!」
  
49・同・中

   桂子、いつもの笑顔
 巧一「こんにちは」
 桂子「主人、もう帰ってくるは。ちょっと待ってて」
 巧一「はい」
   幸一、丁度帰ってくる
 幸一「悪い、悪い。待ったか?」
 巧一「いいえ、来たばかりです」
 幸一「呼び出して悪いなあ。実は桂子とも話して決めたんだが、後少しで夏   休みだろう?」
 巧一「そうです」
 幸一「長野の八ヶ岳の麓に知り合いの別荘をあるんだけど、そこをこの夏貸   してくれることになったんだよ、菜々をいい空気を吸わせに連れて行こ   うと思うんだよ巧一君はどう思う?」
 巧一「いいと思います。ただ先生がなんと言うか」
 幸一「それは許可をもらったよ。何かあったら別荘の近くの町に先生の友人   の病院があるからそこへ連れて行けば良いと言われた」
 巧一「それなら問題ないですよ」
 幸一「だよな?もちろん君にも行ってもらうよ?いいだろ?」
 巧一「行きます。絶対に行きます」
 幸一「良かった、菜々が巧一君が行かなければ、行かない!なんて言い出す   から困っていたんだよ。これで安心した。ふー」
 桂子「ごめんなさい?勝手に決めちゃって」
 巧一「構いません。菜々の為ですから」
  
50・病室=数日後=

   菜々、眠っている
   巧一、見つめている
   目を覚ます菜々
 巧一「お目覚めかな?」
 菜々「ああ(微笑んで)居て良かった」
 巧一「当たりあえだよ。いつもいるよ」
 菜々「写真有り難うって、お父さんに言っておいてね?」
 巧一「ああ、もう言ったよ」
 菜々「でも恥ずかしいなあ」
 巧一「大丈夫だよ。プロなんだから」
 菜々「そうよね?もっとすごいの見慣れてるものね?」
 巧一「バカだなあ。そんなこと考えてたのかよお」
 菜々「でもうれしい(急に涙目になる)でも、あたしを巧一は見てるだけだ   もんね?」
 巧一「何言ってんだよ」
 菜々「だって、愛し合っていればあたしが欲しくなるでしょ?」
 巧一「それはそうだけど・・・まずは元気になることだけだよ
   そんな話はそれからでも遅くないよ」
 菜々「そう?ごめんね?こんなあたしで」
作品名:あの頃・・・それから 作家名:Riki 相馬