リレー小説 『暗黒と日記』・第一話
次の日。
この話はナシになるだろうという予想は、さも当然のように当たらなかった。
「昨日メールもらったよー。賛成でありますっ!」
やたら身長の低い少女が、朝一番に僕に話しかけてきて。
左手で敬礼。僕は死んじゃいない。
と。
「……あれ?」
この子の名前、なんだっけ。
記憶にノイズがはしったように、思い出せない。
彼女は、なんという名前で……何をしていた?
普通、人間というのは他人の顔を見ただけで(無意識下で)その人についての情報が――主観的な性格やらその人の好みとかが、頭のなかを飛び回るはずだ。
なのに、僕の脳みそにはこの子に関する情報は、ない。
「ああ、だろ? 楠子にも連絡しといたからよ、これでメンバーは揃ったろん」
と、フレンチに小唄が会話に加わる。
柏原楠子(かしわばらくすこ)。彼女のことは分かる。
小唄といつも一緒に行動してるし、つまり小唄のカノジョだし。
でも……。
「そ。じゃあ、宿題やってないから。ばいばい」
ひらひらと手を振って、彼女は自分の席に戻る。
「なあ、八朔」
「僕は八朔じゃないっ!」
まったく、僕の名前が八乃朔(はちのさく)だからって、馬鹿にして!
「まあそう怒るなよ。……ところで、あの女の子の名前なんだっけ」
え、小唄もなのか……。
「僕も覚えてないんだよね」
「え、それは変だな……」
むう、と表情を硬くして。
「あ、そうだ。少佐に聞けばいいじゃん、メール送ったんだから知ってるだろ」
もっともな意見だ。
「知らないなぁ。アドレスは《少女B》で登録してあるし」
なんて薄情なヤツなんだ!
わざわざ隣のクラスまではるばるやってきたのに、収穫はなし。
と。
「他人の本名なぞに興味はない。俺が興味を持つのは――」
ごくり。
「――女子のスカートの中身だけだ」
硬派なキャラが台無しだよっ! せっかく様になってたのに!
とうとう、彼女の名前と周辺は分からずに。
その後クラスメイトに訊いてみても、《あれ……?》なんて反応がほとんどだった。
そして、彼女の秘密は以後二度と明かされない。
誰であるかも。
何であるかも。
作品名:リレー小説 『暗黒と日記』・第一話 作家名:ダメイジェン