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死生学研究科

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境「万人に共通した何かがある。」
赤石「お前はこうこうこういう人間だから幸せだっていう基準が作りたいわけか。」
境「そうじゃない。人生が充実したって感じられる方法を見つけたい。」
赤石「そんなもん一日一日をしっかり生きればいいだけだろ。」
境「それはシュウの基準だろ。俺は違う。」
赤石「違うって…」
白井「もうやめなよ。喧嘩になってるよ?」
森山「ディスカッションってもっと建設的にやるものだと思うんですけど」
境「ちょっとトイレ行ってくる。」

境は気分が悪くなり、研究室を出て行く。

赤石「別に価値観がぶつかっただけ。まあディスカッションよりはディベートっぽかったな。」
白井「もう。」

福島は窓から外を見ている。

福島「あっ落ちた。 ほらあれですよ。」

中野が窓に近づく。赤石と森山も窓の側に寄る。

中野「ウサギか。」
福島「落下実験ですねー。」
赤石「止めてこよう。」
福島「何でです?」
赤石「よくないからだ。」
高見「何を嫌がる?これが人の今ある姿だろ?」
赤石「けど」
高見「これで当たり前なんだ。常日頃からやってることが目の前で行われてるにすぎない。」
福島「あっ今死にました。」
森山「次の準備してますね。」
高見「人の生活は動物の犠牲によって成り立っている。新しく洗剤を作るために一日300匹のウサギが犠牲になり、マウスやラットはむしろ合法とされ、犬は邪魔だから殺される。全ては人がよく生きるため。お前が言ったんだろ?俺たちは奪って当たり前な上等な生き物だと。」
赤石「言った。たしかに言った。」
高見「お前がついさっきここで言ったことをもう否定するのか?」
赤石「そういうんじゃない。止めたいから止める。それだけ。」

赤石が出て行く。その後を白井と福島が追って出て行く。

高見「ったく。少し様子を見てくる。」

高見が出て行く。

森山「みんな行っちゃいましたね。止めなくてよかったんですか?」
中野「うん、まあ。」
森山「そうですか。」

間。

中野「研究室はもう決めれた?」
森山「いえ、まだ。」
中野「そう。」
森山「教授って一線引いたところがありますよね。アヤさんが就職の話したときもシュウが口論したときも、全く口をはさまなかったですし。何か理由でもあるんですか?」
中野「どうかな。」
森山「ふーん。聞いた話だと、2年前まではもっと熱い人だったとか」
中野「さあね。」
森山「問題児たちの教育に尽力していたとか」
中野「そうだったね。」
森山「何かあったんですか?今の教授からはその頃持ってたであろう空気が全く伝わってこないので」
中野「全くかい?」
森山「ええ全く。」
中野「そうか。」
森山「では、今どう思ってるのかを聞かせて下さいよ。」
中野「何について?」
森山「生徒のことはどう思ってるんですか?」
中野「それは心配もしてるしちゃんと導いていこうとも思ってる。けど。」
森山「けど何です?」
中野「いや、いい。」
森山「どうして?そこまで口にしたのに。言ってしまった方が楽ですよ?」
中野「はぁ。生徒は好きだが、もう死なれるのはごめんだ。」
森山「自殺ですか?」
中野「そう。ここの学生は死んでばかりだ。こんなはずじゃなかった。」
森山「でも、それは学部創設時からあったことでしょ?」
中野「ああ、1年目からあった。病んでる学生が多かったんだ。」
森山「けど教授はそれを救った。」
中野「学長と教授陣とで改善を図ったんだ。制度から何から。青空教室のようなこともやった。」
森山「どうしてそんな面倒なことを引き受けたんですか?ここを辞めるって手もあったでしょう?」
中野「責任だよ。私がやらなければと思った。まだ変えられる気でいた。」
森山「と言うことは?」
中野「変わらなかった。」
森山「そうですか、それでショックを受けて?」
中野「さあね。」
森山「ふーん。そういえば、さっきは楽しそうでしたね?」
中野「いつ?」
森山「生きるってテーマでディスカッションしてたときですよ」
中野「ああ。生きるっていうのは哲学やってたときの研究テーマなんだ。」
森山「へー。どういう研究を?」
中野「生きるとは何かってすごい曖昧なものだろ?それをここでやってるのと同じことをして問い詰めていったんだ。そして生きるとは歩くことと考えた。」
森山「歩く?」
中野「どんどん新しいものと出会い続けること。世の中は知らないもので溢れている。それを経験していくことが生きるってこと。」
森山「ふーん。じゃあ教授は歩けてないですね?」
中野「そうだね。分かってるんだけど。」
森山「あ、でも今からでも出来ますよ。」
中野「どうかな。じゃあちょっと赤石君たちの様子を見に行くよ。」
森山「ご一緒しますよ。まだ聞きたいこととかあるので。」
中野「来なくていいよ。」
森山「いいじゃないですか。」

中野と森山は出て行く。

高見がやって来る。

高見「誰もいないのか。」

高見は椅子に座り、パソコンを使い始める。
そこに境がやって来る。

境「タカミィ。」
高見「どうした?」
境「決行は明日にしよう。」
高見「明日?それは早すぎる。せめてあと1カ月は待たないと、委員会の連中の監視もある。」
境「頼むよ。時間がないんだ。」
高見「なら仕方ない。」
境「ありがと。」
高見「ああ。」

暗転


シーン6

場所は中野研究室。白井、森山、福島が話をしている。

白井「誰がこんなことしたんですか?」
中野「調査中だ。」
森山「いつ頃やられたんですか?」
中野「なんか、今朝の8時に一気に落とされたとか。」
森山「うわー大変ですね。」
中野「うん。今教授陣で対策を立ててるとこ。」
森山「中野教授は行かなくていいんですか?」
中野「情報学部の会議だからねえ。私が行っても。」
白井「それで、サーバーの復旧の目処は立ってるんですか?」
中野「どうかな。詳しいことはまだ分からないんだ。」
白井「そうですか。」
森山「ネットが使えないとなると色々不便ですからねぇ。」
白井「今までにないウイルスだから、時間がかかるのかも。」
森山「なるほど。そうなりそうですね。」
福島「そういうんじゃないっしょ。」
白井「メグロ君?」
福島「問題はそういうんじゃないっしょ。ネットが今使えないとか、ウイルスが新型だとかそういうんじゃなくって、僕がニ次元と隔離されてしまったことが一番の問題じゃないっすか!?」
白井「どうだろ?」
福島「くそぅ。ゆきのぉ〜。なぎさぁ〜。僕が昨日ウチに持って帰っていればー」
白井「いつも持って帰らないでしょ。」
福島「うう〜。申し訳ないっす。」
森山「大丈夫ですか?」
白井「それで、大学のセキュリティーも完全に止まってるんですよね?」
中野「ああ。」
白井「全部でどれぐらいの被害なんですか?」
中野「そうだなー。この研究棟のセキュリティーはダメで。キャンパスの各所もダメで。パソコンは全部アウトだったかな。」
白井「そんなにですか」
中野「ネット接続をしてなかった予備のパソコンや古いパソコンならまだ大丈夫だったと思うけど、あとは全部ウイルス。」
作品名:死生学研究科 作家名:黒木 泪