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死生学研究科

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森山「僕はとてもとばしていた。車の存在に気付いたのは僕と車が交差する場所のちょうど3メートル前。僕はあわててハンドルをきったんだけど、むこうは…。」
赤石「じゃあ」
森山「まあ、ぶつからなかったんですけど。」
赤石「そこじゃねえのか!」
森山「しかし曲がった先にはロボット犬を散歩させたご婦人がいらっしゃって。」
赤石「おお。」
森山「なんとかブレーキをかけるんですが、セグウェイの出っ張ったプロテクターがご婦人のプロテクターにぶつかってしまって。」
赤石「ご婦人!?」
森山「ご婦人が着けていたのは六十度傾斜のコンポジット・アーマー、それに対して僕のセグウェイは均質圧延装甲。当然強度はむこうの方が強い。僕は衝突し、押し返されてしまった。ご婦人もその衝撃で転倒。しかしここで問題なのはロボット犬の方だった。最新のロボット犬は防犯の機能もついてるんだ。すごい速さで噛みつきに来て、こっちは急いでスピードを上げるんだけど、なかなか距離は開かない。そのときふと見上げた春の空がとても綺麗でさ。そこにマクロスが飛んでたんだ。僕はあわててカメラモードにしようとするんだけど、後ろにいるロボット犬にも気をとられて。うわーってなった結果、こけて自分のセグウェイに轢かれました。」

照明戻る。

赤石「何でだよ!」
白井「それ自分の不注意じゃない。」
森山「まあそうなんですけど」
高見「ホントドジだな。」
森山「高見君まで。その後もロボット犬と戦ったりと色々あったんですよ。」
赤石「何でそんな連チャンで問題起こってんだよ。不幸のピタゴラスイッチか。」
森山「おお、上手いこと言いましたね。」
赤石「ったく。変なやつだな。」
森山「シュウに言われたくないですよ。」
境「それは言えてる。」
赤石「おいおい汐也が同意したら冗談にならねえだろ。」
境「本当のことだから」
白井「そうよね。たまに仮装とかするし。」
赤石「たまにだろ。」
森山「そんなことしてるんですか。」
赤石「るせーよ。それよりその日記帳読ませろよ。」
森山「嫌ですよ。」
赤石「いいじゃん。ちょっとだけ。」
森山「ダメですって。」
赤石「えー。」
白井「私も読んでみたいな。」
森山「アヤさんも。仕方ないですね。」
赤石「やりっ。」
高見「ところで、赤石は実験どうするか決めたのか?」
赤石「…いや、もうやめる。」
高見「やめる?」
赤石「実験は中止。元々才能なかったんだ。」
高見「才能だと?」

白井は就活雑誌を読み始める。

赤石「死生学なんてさ。空を掴むような学問じゃん?俺みたいな凡人には無理だったんだよ。」
高見「全て分かっててここへ来たんじゃないのか?」
赤石「外から見た山と登ってみた山は別物なんだよ。分かんだろ?」
高見「そうか。」
赤石「だから実験は打ち止め。もちろん資料は残すし。実験結果はレポートにまとめる。」
高見「それで、その後はどうする?」
赤石「身の丈にあったこと探すわ。」
森山「何読んでるんですか?」
白井「就活雑誌。今けっこうシビアなんだよ。」
森山「就職するんですか?」
白井「それはするでしょ?コタロー君はずっと院生やってるつもり?」
森山「そうじゃないですが。」
白井「さっさと就職してお金稼がないと。お父さんも大変だろうし。」
森山「そうですか。」
境「なあ、二人ともさ。1回生の頃のこと覚えてるか?」
白井「1回生?」
赤石「何だよ突然?」
境「いいから。覚えてる?」
白井「覚えてるよ。」
赤石「おう。もちろん。」
境「あの頃はアヤもシュウも、もちろん俺も。一緒に夢見てたろ? それぞれ違う目標があって、だからこそ集まって。」
赤石「ああ。」
境「アヤは死んだ人の本当の気持ちを知ること。シュウは天国の科学的証明。俺は、どうやったら幸せに死ねるか。目指すものは全然違うんだけど、三人で意見し合って、互いに影響して。そうしたら自分の夢もどんどん具体的になってさ。」
白井「そうだったね。」
境「アヤは、お母さんのこと分かりたいからお母さん以上に勉強するって言って。シュウは大学にいる間に絶対叶えるって意気込んで。あのときの気持ちはもう失くしたのか?1回生の自分は、無かったことにするのか?」
赤石「意味分かんねえよ。」
境「昔の自分が目の前にいたら、そんな夢くだらないから諦めろって言うのか? 俺はシュウの夢応援する。」
赤石「汐也に応援されたからって叶うわけじゃねえ。」
境「でも応援する。」
赤石「意味ねえって。」
境「あるさ。シュウなら諦めないって思う。」
赤石「ふん。」
境「アヤも、結果が見えてないように思ってるかもしれないけど、それは自分を成長させることを頑張ってきたから。俺の目から見たらアヤはもう立派な研究者だよ。」
白井「そうなのかな?」
境「アヤのお母さんにかなり近付けてると思うよ。むこうは成長しないんだから、あとは差を縮めるだけだよ。」
白井「うん。そうだよね。ここで投げ出すなんてよくないよね。」
境「ああ。」
白井「就職したいわけでもないのに、こんな雑誌読んで馬鹿みたい。」

白井は就活雑誌を捨てる。

白井「よし。今日から心機一転。頑張ります。」
境「その意気。」
赤石「良かったじゃん。」
白井「ありがと。シュウはいいの?」
赤石「俺はいいんだ。」
森山「あっ、ユウヤに質問なんですが、幸せに死ぬ方法を研究してるのは何故なんですか?」
境「気になった?」
森山「はい。少し興味が。」
境「そう。俺がそれ考えるようになったのは高1のときからなんだ。俺が高1のとき妹が死んでさ、遺伝性の病気だったんだよね。小6で体壊して中1まで入院、でそのまま…。まあ中1までだけど、俺から見たら十分楽しめたんじゃないかなとは思うんだけど。ま、それじゃ心は救われないらしい。俺はその心を救いたいんだ。外国だと宗教で救われるんだけど、日本は変な固定概念があるからなにか受け入れられる方法を考えないと。それが幸せに死ぬ方法を考えてる理由。」
森山「なぜ心を救いたいって思うんですか?」
境「それは、後悔したからかな。妹が死にたくないって言ったとき、何も言えなかったから。楽しいだけじゃダメなんだよ。それで高1のときにバスケやめて死生学勉強し始めたんだ。もう俺の妹みたいな人が出ないようにさ。」
白井「立派だよね。社会のために何かやろうなんて。」
森山「ですね。それで遺伝性の病気ということですが、ご両親のどちらかはもうお亡くなりに?」
境「ああ、母親の方。妹が死んですぐに。」
森山「では、ユウヤもその病気に?」
境「うん。ま、俺の場合あと二十年は寿命あるけどな。」
白井「だよね。こんな元気だもん。あと二十年あったら普通に子供とか出来てるんじゃないの?」
境「かもな。」
森山「じゃあシュウの話も聞かせて下さいよ?」
赤石「俺はいいよ。」
森山「いいじゃないですか。すごい興味ありますよ?」
赤石「いいって。」
森山「話せないような内容なんですか。いや失礼しました。そんな絶対に人に言えないような内容なら、そんなぶしつけに聞いたりなんか。」
赤石「別に言えないわけじゃ。」
森山「では聞きたいです。」
赤石「じゃ言うよ。俺は死ぬのが怖いから。」
森山「はい?」
作品名:死生学研究科 作家名:黒木 泪