小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

死生学研究科

INDEX|5ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

森山「どうしてですか?」
白井「私、母親の後を追いかけてきただけなの。」
森山「母親?」
白井「うん。私の母は死生学勉強してたの。もう死んじゃってるけど。」
森山「そうですか。」
白井「死生学勉強したら自分の母親のこと分かるかなって思って。」
森山「アヤさんはお母さんのこと好きだったんですね」
白井「ううん。大っきらい。」
森山「…。」
白井「あんな母親。でももう終わり。」
森山「どういうことですか?」
白井「私ここやめようと思ってるの。」
森山「院をやめるんですか?」
白井「うん。まだ迷ってるけど」
森山「そうですか。理由とかって」
白井「この話は終わり。ね?」
森山「はい。」
白井「あとどこ案内したらいいかな」

赤石と福島が担架を持ってやって来る。
担架の上には死体が横になっていて、その上にシーツが被さっている。

赤石「そっち気つけて」
福島「はい。そこ段差あるっすよ。」
赤石「はいはい。」
白井「どうしたの?」
赤石「あっアヤ。」
森山「何運んでるんです?」
福島「死体ですよ死体。」
森山「死体!?」
白井「え?誰の?」
福島「他の研究室の教授です。」
赤石「そうそう。」
白井「えー。」
森山「何で死んだんですか?」
福島「自殺っすよ。監視カメラの前で自殺したから間違いないって話です。」
森山「はあー。」
赤石「飲み物買いに行ったら下之村教授につかまっちまってよ。そんで無理矢理。」
白井「下之村教授ってことは解剖?」
赤石「そうそう。もうすぐ。」
森山「え?今日解剖ですか?」
赤石「そうそう。」
森山「いや、それはまずいでしょ。お通夜とか葬式とかちゃんとしないと。」
赤石「まあ、そうなんだけど。」
福島「遺書に解剖するよう書いてたんすよ。」
森山「遺書に?」
福島「それに教授一人身だし。」
森山「その遺書、今持ってます?」
福島「預かってるっすよ。こっちのポケットの中。」
森山「見せてもらっても?」
福島「いいけど。手ふさがってるから。」
森山「じゃあ取ります」

森山は福島のポケットから封筒を取り出す。森山はゆっくり開ける。

赤石「俺もまだ見てないんだけど」
白井「教授の最後の言葉だからね。」
赤石「ああ。すごい参考になるんじゃねえか?」
森山「そうですね。」
赤石「何を思って死んでいったのか。きっと教授にしか分からない苦しみとか」
森山「ふっ。」
赤石「どうした?」

森山は赤石と白井に遺書を見せる。

赤石「解剖して下さい。って解剖フェチか!」
白井「これだけ?」
福島「びっくりでしょ?」
赤石「うーん。」
白井「どうしたの?」
赤石「意外にすがすがしいな。」
白井「その反応はどうかと思う。」
森山「では、ご遺体見せてもらってもいいですか?」
赤石「あっいや、やめた方がいい。」
森山「何でですか?」
赤石「見たらすごいショックでかいから」
福島「別にきれいな死体ですよ。」
白井「何事も経験よね。」
森山「じゃあちょっと失礼して。」
赤石「いやーやめとった方がいいよ」
森山「じゃあいきます。」

森山は顔の部分のシーツをめくる。

赤石「だーーー。」

赤石は担架を離す。
福島は赤石がいきなり担架を離したので腹を強打する。

福島「ちょっイタ」
森山「大丈夫ですか?」
赤石「俺マジ無理なんだって」
白井「前いけるって言ってたよね?」
赤石「言ってねえよ。俺ホント死体とか無理だから〜。」
福島「シュウ氏。腹強打した〜。」
赤石「ワリい。」
福島「ホント勘弁して下さいよー。」
白井「もう、私が持つから。」
赤石「ごめん。」
白井「いいから、ほら。」

白井と福島で持ち直す。

白井「じゃあ行こっか?」
福島「そっすね。」
赤石「気分悪い。」

白井と福島が担架を持って出て行く。赤石が後ろから追いかける。

森山「教授が自殺ですか。初っ端から幸先悪いですねぇ。」

森山は日記帳にメモをとる。

暗転


シーン4

次の日。
場所は中野研究室。赤石と白井が話している。

赤石「はぁ。」
白井「何?」
赤石「なんか最近ダメだ。」
白井「昨日のディスカッションのこと?」
赤石「いや、実験とか色々もう手詰まり。」
白井「そう。」
赤石「なんかもう向いてないのかとか思ってきた。」
白井「そんなことないよ。シュウは頑張ってるよ。」
赤石「意識論の実験さ。犬とかネズミとか使ってやらなきゃいけないんだけど、俺そういうの抵抗あるんだよな。」
白井「うん。」
赤石「まあ、それでも自分の目標のためにって、実験続けてきたけど。全然成果出ないし。もう限界。」
白井「そうなんだ。」
赤石「俺の言ってる理論って間違ってんのかな?」
白井「分からないよ。」
赤石「だよな。なんかもうどうしていいか分からなくなってきた。」
白井「そうなんだ。」
赤石「なんか今日はアヤも元気ないな?」
白井「うん。」
赤石「何か悩んでんの?」
白井「まあ。」
赤石「話してみ?」
白井「私、ここやめようかと思ってる。」
赤石「院を?」
白井「うん。」
赤石「何でいきなり?」
白井「前から悩んでて。」
赤石「そう。目標のことか?」
白井「前話したよね?」
赤石「ああ。母親のこと知りたいって。」
白井「うん。」
赤石「8年前に亡くなったとかって。」
白井「うん。話聞いてもらっていい?なんか愚痴みたいになっちゃうかもしれないけど」
赤石「ああもちろん。」
白井「私のお母さんさ。すごい研究者だったんだ。お母さんが死ぬまで私そのこと知らなかったんだけど。でも、すごい研究者ではあっても、決して私のお母さんではなかった。私お母さんのこと嫌いだった。今でもそう。ずっと許せない。お母さんが死生学勉強してる間、私一人だった。お母さん、勉強するときは書斎にいたんだけど、そのうち書斎から出なくなった。私まだ全然ちっちゃかったのに。」
赤石「ああ。」
白井「それでちっちゃい頃は一人でずっとパズルやってたの。中学生になってからも、ろくに口きかなくてさ。なるべくお母さんの存在を意識しないようにしてた。けど、ある日お母さんが倒れて、病院で死んじゃって。それでお葬式で初めて知ったの。お母さんがどれだけ世界に貢献したのかを。弟さんが死ぬまではずっと私のお母さんだったのに。何がそうさせたのか。どんな風に思ってたのか知りたくなって、それで。」
赤石「それで死生学勉強しようと思ったのか。」
白井「うん。でも、意味なかった。4年間必死に勉強したけど、お母さんの気持ちはまだ理解出来ないまま。」
赤石「ああ。」
白井「それでさ。もうお母さんのことで悩むのやめようと思う。」
赤石「やめるのか?4年間やってきたのに。他にやりたいこととかあるのか?」
白井「ないよ。」
赤石「じゃあさ。死生学で見つけねえか?他のやりたいこと。」
白井「どうだろ」

中野がやって来る。

赤石「教授。」
中野「何?」
赤石「相談いいすか?」
中野「相談。」
赤石「アヤが目標叶えられないってことなんですけど。」
中野「母親の気持ちを知る、だったかな。」
赤石「ええ。何とかならないすか?」
中野「私には何とも。本人の問題だから。」
赤石「いやでもアドバイスぐらいなら。」
中野「特にアドバイスもないよ。」
作品名:死生学研究科 作家名:黒木 泪