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死生学研究科

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中野「ああ、そうだね。私は中野 学人っていうんだ。元々は哲学の准教授だったんだ。ここには5年目。それぐらいか。」
境「そうですね。」
赤石「はい。じゃあここからゲストの紹介に移りたいと思いまーす。はいどうぞー。」
森山「え?えっと。」
赤石「はい時間切れー。」
森山「ええ!?」
赤石「じゃあゲストの紹介はまた今度ということで」
森山「ちょっとそれは」
赤石「冗談じゃん。」
森山「おどかさないで下さいよ。」
赤石「ごめんごめん。」
森山「…。」
赤石「ってしねえのかよ!」
森山「え?」
赤石「自己紹介やんだろ?」
森山「あっ、そうでした。しまった。」
赤石「ったく。」
森山「森山 小太郎です。趣味は読書です。皆さんとは仲良くしていきたいと思ってます。」
境「よろしくね。」
赤石「読書?ラノベ読む?」
森山「いえ。」
赤石「あーそっか。残念。」
森山「好きなんですか?」
赤石「おう。メグロほどじゃねえがな。」
福島「何自分は違うみたいな態度とってんですか?」
赤石「お前は生活の大半が2次元じゃん」
福島「シュウ氏は確実にこっち側の人間ですよ。」
赤石「んなことねえよ。」
福島「じゃあ昨日の深夜のアニメ何本見ました?」
赤石「え?5本だけど?」
福島「あれ?地上波だと深夜は4本じゃないすか?」
赤石「あー。うち有料アニメチャンネル取ってるから。」
福島「ああ、なるほど。カートゥーンすか?」
赤石「いや、アニマックスと両方。今、魔法少女が熱いんだよ。」
福島「あー。僕は断然、図書委員推しますけどね。」
赤石「いやー魔力のが熱いって。こう中からぐわーってくる」
福島「はー、それは分かりますけどねー」
赤石「だろ?やっぱ魔法少女だよ。あと無口な女子もいいよなー」
福島「あー大体思ってるキャラ分かりました」
赤石「マジで?」
福島「ええ。僕、再放送含めて週二十五本観てますから。」
赤石「うわー観るねえー」
福島「ネットの過去作品合わせると更に多いっすよ。」
赤石「へー今観てんので何が良い?」
福島「Angel Beats! とか。」
赤石「あーそれ観たわ。」
福島「あとはデュラララ!!とか?」
赤石「あーそれも観た。ってかメグロあんま過去作観てなかったんだ」
福島「まあ、前までラノベ中心でしたし。」
赤石「ほー。イエー、メグロに勝ってるとこはっけーん。」
福島「という風に僕と同等に話せるんですよ。」
森山「なるほど。」
福島「仮配属とはいえここにいる限りは二次元漬けですね」
森山「ええ?」
福島「ヲタクの世界にようこそですよ。」
境「安心して。中野研でもヲタクはあの二人だけだから。」
森山「あっそうですか。」
境「俺もアヤも4年間シュウといるけどアニメ好きってわけじゃないから。」
森山「安心しました。」

白井が顔を上げる。

白井「ふぅ。ん?」
赤石「やっと別世界から帰ってきた」
森山「アヤさん。」
赤石「何個クリアした?」
白井「いや、分からないよ。計算して数字打ち込んでるだけだから。」
境「集中し過ぎだよ。」
白井「そう?」
中野「じゃあ、そろそろディスカッション始めよっか。」
白井「はい。」
赤石「あっ、OKっす。」
中野「はいじゃあ準備して」
森山「ディスカッションですか?」
境「うん。みんなで死生学関連のことを議論し合うんだよ。これをやる目的は、他人と問答することによって、新しい価値観や思考を学べるってとこ。」
森山「はぁ。」
境「まあ実際にやってみれば分かるよ。」
中野「じゃあテーマは、自殺とは何なのかっていう広いテーマでいこう。発言はこう全体的にこう空気読んでいこう。」
赤石「はい。全体的にですね?」
中野「うん。じゃあいつでも始めていいから。」

中野は会話に耳を傾けながら書類に目を通したりサインをしている。

境「準備いい?」
赤石「おう。ばっちし。」
白井「うん。」
境「コタロー君も?」
森山「え?あっ、はい。」
境「なら始めよう。まず共通定義から。」
白井「自殺とは何なのかだから、対象物は人間。」
境「その方がコタロー君も話しやすいだろうし。」
白井「だと、あとは複合的に何について話してもいいって感じかな。」
赤石「おう。そだな。」
白井「じゃ誰からでもいいよ?」
境「じゃあ俺からね。人間誰しも死ぬことは怖いと思うんだよね。死の恐怖っていうのは苦しみなんだ。その苦しみから逃れる方法として、信仰とかがるんだけど、実際に死んでみるっていうのも一つの方法だと思うんだよ。死の苦しみに耐えるよりいっそ死を経験してみる。」
赤石「でも、それ恐怖したままじゃないか?」
境「ジェットコースターに乗ってみる感覚だよ。外から眺めてるより一度乗ってみる。意外と怖くないかもしれないだろ?」
赤石「まあ。」
福島「でも一つだけ違うのは、そのジェットコースターから帰ってきた人は誰もいないってことですね。」
境「それでも乗ってみたいって思うんじゃないか?」
高見「俺は死の苦しみよりは生の苦しみから逃れるためだと思うが。」
森山「生の苦しみですか」
高見「生きるっていうのは苦しみなんだ。死の恐怖に耐えるっていうのもあるが、人間関係や環境、責任や重圧。絶望。負の要素は色々ある。それに耐えきれなくなったとき、または耐えるのが嫌になったとき人は自殺するんだと思う。」
福島「それには同意っす。経済不況のときは自殺数が上がるそうですし。ね?」
高見「ああ。けど自殺数と不況はあまり関連性がないんだ。」
福島「え?そうなんですか?」
高見「高度経済成長期の自殺数が約2万5千人なら、バブル崩壊後は約3万人。増加はしたが、たかが1.2倍だ。」
白井「確かにそんなには影響されてないね。」
高見「どんな時代でも自殺するやつはいる。自殺好発年齢って知ってるか?」
福島「ええ。」
森山「何ですそれ?」
高見「死ぬことを考える年齢だ。五十代、それが自殺好発年齢。」
福島「五十代が一番自殺数が多いんですよ。」
高見「ただ、それが他人より早いやつもいる。生きていることが嫌になるやつが。」
赤石「分かんねえな。ちょっと頑張っただけで、人生はこんなに楽しいのに。」
高見「幸せで不幸は消えないと思うが。」
赤石「俺はさ。今生きてるだけで幸せなんだ。目が見えて、音が聞こえて触れられて。自殺するやつはさ、本当の不幸を知らないんじゃないかな?」
高見「赤石こそ本当の生きる苦しみを知らないんじゃないか?」
赤石「そんなこと」
高見「赤石は生き地獄って知ってるか?」
赤石「ああ。それが何?」
高見「小中学生にとってはいじめ。大人にとってはストレス社会。さらには借金苦や病気。生きるのはしんどいんだ。」
赤石「要は考え方の違いじゃねえか?どんな状況であれ希望は持てるんだ。」
高見「希望ねえ。」
赤石「俺はさ。天国って信じてんだ。」
高見「それは知ってるが。」
赤石「ああ。コタローのために言ってるんだよ。」
森山「ああ、どうも。」
赤石「俺はこのどうとでもない日々も苦しい日々も、全部愛しいって思えるからさ。」
境「どうして?」
作品名:死生学研究科 作家名:黒木 泪