死生学研究科
福島「僕も協力するっす。」
赤石「2人ともサンキュ。」
森山「これがどう転ぶのか興味あるので。」
福島「僕は単にエロゲ目当てですけどね。」
赤石「何でもいいよ。」
森山「じゃあ手分けして探しましょう。」
赤石「2人1組の方がいいんじゃねえか?」
福島「時間ないっすよ。」
中野「すまないが私も加わっていいかな?」
赤石「教授。もちろんです。」
森山「教授。」
中野「死なれるわけにはいかないんだよ。」
赤石「絶対見つけましょう。」
暗転
シーン9
場所は死生学棟の使われていない部屋。
境と高見がそれぞれパソコンの前にいる。
境「中野研から返信が来たよ。やっぱりアヤは速いな。」
高見「どんなメッセージにしたんだ?」
境「あとでクロスワード解けば分かるよ」
高見「ならそうしよう。」
境「ここまで長かったね。」
高見「初めて寿命が残り1年と聞かされたときは驚いた。」
境「いやそんなに驚いてなかったよ?」
高見「表情に出ないだけだ。」
境「ふーん。」
高見「2カ月後に寝たきりになるとは到底思えないな。」
境「医者が言ったんだよ。これでも相当無理してるんだから。」
高見「そうか。境には本当に感謝してる。」
境「こっちこそだよ。」
高見「サイバーテロは前からずっとやってみたかったんだ。境が誘ってくれたから実現したんだ。それにバレたときは身代わりになってやるなんて、好条件すぎるだろ。」
境「こんなこと出来るの高見ぐらいだからね。」
高見「まあな。これは俺たちの共同合作だ。」
境「そうだね。」
高見「けどそろそろ潮時だ。」
境「もうサーバーが復旧する頃かな。」
高見「反省点も見つかった。次やるときはもっと上手くやるさ。」
境「高見は活き活きしてるね。」
高見「まあな。さっさとここを出よう。データさえ壊せば、証拠は残らないんだ。」
境「まあ、そうなんだけど。」
高見「どうした?あと1年生きるんだろ?」
境「騙しててごめん。俺の寿命は、今このときまでなんだよ。」
境はナイフを取り出し、自分の腹部に刺す。
高見「境。」
境はナイフをさらに深く刺す。
高見は境の元へ駆け寄る。
高見「お前何考えてんだよ。」
境「ここまでやってやっと判るんだよ。幸せに死ぬ方法。」
高見「出血がひどい。」
境「なあ高見。」
高見「喋るな。」
白井「ここじゃないかな」(声のみ)
福島「境氏はいますか?」(声のみ)
高見「福島と白井か?」
境「高見が俺の証人。」
高見「境。」
森山「閉まってるんですか?僕が開けます。」(声のみ)
白井と森山と福島がやって来る。
白井「ユウ。」
福島「シュウ氏呼んできます。」
福島は出て行く。
境「アヤ。」
白井「どうして」
境「また会えるとは思ってなかった。」
白井「こんな怪我して…。」
境「シュウは来てないんだね。」
高見「福島が呼びに行ってる。」
白井「何でこんなこと?」
境「こうしないと判らない。」
白井「他の方法もあったよ。残される身にもなってよ。」
境「ごめん。」
白井「ねえユウ?今、幸せ?」
境「うん。幸せだよ。」
境は息絶える。
白井「ユウ?」
高見「境。」
赤石が息を荒げてやって来る。
赤石「汐也いたって」
暗転
シーン10
次の日。
場所は中野研究室。
赤石、白井、福島、高見、中野がいる。
白井「高見君はどうなるの?」
高見「学長が何とかしてくださるそうだ。」
白井「てことは、今まで通り?」
高見「そうはいかない。危険因子として四六時中監視されてる。」
赤石「なあ、汐也は幸せだったのか?」
白井「少なくとも充実はしてたとは思うよ」
高見「本人がそう言ってたんだ。」
赤石「そう。」
中野「境君は立派に生きたと言えるよ。生きるっていうのは目的じゃなくて手段であるべきなんだ。天寿を全うすることはなかったけど、境君はぶれない軸を持ってた。」
赤石「そうですね。なんだか汐也に勉強させられました。」
中野「そうだ。今の赤石君にぴったりな言葉がある。デーケン教授の残した言葉なんだけど、よく生き、よく笑い、よき死と出会え。これは死を乗り越えるための考え方なんだよ。本にもなってるよ。」
赤石「教授のオススメとあらば、さっそく読んでみますよ。」
中野「じゃあ後で貸すよ。」
赤石「いつもよりテンション高いっすね。」
中野「立ち止まってはいられないからね。」
白井「私も汐也の姿見てて、お母さんが必死に死生学勉強してた理由が分かる気がするの。私お母さんのことやっと許せるのかも。」
赤石「アヤ。」
白井「思い出したの。お母さんの口癖。ディスケ・クゥァシ・センペル・ウィクトゥールス・ウィーウェ・クゥァシ・クラース・モリトゥールス。」
赤石「お母さん何人?」
白井「言葉の意味は、永遠に生きるかのように学べ、明日死ぬかのように生きよ。」
赤石「なるほどな。」
白井「それに、やりたいことも決まったし。」
赤石「新しい目標?」
白井「ユウヤの研究の引き継ぎ。ユウヤが残したのは一つのデータでしかないの。それを私と高見君とで引き継いでいこうって。」
高見「そういうことだ。せっかくの重要なデータだ。最大限に生かすつもりだ。」
赤石「タカミィは汐也と同じ意見だったな。2人に継いでもらうのが汐也にとっても一番だろ。」
高見「必ず成果はあげる。」
赤石「汐也は愛されてんな。俺、今朝汐也の夢見たんだ。」
白井「え?」
赤石「あいつ夢の中でさ、後は任せたって言ってた。あと感謝も。たとえ夢でもさ、頑張ろうって気になるよな。」
白井「私も同じ夢見た。」
福島「僕も境氏の夢見たっす。」
高見「俺も昨日の夜見た。」
赤石「え?どういうこと?」
中野「私の夢にも出てきたよ。」
赤石「教授も?」
中野「ああ、謝罪しに来てた。」
白井「私もユウヤがありがとうって言いに来てた。」
高見「俺もだ。」
福島「あれ?僕はちょっと違いましたね。」
赤石「どんな夢だった?」
福島「たしか扉開けて、あっ部屋間違えた。って言って出て行きましたね。」
赤石「…。」
高見「福島。」
白井「メグロ君…。」
福島「何すか?」
赤石「つまり、みんなが汐也の夢見たんだよな? それって、汐也が死後の世界で生きてるってことじゃねえか?」
中野「どうかな。」
赤石「夢かあ。そうかそれが手掛かりか。まずはデータ集めだな。汐也の仲良かった人にあたって。あ、親父さんに高校の名簿とか貸してもらお。あと」
白井「燃えてきちゃったね。」
高見「毎度のことだ。」
中野「ところで、森山君はどこに?」
白井「今日は見てないです。」
福島「今朝バス停見かけましたね。」
中野「連絡が取れないんだよね。ちょっと見てきてくれる?」
白井「いいですよ。シュウ、行こ?」
赤石「俺の意識論は間違ってなかったんだよ。」
赤石と白井は出て行く。
暗転
シーン11
場所は昼のキャンパス。森山が電話で話している。