朝霧の中で・・・
あれ、ヤバい、泣かしちゃったかな?
座り込んだ恵子は「もう、バカ!心臓止まるかと思ったじゃない」と、顔を両手で覆ったまま言った。
「ゴメンごめん、ちょっと脅かしてやろうかな・・なんて」
「もう、ホントに驚いたわよ!ノブのバカ!」
可愛い顔で睨んでる恵子。
そして恵子が立ち上がった瞬間、体に巻いていたバスタオルがハラリと落ちた!
「イヤ〜!」
また、恵子はまた座り込んでしまった。
恨めしげに、ボクを見上げて「エッチ」と呟いた。
いや、これは偶然、不可抗力でしょ。
でも儲けた!
「ボク、タオルは落としてないよ?!でも、いいもの見ちゃった!」
「もう!いいからノブもシャワー浴びてきなさい!その間にご飯の用意しとくから」
胸のとこでバスタオルをきつく巻きつけながら、恵子が言った。
「ハイ、了解〜!」
ボクは、素っ裸のままで風呂場に行った。
軽くシャワーで汗を流して、またTシャツを着て短パンを穿いた。勿論、トランクスは穿かずに。
恵子は台所で夕飯の準備をしてくれてた。
「もう少しだけ待っててね。すぐに出来るから」
フライパンで炒め物をしてる恵子、後ろ姿が何かいい感じだったから後ろにそっと静かに近づいて脇の下から両手でおっぱいをまさぐった。
「コラ!ダメよ、火を使ってるんだから・・危ないでしょ?!」
「あっちでいい子にして待ってなさいね」
「ハ〜イ」
聞き分けはいいんだな、ボクは。
リビングにゴロっとして天井の蛍光灯を見ながら色々考えた、昨日からの展開を。
登山道での出会い、二人で苦労しながらも楽しかった下山、お互いの「ヰタ・セクスアリス」の告白、そして・・。
「こんな事って、あるんだな」
確かに、不思議と言えば不思議、出来すぎと言えば出来すぎな展開だったから。
仮に捻挫してたのが包帯(トモコ)の方だったら、多分、鎮痛剤を渡してボクはとっとと登って行ってしまってたかもしれない。
「お大事に!」なんてね。
「ひどいヤツだな、オレ」と独りごちた。
それ位、恵子は可愛かったのだ。
セミロングの髪にパッチリした目、スっと通った鼻筋、可愛い唇、そして何より素敵な笑顔。
背は多分、156位か?ボクが173だから釣り合いも悪くない。
年齢は仕方ないね、追いつけないから。
でも、半分バージンでコンプレックスに悩まされてた恵子を救ったのは間違いなくボクだった。
ここは、自負してもいいんじゃないかな?なんてね。
そしてボクも、目を開かれたんだから。
好きな人とのセックスの素晴らしさ、充実感、喜び。
「お願い、運ぶの手伝って〜!」恵子が呼んでる。
「ハ〜イ!」
「台所で立って料理してたら、また、痛くなってきちゃったのよ、右足」
「さっきまで、忘れてたのにね、痛いの」
「そうなの?」
「立ってると痛くなるのよ、もう・・」
きっと体重がかかるからだろうな、じゃセックスの時は?と言おうとして止めた。
恵子のしかめっ面が本当に痛そうだったから。
「はい、まずはこれ持ってって!」
大きなお皿に、豚肉と野菜の炒め物がのってる。美味しそうな匂いをさせて。
ボクがリビングのテーブルに置くと、「は〜い、今度はこれ」とまた呼ばれた。
お盆にお茶碗が二つと、お漬物とサラダがのっていた。
さっさと置いて「あとは?」
「これでおしまい」
今度は汁物だった。澄まし汁に素麺?が少し入ってて、野菜も入ってた。
テーブルに並べてたら恵子が冷えたビールを持ってきた。
「乾杯してから食べようね?!」
「うん!」異論なんてあるはずないし。
「カンパーイ!」二人で缶ビールをコツンと当てて、乾杯した。
「ふ〜、台所は暑いし、足はジンジンするし・・捻挫なんてするもんじゃないよね」
恵子は女座りをして、右足首をさすりながら言った。
いつの間にか湿布が貼ってあった。
「でもさ、恵子が捻挫したからボクら、今こうしていられるんじゃん?」
笑いながらボクが言うと「それはそうなんだけどね」と苦笑した。
「本当の怪我の功名ってヤツだよ、この場合。恵子には悪いけどさ」
「まぁね、じゃ痛いけどこの際、感謝して我慢しようか」
「そうして貰えると、ボクも嬉しいな!」
二人で笑った。
豚肉と野菜の炒め物には、玉ねぎがたっぷり入ってた、ボクの大っ嫌いな!
だから、暫くは睨みあいが続いたんだが・・。
「あら、嫌いなもの何か入ってるの?」
「あ、そんな事ないよ、頂きます!」
心の中で「あ〜玉ねぎだ・・」と唸りながら食べた。
ビックリした、美味しかった!少しでも玉ねぎの存在を軽くしたくて、豚肉とキャベツと一緒に食べたら・・美味しかったんだな、これが。
それまで嫌いだった、あの独特のシャリシャリ感までがいい感じだった。
それに甘くて。
「美味しいね、これ。何て言うの?」
「名前?知らないわよ。豚肉とキャベツと玉ねぎを適当にごま油で炒めて、少しお味噌加えただけだから」
「うん、おいしい!」バクバク食べた。
やっぱり、好きな人が作ったものなら、嫌いなものも食べられるんだ。
サラダも美味しかった。
レタスの上にトマト、キュウリの輪切り、その上にゆで卵を細かくつぶしたみたいなのがパラパラとかかってて黄色と白と緑と赤のコントラストが綺麗だった。
そして、酸味の効いたドレッシングがかかってた。
「このサラダも初めて見た。これ、卵?」
「そう、ミモザサラダって言うの。ミモザのお花の黄色と白に似てるからですって」
「へぇ」
何か、お袋さんの料理とはかなり違うぞ!
「このお汁は?入ってるのは、そうめん?」
「あ、これはね、うちの方では時々素麺をこうしてお汁に入れて食べるの。ほら、暑くなると普通の素麺もいいけど続くと飽きるでしょ?」
「そんな時にね、こうしてお汁に入れるとまた感じも変わるじゃない?」
これも初めてだった。そして美味しかった。
「福島って言ってたから、もっと味が濃いのかと思ってた」
「何か、すごく上品だね、お汁の味付け」
「だって夏だし、おかずの味が濃いでしょ?油に味噌だから。お汁はさっぱりしないとね」
そうか、そういうもんなんだ、料理って。
いいぞ〜、年上の彼女!料理も・・・も最高だな!
美味しかった、本当に。
バクバク平らげてボクはご飯を三度お代わりした。でも同時にちょっと焼き餅を妬いていた。
「ご馳走様でした。おいしかったよ、お腹いっぱい!」
後ろ手にそっくり反って、右手でお腹の辺りをさすりながらボクはゴロンとして言った。
「もう、牛になっちゃうよ?食べてすぐ横になると」
恵子は笑いながら食べ終わった食器をお盆に載せた。
「あ、いいよ、足痛いんだから運ぶよ」
ボクは起き上って、恵子の手からお盆を奪った。
「有難う!優しいね、ノブは」
「いいえ、どう致しまして」
ボクは食器を台所の流しの洗い桶につけて、洗った。
「いいよ、後でやるから置いといて?!」
「大丈夫、恵子は作ってくれたんだから後片付け位はやらせて!」
「有難う」
水仕事をしながら恵子に背を向けて、ボクは思い切って気になってた事を恵子に聞いた。
「ねぇ、恵子、聞いてもいいかな?」
「何?」
「さっきの、ボクが使ったお茶碗、前の彼氏の?」