朝霧の中で・・・
まずは、数学。数1と数2bの教科書を引っ張り出して、曲がりなりにも復習を始めたのだ。
やってるうちに何とか思いだしてきた。
だってここ一年、真面目にやってなかったからね、文系に数学は必要ないもんだったしさ。
結局、夜中の2時位まで頑張った。
「ふ〜、風呂でも入って、寝るか。今日のところは」
風呂から上がって、自分の部屋に戻った。
布団を敷いて・・・思い出しちゃったのだ、刺激的な夜を。
恵子の体、声、可愛い顔・・・唇の感触、おっぱいの柔らかさ・・・。
初めてエロ本等のおかず無しに、好きな人・・恵子のことだけを思ってオナニーして、ボクの長い濃い1日は終わった。
第八章 駿河台
翌日の午前中、ボクは駿台予備校に向かった。
お茶の水で下りて、駿台はすぐに分かった。
ビルの一階の受付に行って、事務の女の人に声をかけた。
「済みません、高三なんですが、理系の午前部に入りたいんですけど・・」
「・・・え?」
受付のお姉さんは、怪訝そうな顔をした。
「アナタ、現役でしょ?」
「ハイ、そうですが・・」
「高校には通ってるんですよね?それとも退学するんですか?」
「いいえ、通いますよ、勿論」
ん・・・?何でそんな事聞くの?
「現役の高校生は、理系の午前部には入れませんよ?!」
「だから、来月末の編入試験に合格すれば入れるんですよね?」
しばし、沈黙・・・。
「あのね、現役生は、ここから少し行ったところの、現役館と言うところで授業を受けるんです」
「じゃ、そこの午前部に・・・」
「お終いまで聞いて下さい。高校生は、昼間は学校があるでしょ?」
「だから、現役館で午後6時からのコースなんです」
「分かりましたか?そこには、午前部は無いの。だからアナタは入れない・・ということ」
尤もである。
話しが噛み合わないのも当然であった。
なんだ、理系午前部って基本的には浪人生のためのクラスだったんだ。
親父も人が悪いんだから。
きっと午前部に入れれば、医学部はカタい・・って有名になってしまったから、勘違いしたんだろうな。
「失礼しました。了解です」
「では、そこに医学部向けのコースもあるんですね?」
「はい、理系クラスが段階別に分かれてますから、試験の成績で・・・」
「因みに、どのクラスに入れたら、来年の合格が見えてきますかね」
「ま、本人の頑張りが全てじゃないですか?」
「では、パンフレットをひと揃いお渡ししますので」
あくまで、事務はやはり事務的であった、当たり前か。
駿台予備校の紙袋を抱えて、ボクはサバンカンを目指した。
サバンカンはすぐに見つかった。
茶色いレンガ貼りのビルで、幅がやけに狭かった。
「そうか、サバンカンって、茶蕃館って書くのか・・」
入口のドアを開けると、カウベルがカランカラン・・・と鳴った。
右手にレジ、奥に向かってテーブル席が7つ並んでいた。
入口は狭かったが、奥行きのある店だった。
「いらっしゃいませ」
蝶ネクタイの店員に軽く会釈して、レジの前にあった階段を地下に下りた。
地下も一階と同じ様な造りだったが、恵子の言った通り、客は男が一人、空いていた。
ボクは一番奥の席に座った。ボリュームは小さめだったが、昼間なのにMJQが流れてた。悪くない・・・ね。
「何になさいますか?」お絞りとお水を置いて、ウエイトレスのお姉さんが聞いてきた。
「お腹空いたな」
メニューを見ると、ホットケーキがあったので、迷わずホットケーキとアイスコーヒーのセットを頼んだ。
あの、溶けるバターにメープルシロップをかけて・・思わずゴックン!であった。
腕時計を見ると、まだ12時には間があった。丁度いいや、恵子が来るまでホットケーキを食べながらパンフレットを見ようっと。
程なく、ホットケーキとアイスコーヒーが来た。
結構美味しかったから、一気に食べてしまった。
アイスコーヒーも、恵子に淹れて貰ったヤツほどではなかったけど、ガムシロップを入れなくても美味しく飲めた。
「今まで甘くしてたのは失敗だったんだな」
何となく自分が大人の仲間入りしたみたいに思えて来て、思わず笑ってしまった。
「やっぱ、単純だな、ボクは」
パンフレットを袋から取り出して、眺めていた。
色んなコースがあって、どれにしたらいいのか真剣に考えていたら「待った?」と恵子の声が、頭の上から聞こえた。
「ううん!」
見上げた恵子は、会社の制服なんだろう、細い縞のブラウスにグレーのベストを着て、どこから見ても素敵なOLさんだった。
「暑いね、今日も!」
恵子は向かいに座って「何食べたの?」と聞いてきた。
「お腹空いちゃったから、ホットケーキ食べたよ」
「美味しかった?」
「うん、おいしかったよ!」
恵子は・・・やっぱり可愛かった!見とれてしまってた。
「私もそれにしようかな・・・すいませ〜ん!」
恵子もホットケーキとアイスコーヒーのセットを注文した。
そして「ふ〜、走ってきたら、汗かいちゃった・・・」
と、冷たいお絞りを首筋に軽くあてて、微笑んでいた。
「すぐに分かった?ここ」
「うん、分かったよ。いい感じの店だね」
「でしょ?!けっこう美味しいよ、ここのコーヒー」
ボクはと言えば、バカみたいに恵子を見つめていたから、恵子はくすぐったそうに「何、ジロジロ見て。制服、珍しいの?」
「ううん、綺麗だな・・って見とれてた」
「もう、まだお昼なんだから、からかわないの!」
違うんだな、恵子さん。
男ってね、好きな女の人の違った姿って、凄く魅力的に見えるものなんだよ。
「だって、可愛いんだもん、恵子」
「バカ」
笑ってる。やっぱり恵子は最高だった。
「で、どうだった?予備校。行ったんでしょ?」
「うん、行ってきたよ。でも、恥かいちゃった・・・」
ボクは、駿台の受付での遣り取りを恵子に話した。
「あはは、そりゃ、受付の人も驚くよ。いきなり高校生が浪人生のクラスに入れてくれって来たらね」
「だね、全く赤っ恥だったな」
ま、いいさ。取り敢えずはこの夏、思いっきり勉強して秋には理系クラスのいいとこに入らなきゃね。
「恵子は、お昼まだだったの?」
「そうよ、早くノブに会いたくてダッシュで会社飛び出してきたんだから・・足まだ痛いのに!」
「あ、大丈夫なの?まだ腫れてるの?」
「うん、大丈夫よ」
足首をさすりながら言った。
「でも会社出る時にね、トモコがニヤニヤしてたけど・・」
クスっと笑う恵子。
「え、トモコさん、知ってるの?ボクらのこと。全部?」
「大体、話しちゃった!だって嬉しかったんだもん、ノブとのこと」
ま、一番恥ずかしいことからバレてたんだから、今更恥ずかしがることもないか。
「トモコさん、何か言ってた?」
「うん、面白がったり不思議がったり。そんなコトってあるんだね〜だって」
「ノブの事も言ってたよ。お気楽そうな坊っちゃんに見えたけど、それなりに悩んでたんだ・・ですってよ、ノブ!」
全く、お気楽そうで、悪うござんしたね!
ま、確かにお気楽な坊っちゃんなんだろう、ボクは。