【第六回・伍】茶柱の心
「まずは何から話せばいいのだ?」
迦楼羅が胡坐をかいて床に座ると京助、乾闥婆そして緊那羅も腰を下ろした
「ってかまず何から聞けばいいんだ?;」
京助が迦楼羅に聞く
「聞きたいこと沢山あるみたいだっちゃね;」
緊那羅が苦笑いをした
「そりゃそうだろ; いくら俺が細かいこと気にしないってもさぁ…ねぇ? 空飛んだり水操ったりいきなり消えたり…」
京助が指折り数えて言う
「弟に妻ができたり?」
「そうそう…って…お前等なぁ;」
京助が振り返ると悠助と慧喜が買い物袋を手に部屋に入ってきた
「ただいま~!! けんちゃんかるらんいらっしゃいー」
悠助が笑顔で二人に手を振った
「おかえりなさい悠助」
乾闥婆がにっこり笑顔を返した
「やっと話すんだ?」
慧喜が迦楼羅を見た
「…少しだけだがな…」
迦楼羅(かるら)が表情を曇らせた
「【上】に何か言われた?」
慧喜が言うと迦楼羅が小さく頷いた
「…じゃぁ話すのもう少し待ったら? …お二方もここに来ると思う」
慧喜が上着を脱いだ
「先、越されたね」
矜羯羅が机の上に腰掛けて微笑んだ
「…うだね…」
制多迦が壁に背を付けてそのままずるずると床に座った
「お前たちも【上】に…呼ばれたようだな」
迦楼羅が言うと制多迦が頷いた
「おっし!! 面子もそろったし…話してもらおうか」
京助が膝をパンっと叩いて言った
「何から?」
「何からです?」
その京助の言葉に対して乾闥婆と矜羯羅が同時に聞き返しそして顔を見合わせるとお互いににっこりと微笑んだがどこか怖い
「…; …一番何を聞きたいのだ京助」
迦楼羅が京助に聞く
「…じゃぁまず…【時】ってやつから…」
京助が迦楼羅を真っ直ぐ見て答えた
「…いきなり核心か…まぁ…いいだろう」
迦楼羅が一呼吸おいて口を開いた
「【時】というのはだな…その…なんだ…【時】だ」
「わかんねぇよ」
迦楼羅が言うと京助が突っ込んだ
「【時】というのはいわば一種の境目です」
乾闥婆が言う
「境目?」
京助が迦楼羅から乾闥婆に視線を移した
「そう…そしてその境目である【時】がきて…これからが決まるんだ」
矜羯羅が付け足した
「…わかったか?」
そして迦楼羅が締めた
「…いやお前説明してないし;」
京助が迦楼羅にすかさず突っ込む
「ってぇとアレか? その境目である【時】が来たときに何かやってこれから…がどうなるか~ってのか?」
京助が頭でまとめながらブツブツ言う
「【時】に関して答えられることは今はコレくらいです」
乾闥婆が言った
「…他には?」
矜羯羅が頬に手を当てると腕の輪がカチャリと鳴った
「他…他…;」
京助が次に何を聞こうか必死で考えている
「もう終わりか?」
迦楼羅が言った
「終わりじゃねーけど聞きたいことテンコブリモリでどれから聞けばいいんだかわっかんねーんだよ!!;」
京助が怒鳴った
「慧喜さんとかとかるらんとかってどこからきたの?」
悠助が慧喜の膝の上で言うと視線が悠助に集中した
「【天】です」
「【空】だよ」
乾闥婆と矜羯羅の言葉が重なると両者再び(どことなく怖い)笑顔をかわした
「…別々なのか?」
京助がボソッと言う
「…う。僕と矜羯羅と慧喜は【空】から迦楼羅と乾闥婆と緊那羅は【天】からココに来てる」
制多迦があくび混じりに言うと矜羯羅が制多迦の頭をどついた
「ぶっちゃけ…お前等って敵同士なのか?」
京助が言うと悠助が体を捻って慧喜を見た
「慧喜さん…」
眉毛を下げた悠助の頭を撫でて慧喜がにっこり笑う
「今は敵同士じゃないよ悠助…だからそんな顔しないで?それにもし悠助が【天】にいっても俺は悠助の味方だから」
慧喜の言葉に安心したのか悠助が笑顔になる
「【今は】って…なんだよ; ってか俺らも関係あんのか?」
京助が悠助と慧喜のバカップルぷりから何気に目を逸らして迦楼羅を見た
「貴方たち…京助と悠助は【時】の…そうですね…例えるならば【時】を鍵のかかった扉として…京助と悠助はその扉を開ける【鍵】ということにしておきましょう」
乾闥婆が説明する
「君たち二人どちらかが【天】でどちらかが【空】の鍵になる…」
矜羯羅が付け足した
「…京助…私が初めて京助に会ったとき言った事覚えてるっちゃ?」
緊那羅が京助に聞いた
「覚えてると思うか?」
京助が即答すると緊那羅が溜息をついた
「私は京助を【滅するもの】か【守るもの】かって言ったんだっちゃ」
緊那羅に言われてしばらく考え込んでいた京助が思い出したように顔を上げた
「ああ! そういやそんなこと…ってか待てよ…滅するってことは…【滅する】の【滅】って【消滅】の【滅】だよな?」
京助が聞くと迦楼羅が頷いた
「もしもだ…もしも京助…お前が【空】側の鍵とわかったらワシ等【天】は【天】の鍵である悠助を守りつつ…」
迦楼羅の声がだんだん小さくなっていく
「…【空】の鍵のお前を…」
小さな声なのに部屋の中に迦楼羅の声が響いた
シン…となった部屋の思い空気が流れる
「…慧喜さん…あの…僕…」
その空気に耐えられなくなったのか悠助が慧喜を見た
「…大丈夫…」
慧喜が精一杯の笑顔で悠助を抱きしめる
「悠助は俺が守るから…大好きだよ悠助」
小さく慧喜が言った
「京助…私は…」
そんな慧喜を見ていた緊那羅が京助に声を掛けた
「私は…っ…」
パンッ!!
作品名:【第六回・伍】茶柱の心 作家名:島原あゆむ