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はちみつ色の狼

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22 Sunday.





「・・・・何の騒ぎだろうね?!?」



ルイスの言葉の意味も解らずに今日も空は晴れだなぁとかぼんやりと考えて空を見上げながらドアに肩から突っ込んだジャン。
開かないガラス製の扉におもいっきりぶつかって思わず顔を顰めた。
がんと大きな音。


「いっってぇな!なんだっ・・ぁあ??」


そして、顔を顰めたと同時に思わずぶち当たった肩を押さえる。
何時もなら肩口で押すくらいの力で簡単にふわりと開く筈の扉。
だが今日は、それに押し返されたジャンは不機嫌そうな表情を浮かべて自分をはねのけた原因であるガラス扉の向こう側にキツい目を向ける。
が、その目は直ぐに丸い驚いた目へと変わった。


「・・何の日だ?セールか今日は?」


明らかに、そんな事はありえないと解っていながらも、そう思わずにはいられない程の人数が目の前のガラス扉の前にもごった返している。
大げさに言うとするなら、ガラスが人の鼻息で曇る勢い。

・・・開かない訳だ。

扉がこの理由で開かなかったと納得せざるを得ない状況ではあるが、なんでルイスはなんか一言言わない。
危ないよとかっ、前を見て歩けよっだとか、子供じゃあるまいし、話に夢中になるなんて少尉らしからぬ行動だね・・、とか。
このルイスなら口からかなりの頻度で出る(考えただけで、)むかつく言葉での諸注意が無かったのは、少しだけむかついた。
いつもなら言うくせに、今日はなんで言わないのかものすごく不本意だ。
隣にいる筈のルイスを少しだけ睨もうとするが相手にはされる事は無く、当の本人はと言うとさっさと扉の前に立つ兵士にごめんねと一声掛けて扉の中へと入っていく。


「おいおい!!ちょっ、ルイス待てって!!」


急いでルイスの後をついて行くジャン。
ルイスはすいっすいっとすり抜けて行くのに対して、ジャンは目の前の障害物にいちいちぶつかり、ごめんと小声で歩いていく。

本気で何の騒ぎだ?
ようやくたどり着いたのは、そこに溜まっていた人間の視線の先。
平日の就労時間だと言うのに廊下には数十人の人が一方を向いていた。

それはいつもの掲示板。

濃い緑のフェルト状の掲示板には日常作業変更のオレンジの貼り紙に、青色の大きな貼り紙である毎度の仕事のシフトが張り出されている。
たまに医務室のジン・ソナーズの転任の時のようにピンクの貼り紙「人事情報」なんかの時は人だかりが出来るのは、ただの物珍しさからであろうが、今回はどうも違うようだ。
昨日と違うのはその中心にある、貼り紙。
人だかりはある意味、奇妙なものであった。
何だ何だとそこに視線をやると黄緑の張り紙がされていた。
ルイスは、その掲示板から程よい距離の壁沿いで足を止める。
そして、ジャンも同じくその横で足を止めた。


「へぇ、黄緑って珍しいね。」


自分の顎の下に手をやって、少しだけにやりと笑いながら口を開くルイス。
ルイスのその言葉を聞き、ジャンもそのルイスの視線の先にある掲示板へと視線をやる。
そこにはルイスがいった通り、黄緑の貼り紙があった。
ざっとみると貼り紙は小さな四角の薄い黄緑色の紙で、一番上に日付、そして内容、その一番下には決定された部署が入っている。
これは、かなり珍しいといっても過言ではなかった。
色からして、「特別演習召集」の類。
簡単に言うと、その召集者は、旅行がてらの演習で日給まで貰える系の演習。
これ系の演習は年に一度秋か春に有るが今の時期はまれだった。
そして殆どの場合は、中央の人間が決めるものである。


「それで、なんて書いてあるのさ?ジャン?」


背の低いルイスは壁ぎわにいて人に埋もれる事は無いが掲示板を見る事は出来なかったようだ。
本人は、別段背伸びをする訳でもなくいつもの用にジャンに頼む。
軍に入った時から殆どの人間が、自分よりも背が高い分その扱いにも慣れているようで、こういう事にはよくジャンが言いように使われることが多々あった。
まぁこんな事で恩着せがましくしよう等とは思わないけどね。
さて・・、


「ああ、ええっと内容はなぁ、・・昨日捕まったテロリストの移送、・・・・いそう?」


ジャンは読みおわった後に思わずルイスの顔を見る。
同じように驚いた顔でこちらを見ていたルイスと目が合った。


「なんか、これって結構ヤバい系な響きがするんだけど、それって僕だけ?」
「俺にもそう思えて仕方ねぇんだけども、・・一応中央からは少尉クラスが同行ってあり。」


貼り紙にはこうあった。
中央の軍人が身柄の保護をしにくるのでこちらからも救援がてらの演習要員を求むと連絡され、一応の人数合わせとばかりに新人研修がてらに人を募るとの事。
明らかにその要因は、新入隊員の事を指し示しており、それは21かそこらの若造って事である。
21歳で若造で世間知らずではない奴も居るには居るかも知れないが、それはごく少数。
何人もの死人が出た緑の遺体の犯人の移送、新人研修にしては荷が重すぎると感じるこっちとは裏腹に、新人は手柄を挙げたいと言うのがありありと見えて、皆が浮き足だっている。
中央からは少尉クラスが三名と新人研修組が二人。
そんなにゾロゾロとしていたら隠密行動にもならないとジャンは思ってはいたが口に出す事は無かった。
あっちはあっちの遣り方が有るのは知っているつもりだ。
募るのはいいとしても皆が皆落ち着いて冷静に行動出来るかは疑問である。
今この掲示板の貼り紙を見ているほとんどが、明らかにその演習を楽しみにしてウキウキしているように見えてしょうがない。
応援ついでに中央での観光でも楽しみにしているようだ。


「・・それにしても、中央なんてなんも無いところ、行って楽しいのかねぇ?」
「・・・なんか言った、ジャン?」
「いぃや、なんでも。」


思っていた事が思わず口から漏れた。
はははっと苦笑を漏らしながら視線をルイスの方へと戻すと、ジャンのその言葉には別段興味も示さずに、そのまま顎に手をやって考え込むように俯くルイスがいた。
彼の言いたい事はだいたい想像がつく。

『エレノア大佐とエバ中佐は、何を考えているんだろうね?』だ。
彼は結構、あの二人に対して冷たい。大佐と中佐という身分と言うことも有るからなのだろうが、ルイスは結構言いたいことを言う。
まあ、今回に関しては、ジャンもその意見に賛成せざるを得ないのだが・・・。


「そろそろ、行く?」
「・・あ、うん。そうだよね。」


ジャンは、ここにずっと居てもなんだろうと行くべき方向へと指を指す。
その先には、隊の部屋がある。
ルイスは、ジャンの言葉に弾かれたように表情をいつものように笑顔に戻すと壁沿いに歩き出した。
ごめんね、ごめんねぇと二人は、端を歩くことを意識しているのだが、なにぶん人が大量に居ることで歩くことを阻止される。
最初の笑顔からは一転、先ほどからの延長戦で心ここにあらずのような表情へと変化させていたルイスであったが、今は眉間に皺が寄っている。
あ、こりゃあやばいね・・。
ジャンは、肩を少しだけ上げてあちゃーと顔に手をやった。
まぁまぁと収めようとするジャンの意識とは裏腹に、ルイスは前に進めない事への苛立ちから目の前を睨みつけている。

作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央