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はちみつ色の狼

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昨日いつものタバコの変わりに買ってしまったメンソールは、やはり不人気だったのか今は消え去っていた。
いまはその場所はキラキラ光る緑の蛍光色の目立つタバコに変化していた。
乙女に好まれそうなメンソールライムと書かれたパッケージにはレモンライムの絵が描かれていた。
最近はストレスを溜めている女の子達が、タバコに走るのかね?
タバコを吸うとか吸わないで別段どうとか、判断しようとも思わないが。
まあ正直、自分の彼女が目の前でぷかぷかとタバコを吸っている姿は、あんまり関心しないなぁと思わずにはいられない。
これって、男尊女卑なのかね・・?
ジャンは、頭を少しだけ掻いて目当てのタバコのランプが赤く点滅していない事を確認する。
ポケットに入っていた小銭を投入し、間違わないようにボタンを押すとガタンと小箱が落ちてきた。

やっぱりいつものがいいよねぇ。
出てきたタバコを取り出すとビニールを早速剥がして、タバコを一本唇に挟んだ。
そのままポケットに入っている筈のライターを弄るがそこには目当ての物は無く、それでも吸いたくなってしまったジャンは休憩室の扉を開いた。

ジャンはその扉を開けたまんまでジャンは中へと首を突っ込むが、そこには誰もいない。
そこには、くぐもった煙が渦巻いているだけ。
一歩部屋の中に進んだところで、ジャンは部屋の中にあった筈のライターを探しに掛っていた。
確かここには、車のライターのような備え付けのライターが大きな灰皿の横にあったような。
封筒を持ったままそちらの手で扉を押さえた状態で反対の手でライターを探す。
見た目には、お尻を突き出したような妙な格好で居る事だろうが、そんなこと気にしてられない。
というよりも、誰もこの周辺に人通りが・・・、


「・・・なにをしてるんだ、そんな格好で。」
「へ?」


後ろを振り返ると、そこには白衣姿で缶ジュースを大事そうに抱えたジンが背後にいた。
開けられた扉の中を覗き込むように見ているその瞳は、馬鹿なものを見ているような表情で。
誰も通らないと鷹を括っていたのに、それもよりにもよって、一番人を小ばかにしたような態度をする人間に見つかるなんて・・。


「あ、あの灰皿、いや、ライターを探していてですね・・っ、」
「扉くらい閉めてやれ、タバコの煙が外にもれる。ついでにその尻も引っ込めとけ、邪魔だ。」
「すんませんねぇ・・・、ってなんか用ですか?」
「・・ただ通りがかっただけだ。」


言葉のそのままに過ぎ去っていくジン。
そして、それを素直に見送るジャン。


「え、あ、・・・なんだ?あれ。」


残されたジャンは、ジンに言われた言葉の通りに扉をしめてライターのあるべき場所を見ると簡単に見つかった。
咥えたままであったタバコをそのままライターに近づけて火をつける。
ライターは元あった場所へと戻すと、ジャンはここぞとばかりに勢い良く煙を吸いこんだ。


「そういや、ブラックマンデーってか、・・・。」


一人事を言うたびに、鼻や口から漏れる煙。
ぽっかりとそしてゆらゆらと宙にさまよっていく。
ジャンは、それをぼんやりと眺めながら、誰かわからない男が言った言葉を反芻する。

本当に、一体なんの意味だろうか?

多分あの男は、「月曜日が嫌い」と言った本当にしょうもない意味で言ったのかもしれない。
それが証拠に、ジャンの足元には蹴られてできたへこみのあるタバコの長い灰皿が置かれている。

月曜日と言えば、明後日か、休みだったのに仕事になった日。
休み返上って点から言えば、俺にとってもブラックマンデーだな。


「でも、マンデーというよりもブラックサタデーかぁ?」


手の中にある封筒に、昨日の夜中のメンソールのタバコ、そして今日の休日返上。
ブラックサタデーの何者でもないなっと思いつつもう一度、深くタバコを吸い込むジャン。
何が起こるとも全く思わないが男の口からぽつりと呟かれたあの「ブラックマンデー」。
何かをカウントダウンする音が聞こえ始めたようにジャンは感じずにはいられなかった。


「しっかし、100%オレンジジュースっすかぁ??」


そして、軽く引っかかるのは手の中に大事そうに握りこまれたオレンジジュースの缶。
それには苦笑を浮かべるしかなかった。


作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央