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はちみつ色の狼

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慌てて引っ掴んでいたアキラの腕から手を放し少しだけ皺の寄った制服の腕部分をポンポンと申し訳程度に叩きながらもう一度、笑顔を向けて質問をする。


「それで、何事?」
「・・・あのですね、少尉・・。」

その小さくアキラにしては低い声は、この質問に対して拒絶を表しているのはすぐにわかるのだが、それで引き下がるような人間でもない。


「お前も俺とは長い付き合いだろ?俺は聞きたいことは聞くまでこの場は・・・、」
「離れないですかぁ・・?迷惑だな・・。」


嫌そうな表情を浮かべてアキラはそうはっきりと呟くが、すぐに自ら小声になってジャンの傍へとやってきた。


「ここだけの話、バイスを殺した生物テロリストの一人が投降してきたようで、」
「・・・・はあ?」


な、なんですと?
ジャンは、思わず間の抜けたような高い声を出してしまう。
それもそうだ、なんだって自分から投降する必要がある??
こんなおおよそ、一ヶ月の間捕まらなかったものを上手くいけば逃げおおせた物を・・。


「なんで、急に投降なんか?!」
「はぁ、そんなの知りませんよ。気まぐれなんじゃないんですか?逃げられないと思ったとか。」
「・・・。」


そんなことあるか??
口には出さないが、表情はありありとそう物語っている事であろう。


「まぁ、それはともかく舌を噛み切りそうだったもので猿轡を噛ませてあります。」
「猿轡ねぇ・・。」
「ええ、大人しく投降してきた割には、急に怖くなったみたいで。」
「へぇ・・って???!!投降した場所はここぉ??」

「だから、こんな騒ぎなんですよ!!!!」


わかってないなぁ!!!!っと一言だけ残して、アキラは先ほどと同じく先を急いで歩いていく。
アキラが何処に行く予定でそんなに急いでいたのかは知らないが、残されたジャンは驚いた顔のまま部屋の端に残されたままであった。

頭の中に沸き起こる?の文字。

自分が関わった事件がこんな風に急展開を見せるなんて考えてもいなかった。
昨日は十数名の被害者が出た毒ガス噴出遺体の身元が割れて、今日にはその犯人が投降??


「わけがわからん・・・。」


ジャンは、眉間に皺を寄せた。



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「・・しか〜し、この定期便の封筒をどうするかな。」


後ろ手に扉を閉めてぶつぶつと呟きながら、賑やかな情報部を後にした。
いつもの定期便の時間に書類を間に合わせようと苦手な報告書の作成と書類整理とに追われていたのに。
それが送れないとなると決裁に間に合うか、どうか?
まあ、書類入りの封筒をちゃんと用意出来ている自分が悪くはない。

それにしても、朝から何かを忘れているような・・・。
進めていた足をゆっくりと止めるジャン。
先ほどの情報部とは全く正反対に廊下は静かであった。
物を考えるには十分であるくらいに静かだが、こんな所で考え込むような大事な事でもないだろう。
忘れているくらいなのだから・・。


「でも、・・・なんだったっけか?」


首を捻ってみるが、何も考え付かない。
「そのうち、思い出すかな?」とジャンは、また足を自分の部屋へと進めるのであった。
たこ部屋に帰ってからする事は何があったっけかな?
報告書もやり終えたし、そういえば、明日から二日間の休みだっけ!!
忘れてたのは、これか?!
ジャンは手に持っていた定期便行きの封筒を大きな手の中で、軽く筒状に丸めてそれで頭をポンポン叩きながら自分のブーツの先を眺める。

でもそれじゃあないような気がするんだよなぁ・・。

なんとなく見つめたブーツの先は硬い物にでも当たったのか、蹴飛ばしたのか皮が少しだけ削り取られている。
茶色の皮から白い新しい部分が顔を出す。
これを見るたびに、新しいものが欲しくなってしまう。

「・・ん?」

俯きしょうもない事を考えながら歩いているジャンの方へと、廊下の端から走り込んで来る激しい足音。
視線を上げた先、つまりは廊下の一番奥から制服をかっちりと来た人間が走ってくる。
どんなに急いで居たとしても、上司に道を譲るのが後輩隊員だとどこかの上司が言ってたっけか?ジャンは、のんびりと思いながら少し遠めに見ながら廊下の横へとよける。
本気でよっぽど急いでいると見えて、激しく息を切らしながら走る兵士。
ジャンは、その顔に見覚えがあった。
きちんと第一ボタンまで着込まれた制服がまだ愛い愛いしい。
ブラウンアッシュの短めに刈り込まれ、高い身長に、キャメル色の瞳を持つ青年。

確か、あれは・・・・。
一回だけ、飲みに一緒に行った・・・・従兄弟の名前に良く似た・・・、

トロイだったっかな。
「あ、シルバーマン少尉!」

自分がその人物の名前を閃いたと同時に丁度、その人物が目の前に立つ。
ジャンは、自分の名前が呼ばれて正直びくっとした。


「ん?!・・・な、なに?トロイ。」


この名前であってるよな?と言う自分への疑いも有るからなのか、ジャンの声は少し裏返っていたように思う。
名前を呼ばれて感動しているのかそれとも違う理由があるのか、やけにきらきらと瞳を輝かせて見つめて来るトロイ軍曹。
まず人間、こう言う表情を浮かべる時は何かがある。
ジャンはうっすらと嫌な予感を感じる。
足を止めているのだから何かしらあるのだろう。


「・・・・・?」


だが、次の一言はなかなか出て来ない。

多分それは先ほどまで勢い良く走っていて、まだ息継ぎがうまくいってないからだろうか?
だが、荒かった息は収まり今は、もう普段の彼である。


「・・・大丈夫か?」
「は、はい。すいません俺最近タバコ吸い過ぎかな?体力が。」
「・・何歳だ、お前は・・。」
「21です。」


素直に返された言葉。
21にしては、「なんておっさん臭い事を言う奴だ・・」ジャンはその言葉に苦笑を浮かべながら、タバコの話題に急に吸いたい事を思い出した。
それと同時に思わず自分のズボンのポケットの中を弄ろうとするが、すぐに昨日の事を思い出す。
ああ、俺ニコチン切れだったよ・・。
忘れていても大丈夫なら「ニコチン切れ」とは言わないんだろうが、ただ忙しい時は吸うことも忘れてしまうのは性分だ。
しかも昨日着替えたばかりの一応綺麗なズボンで、いつも入っている筈のタバコの箱もライターも何もない。
あ、これか!!俺が思い出したかったのは?!
忘れていた事を思い出してすっきりとした。


「で、なんか用だろ?」


この会話が終わったらタバコ買いに行こう。
ジャンは、こっそりとそう思いながら彼の用事を尋ねる。
トロイは少しだけ苦笑を浮かべて、そうですねと呟くと言葉を続けた。


「えっとですね、実はエレノア大佐がですね、」
「ああ・・、」


すぐに気が付くべきだった彼の正式な所属先は、『執務室付き』なのだ。
彼が何か、用事があるとすればたいてい「エレノア大佐」の命。


「シルバーマン少尉直々に用事があるそうで、呼び出してこいとの事でした。」
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央