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はちみつ色の狼

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21 Usual day.






『グぐぐぐぐぐぐぐるるるるぅぅぅぅ・・・・。』


激しい音が狭い部屋の中に木霊する。
明らかに自分の体の中から作成された音。
それは所謂、腹の虫。


「・・・・・ふぁぁぁぁぁぁ。」


おお欠伸をしてベット脇にある筈の目覚ましを手探りで探す。
・・・つうか俺って、昨日はいつの間に寝たんだっけぇ?
瞳はぱっちりなんて開く訳がなく枕に押し付けられた状態で真っ暗。
口の端からは伝ってカサカサした涎が固まっていた。
ついでに大口開けて寝ていた性で口のなかは中がかなり乾燥している。
やっとの事で探り当てた目覚まし時計は、いつも起きる時間の10分前を指し示していた。


「っ・・・ねっ・・・むい。」


ジャンは、ベッドの上に普段の動作の約5倍以上遅いスピードで座り直す。
窓に掛けられた薄いカーテンから入ってくる太陽の光で照らし出されたジャンの格好は、裸の上半身と制服のズボン姿であった。
一応、自分の姿を見て首を捻る。
どんな状況で上を脱いで、ばたんキューと行ったのか全く覚えがない。

まぁここ最近の体力仕事で疲れてたからなぁ、玄関先で寝てないだけましなのか?
ははっと自分の行動ながら少しあきれた笑いが漏れ出す。
つい、いつもの癖でズボンのポケットを探るとそこから出てきたのは昨日のタバコ。


「・・ああ、これ。」


青い色にしっかりメンソールと表記された箱を眺めて、一度はゴミ箱入りを考えたが勿体ないが流石に吸う気も起こらない。

誰かにやるか?

昼頃にはタバコの自販機の補充もされているかもしれない。
手に持っていたその小さな箱を枕の方へ投げ捨ててそのままの体勢で、ズボンをおもむろに脱ぎ出す。


「さてと、用意、用意っと。」


同じく昨日つけられたままの腕時計を見ると、いつも用意して仕事へ出かけるよりは早くゆっくりとシャワー浴びて朝食を取るだけの余裕は残されていた。
ベットから立ち上がり床に散らばったシャツを拾い上げて脱いだズボンと一緒に纏める。
そのままシャワー室の前にある洗濯物の籠にそれらを押し込む。
無造作に押し込んだ先の籠は、思いのほか大量の洗濯物。

そういえば、最近洗濯する時間が無かったよなぁ・・・。

まあ、それは言い訳で洗濯するのがすごく面倒くさいというのが本心なのであるが。
昨日の朝から開かれたままのシャワーの扉から、みえる鏡の中の自分は、紺色と黒のしましまのトランクス姿に髭面。

さすがにこれでは、キッチンには立てないか。

少し金色の毛が生えた腹をポリポリと掻きながらジャンは、鏡の自分の顎を眺める。
金色だから見るに耐えないと言うわけでは無いが、髭が申し訳ない程度に生えて来ていた。
脇を上げて少し臭いを嗅ぐが別に激しくくさい体臭はしないが、昨日のヘドロ臭い匂いが微かにした。顔を思わずしかめて、呟く。

ついでに、髭剃りするかな?

最後の一枚、パンツを脱ぎ去るとそれも洗濯の籠の中に詰め込み、シャワーの中へと入っていく。
そして、後ろ手に扉を閉めてシャワーの蛇口を捻った。



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ボディソープは、すぐに泡立った。

シャワーの中で、昨夜から染み付いていたヘドロの匂いを落とし、湯気で曇った鏡を腕で擦りながらも器用に髭をそる。
いつも剃っているのだからそこまで長く生えていなかった。
以前はもしかするとそのまま髭を伸ばすのも、意外といけるのではないかな?と少しシャワーの中で考え込んだりもしたものの、その考えはすぐに消え去った。
自分の顔は、ものすごく父親似で母曰く、「それで髭が生えていたら、お父さんと見間違えるわ」だそうだ。
別に、父親が嫌いなわけでもないがそこまで好きという訳でもない。
そのまま全身から水を滴らせながらシャワーの扉を開いて外へと出ると、部屋の中がヘドロ臭い事に気が付く。
鼻がひん曲がりそうなくらいに、臭い。
どぶ川には、多分死んだ動物の死体でもういていたのだろうか?なんか腐った匂いもする。
ジャンは、鼻をつまんで眉間に皺を寄せる。

よくもまぁ、この臭い匂いの中で爆睡出来たものだと少しだけ自分という人間に感動した。

しかしこれはこの匂いの根源を経つ外はない。
匂いの元は、昨日着ていた服。
確かズボンのポケットには、ヘドロつきの軍手。
シャツは、ヘドロの撥ねが飛び散っていたのは、言うまでもないだろう。

ジャンはおもむろにそこら辺に落ちているビニール袋を探し出しその中にズボンとシャツをいれその口を力いっぱい縛ると、洗濯籠の横へと置いた。
そして、そのまま窓へと直行する。


「・・・っと、ちょっとまてよ!」


窓へと直行するはずが、急に元来た場所へと戻っていく。
そして、バスタオルを取り軽く頭を拭いた後に腰へと巻きつけてそのまま窓へと手を伸ばした。
さすがに裸で窓を開けに行く訳には行かない。
猥褻物陳列罪にでもなりかねないからな。
ジャンは、危ない危ないと小声で呟きながらも窓の桟へと手を伸ばした。
窓の桟はもうすでに熱くなっていて、外の気温を想像させる。
勢い良く開かれた窓から入り込む新鮮だが熱い空気。
外は、まだ涼しげな風が感じられるもののもうすでに暑さを増しており、むんとした熱気をまとっている。

窓の外にはもうすでに数名の兵士がなんの為なのか走って兵舎に向かうのが見えた。
その中の約一名が、こちらに注目をしているのに気が付き手を振ると振り替えされる手。
タオル巻いてて正解だな・・・俺。
苦笑を浮かべながら見た空は、真っ青で雲ひとつない。


今日も暑くなりそうだな・・。


ジャンは、そう一人ごちながら綺麗と思われるシャツと、ズボンをベットサイドのダンボールから探し出してそれをベットの上に置くと同じくダンボールから探し当てた新しいパンツを履きだした。

先ほどまで巻いていた腰のタオルをそのまま頭から被り、少しだけ宙へと視線をやる。
今、一番身体が欲求しているのは・・・、


「ぐぅぅぅぅぅぅ・・・。」


大きな腹の虫がここぞとばかりに鳴り響く。
ジャンは固目を細めながら自分の腹へと手をやり少しだけさすると、苦笑をした。
そして、目覚めて最初に考えていた通りに、ジャンはキッチンへと向かう事にした。




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一階の階段を下りたすぐの洗濯物を干すためだけに作られた中庭へと向かう通路の脇に大きな鉄の扉がある。
その扉を開けて、部屋を入るとその両端に銀色の長い調理用の台が並べられ、その上に所狭しと調理具が並べられたそこが寮のキッチンであった。

もちろん、共用ではあるが大きな業務用の冷蔵庫が二台と、大きな流し台、そしてコンロが5個とまるでどこかのレストランの厨房のような様相でもある。
作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央