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はちみつ色の狼

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ジャンはそんなしょうもない予想を立てながら、顎をぽりっと人差し指で掻きながらそこを通り過ぎて販売機の前に立つ。
暗い中、販売機の光だけが明るく輝き、ジャンの顔を照らしだす。
いつものタバコのボタンには赤い光が灯り、それが示すのは、今は売り切れと言う事。

あっちゃぁ・・、俺の好きなメーカーの売り切れっすかぁ。

ここで他のメーカーを買うか、外までわざわざ出ていってまで買うか。

自販機の前で葛藤を繰り返すジャン。

別に、タバコを吸わなきゃ死ぬとかどうとかと言う訳でもないのだけども、嗜好品はやはり無くなると口が寂しい。
ジャンはもう一度自販機のケースの中にある自分の好きな銘柄を確認するが、やはり何度見直しても無いものはない。
違う物は何度か試しはしたものの煙が不味いのやら、逆に味がうざかったりするのだ。
しかし、いつもの赤箱と同じ銘柄の物は薄い青箱のメンソールしかない。


「メンソール・・・ねぇ・・。」


自販機のケースの中の青箱をじっと見つめなおすジャン。

最後の一本を吸ってから長時間が経過して口が寂しいジャン。
その感情からか、思わずボタンを押してしまい、少ししゃがんで自販機の下から青箱を取り出した。
手の中には、青箱。前面には大きな文字でメンソール。

タバコは、タバコ。

そんな簡単な事を、いつも考える。
大抵はこんなとき。
めちゃくちゃタバコが吸いたいのに、好きなメーカーが無いのでこの際なんでもいいか?!と諦めて違うボタンを押すとき。
ただ、同じくは大抵はああ、失敗したぁと後から後悔するんだけど・・。

ちらりと視線の端に映ったのは、まだ光々と光り輝く喫煙室。
部屋の扉とタバコの箱を交互に見比べるジャン。


「よしっと。」


ジャンはタバコの箱を触りながら扉のノブへと反対の手を伸ばす。
中の人物はどうも盛り上がっているようで、たまにどこかを蹴る鈍い音が聞こえる。
多分本人は今の時間帯、ここに来る人物はいないだろうと鷹を括っているのだろう。
明らかに低いその声は、「ブラックマンデー」とつぶやいた。
なんの意味かはわからないが頭に残るその言葉。
声に聞き覚えが、なんとなくある。
しかし・・、


『黒い月曜日。』?


映画の題名かなんかか?
話なんか聞いて趣味が余りいいとは言えないかな?
まぁ、現実的に・・・月曜日ってぇと明後日か。

ジャンはドアから二歩前で立ち止まり、さっき買ったメンソール入りのタバコの箱を開ける。
その拍子に洩れだすミントの匂い。

タバコなのに、ミント?

わかっていながら買ったにも拘らず、この臭いは無理かもしれないと蓋をキッチリ閉める。
目の前には喫煙所の扉。
ジャンはゆっくりと回れ右をして、元着た道を戻って行く。
背後の男はかなりヒートアップしてきたようで有るが、吸うタバコの無いジャンには用の無い場所。

明日の朝一でタバコ買うかな・・。


「ふぁぁぁっ・・・・。」


一つ欠伸をしながら両腕を上げて伸びをする。
そして、ジャンはそのまま寮のある方向へと歩き出した。




作品名:はちみつ色の狼 作家名:山田中央